警笛プ―――!! 海自艦&アメリカ艦の訓練に“招かれざる客”急接近 じつは「よくあること」?

9月の3連休、沼津市の沖合では日米合同の輸送特別訓練が行われていました。LCAC(エアクッション型揚陸艇)が上陸する迫力ある様子を見ようと見物人も多かったのですが、中にはボートで艦艇に近づく人も。危険な行為は「よくある」のだそうです。

沼津市の沖合で日米共同訓練を実施

 残暑が厳しい2024年9月の3連休の初日、晴天に恵まれた静岡県沼津市の片浜海岸には人が集まっていました。沖合には特徴ある揚陸艦の艦影が2つ見えています。1隻が海上自衛隊の輸送艦「しもきた」、もう1隻がアメリカ海軍の強襲揚陸艦「アメリカ」です。
 
 この海岸の一画にある沼津海浜訓練場は、輸送艦搭載のLCAC(エアクッション型揚陸艇)が上陸訓練を行う日本でも数少ない訓練場で、上陸時には迫力ある姿を見ることができます。

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海上自衛隊掃海隊群第1輸送隊所属の輸送艦「しもきた」と、エアクッション型揚陸艇LCAC(画像:PO(Phot) Si Ethell/MOD, OGL v1.0OGL v1.0, via Wikimedia Commons)。

 この日行われていたのは、四国沖から駿河湾を訓練海域とする日米揚陸艦による、マグニチュード7の地震発災を想定した災害対応訓練です。参加したのは第1輸送隊「しもきた」と陸上自衛隊水陸機動団の第1水陸機動連隊と後方支援大隊、アメリカ海軍第11水陸両用戦隊の「アメリカ」です。地震の津波によって被災した洋上遭難者を、両艦が共同して捜索救助する手順が確認されました。

「しもきた」と「アメリカ」は共に水陸両用作戦用艦ですが、特徴は異なります。「アメリカ」は排水量で「しもきた」の約3.2倍と、航空機運用能力が高いのですが、ドック型ではないためLCACは運用できません。「しもきた」はドック型でウエルデッキ(艦の内部に設けられた注排水機能のある乾ドックで、舟艇の発進、収容が効率的に行える)があり、LCACや水陸両用装甲車AAV7、小型舟艇を直接海面に揚げ降ろしできます。上陸作戦にはもちろん、海面捜索救助任務にも便利です。

 水陸両用作戦支援用の艦は、LCACやヘリコプターを運用できて艦内が広く、医療設備も充実して災害対応にも優れます。そのため「多用途艦」と呼ぶ場合もあります。2024年1月の能登半島地震の際は、「しもきた」の同型艦「おおすみ」が活躍しました。

救助者の処置手順は

 訓練で日米艦は、個別に分担してそれぞれが10km四方の海面を捜索。「アメリカ」はMH-60Sヘリコプター、「しもきた」はラバー製の小型ボートCRRC(Combat Rubber Reconnaissance Craft)を出しました。共同訓練とはいうものの両艦の距離は10km以上離れ、「アメリカ」の姿はうっすらとシルエットしか見えません。海は広大で晴天昼間でも捜索の難しさを実感します。

 CRRCは陸上自衛隊の水陸機動団が運用する上陸用の装備です。災害派遣でLCACは注目されますが、CRRCも小回りが利き高速で使い勝手は良いのです。

 要救助者を収容したCRRCはそのままウエルデッキに引き上げられ、救助者はエレベーターで医療室に運ばれます。艦橋構造物内の第1甲板レベルには手術室、歯科診療室、集中治療室(2床)、病床(6床)を備えた医療設備があります。飛行甲板から扉1枚でアクセスできるレイアウトになっており、水陸両用作戦で負傷した隊員をヘリコプターで収容、ただちに治療できるように考えられています。

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海岸からの誘導で沼津海浜訓練場に上陸するLCAC(月刊PANZER編集部撮影)。

 この訓練では救助者を「しもきた」で応急処置の後、より高度な医療設備を持つ「アメリカ」に移送するシナリオで、「アメリカ」のヘリコプターが着艦しました。「しもきた」艦内には海自の青色迷彩作業服と陸自の緑色迷彩作業服の隊員が混在して活動していますが、役割分担は明確で連携もよく、救助者の治療指揮は衛生要員の腕章を付けた陸自隊員が行っていました。

 ちなみに衛生要員の腕章は単なる標識ではなく、幕僚長らが発給するもので幕僚長印が押され、階級に関係なく保健衛生および医療等に関する指示を出す資格を示す重要なものです。公開されたのは災害対応ですが、日米の揚陸艦、海自、陸自が共同訓練を重ねて連携を確認し、本来任務である島嶼防衛を強く意識したものであることは間違いありません。

「しもきた」が長い汽笛を鳴らす!

「アメリカ」のヘリコプターが向かってくる訓練の終盤で、「しもきた」があまり聞いたことがないほどの長い汽笛を吹鳴しました。プレジャーボートが接近してきたのです。「しもきた」はヘリコプターを着艦させるため風上に進路を取って直進しており、回避できないことから警告を発したのです。

 プレジャーボートには国際VHF無線機など積んでいないことが多く、無線の警告は届きません。「しもきた」のマストには国際信号旗で「UY:本船は訓練中、近づくな」を掲げていますが、「そんなものボートの人は見ちゃいません。結局警笛しかありません」と隊員がぼやきます。

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マストに掲げられている国際信号旗「UY:本船は訓練中、近づくな」。見づらいからかプレジャーボートに効果は薄い(月刊PANZER編集部撮影)。

 3連休の初日で、富士山もくっきり見える絶好のレジャー日和になった駿河湾には、釣り船やヨットが点々と浮かんでいました。その中で輸送艦はひときわ目立ち、興味を引いても仕方がありません。近寄ってくる船はよくあるそうです。

 プレジャーボートは警笛が聞こえたのか進路を変えました。世の中が連休であっても、こうして日米の艦が非日常に備えて訓練していることを想起してくれれば、それはそれで意味はあるでしょう。

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