領空侵犯機は撃墜…できません! 初めて入ってきた中国軍機への“対処ステップ”とは

2024年8月26日、中国軍の情報収集機が初めて領空を侵犯する事件が発生しました。中国軍機による初の領空侵犯事案であるだけに多くの注目を集めていますが、ネット上では「これを撃墜できないのか?」という意見が散見されます。法的にはどうなっているのでしょうか。

中国軍機による初の領空侵犯

 2024年8月26日、中国人民解放空軍の「Y-9情報収集機」1機が、日本の領空を侵犯したと防衛省が発表しました。Y-9情報収集機は26日11時29分から31分頃にかけて、長崎県五島市の男女群島沖で領空侵犯を行ったとのことです。

 これを受けて、航空自衛隊は戦闘機をスクランブル発進させ、通告および警告を実施するなどして対応。侵犯機は領空の外に出ました。ちなみに、これまで中国の政府機関の航空機による日本の領空を侵犯する事案は発生していましたが、中国軍機によるものは今回が初めてとなります。

Large 240827 gekitui 01

航空自衛隊のF-15J戦闘機(画像:航空自衛隊)。

 ところで、今回の領空侵犯事案を受けて、ネット上では「中国軍機を撃墜できないのか?」といった内容の投稿が散見されました。実際のところ、こうした領空侵犯機に対して、自衛隊はどう対応しているのでしょうか。

 まず、大前提として、航空機が他国の領空内に許可なく侵入することは国際法違反となります。これは、領土および領水の上空に広がる領空には、その国の排他的な主権が及んでいるためです。そのため、そのような領空侵犯が発生した際には、地上から戦闘機を発進させ、警察活動の一環として侵犯機に対応することとなっています。

 日本の場合、こうした領空侵犯機への対応については法律の規定に基づき実施されます。それが、自衛隊法第84条です。

第84条 領空侵犯に対する措置
「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和27年法律第231号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」

 条文の内容は非常にシンプルで、国際法規または航空法その他の法令(航空法第126条や出入国管理及び難民認定法第3条など)に違反して、つまり無許可で日本の領空を侵犯してきた外国の航空機に対しては、これを自衛隊の基地などに着陸させ、または日本の領空から退去させるために必要な措置をとることができる、というものです。

「必要な措置」の内容とは?

 ここで気になるのは、「必要な措置」の内容です。過去の国会答弁に基づけば、(1)領空侵犯機の確認、(2)領空を侵犯している旨の警告、(3)領空外への退去または自衛隊基地等への誘導、(4)武器使用という、段階的な措置がとられることが自衛隊内の規則で定められているようです。

 そして、最後の「武器使用」というのが、今回話題となっている「撃墜」に関連する措置になります。武器使用とは、「武器を本来の用法に従って使用すること」で、相手に対して武器を向けた段階から開始されます。そのため、領空侵犯機が指示に従わない場合に行われる、相手機に照準を合わせない機関砲での信号射撃(警告射撃)は、武器使用には当たりません。

 上空を飛行する航空機に対して武器を使用するとなると、相手は撃墜されることとなり、当然乗員の生命に関わります。そのため、自衛隊では武器使用について慎重な基準を設けています。過去の国会答弁に基づくと、武器使用が許されるのは次のようケースです。

 一つは、領空侵犯機が自衛隊機の警告や誘導に従わずに退去せず、さらに自衛隊機に対して実力をもって抵抗してきた場合です。

 これに関しては、よく自衛隊機を操縦するパイロットの生命を守るための個人の権利である正当防衛として武器使用が許されている、という意味に誤解されがちです。実際には、自衛隊機が撃墜されてしまうとその後の任務遂行ができなくなってしまうため、それを防ぐために第84条を根拠に武器の使用が許されているという立て付けになっています。

Large 240827 gekitui 02

航空自衛隊のF-2戦闘機(画像:航空自衛隊)。

そしてもう一つは、国民の生命および財産に対して大きな危険が間近に迫っている場合です。たとえば、日本の領空を侵犯した爆撃機が上空で爆弾倉を開くなどした場合には、地上に住む国民の命に危険が差し迫っていると捉え、これに対して武器を使用することができるという整理が過去の国会答弁でなされたことがあります。

「命令あるまで撃てない!」はホント?

 このように、自衛隊機による武器の使用には厳格な基準が設けられていますが、原則として自衛隊機による武器使用はパイロット個人の判断で行えるものではありません。具体的には、対領空侵犯措置の司令塔である防空指令所にいる管制官を通じて、方面航空隊司令官などからの命令を受ける形で、パイロットが実施することになります。これは武器使用に限らず、たとえば信号射撃を含めた警告なども同様の流れです。

ただし、たとえば領空侵犯機が自衛隊機へ急に襲いかかってきた場合など、その許可を求める余裕がない場合などには、パイロット個人の判断で武器を使用することもできるというのが政府の見解です。

 また、武器使用の基準に関しては、近年の安全保障環境の変化に伴い、その内容の見直しが図られています。たとえば、2023年はじめに起こったアメリカ本土への中国の偵察用高高度無人気球の飛来を受けて、無人気球などが民間航空機の航路を阻害したり、あるいは墜落の危険性があったりする場合には、武器を使用することが認められるようになりました。

ジャンルで探す