自衛艦イチ“クセ強”? 能登半島地震で爆速上陸した「水陸両用艇」の基地へ 「ここ飛行場ですか?」フネらしさゼロ!?

令和6年能登半島地震の救助活動で物資などを海上から輸送し、一躍脚光を浴びた自衛隊のフネが「LCAC」です。整備施設を見学すると、つくづくフネらしくなく、まるで飛行機のようでした。その「クセ強感」に迫ります。

搭載されるけど独立した自衛艦

 海上自衛隊が運用する特殊な自衛艦のひとつに、エアクッション艇(LCAC: Landing Craft Air Cushion)が挙げられます。民間でいうところの「ホーバークラフト」であり、その高速性と水陸両用性から災害派遣でも運用。2024年の年始、能登半島の被災地海岸に、資器材を満載し轟音と水しぶきを上げながら高速で接近して乗り上げてくるLCACの姿は記憶に新しいところです。

 荷物を載せて高速、水陸両用という万能にも見えるフネですが、実はかなり「クセ強」な特性を持っています。

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エアクッション艇LCAC(画像:海上自衛隊)。

 LCACは輸送用艦艇としては輸送力が少なく、航続距離も短いため、燃費などコストパフォーマンスは決して良くありません。扱いも難しく、軍用として配備している国は意外と少なく、アメリカ、韓国、中国、日本などがドック型揚陸艦や強襲揚陸艦と組み合わせて使用している程度です。イギリスやロシアは、小型のエアクッション型揚陸艦を単独で近距離揚陸に使用しています。

 日本の海上自衛隊が使用するLCACは、アメリカのテキストロン・マリン&ランドシステムズ社製のLCAC-1型で、正式には「エアクッション艇1号型」と呼ばれています。

 海上自衛隊には6隻が配備されており、掃海隊群第1輸送隊「おおすみ」「しもきた」「くにさき」とともに、第1エアクッション艇隊として第1号から第6号までが在籍しています。おおすみ型輸送艦に搭載されて運用されますが、搭載艇扱いではなく独立した自衛艦です。

 筆者(月刊PANZER編集部)は7月下旬、広島県の江田島にある呉水陸両用戦・機雷戦戦術支援分遣隊を見学。ここは呉造修補給所工作部エアクッション艇整備科の施設で、専用器材が揃った自衛隊唯一のLCAC整備施設です。

見た目ほとんど「飛行場」!?

 整備科のある場所はもともと日本海軍呉海軍軍需部の燃料貯蔵施設があったところですが、整備場全体は飛行場のように見え、とても艦艇の整備施設には見えません。この日は残念ながら整備に入っている艇がありませんでしたが、それでもLCACの“フネのようであり飛行機のようでもある”特性を十分に感じることができます。

 LCACの特徴(問題)のひとつは騒音です。4000馬力のガスタービンエンジン4基が巨大な推進用プロペラと浮上用リフトファンを駆動させるため、非常に大きな音が発生します。近隣住宅に迷惑をかけないよう、平時ではLCACがエンジンを駆動して施設内で自走することはありません。艦艇の整備場なのに騒音問題というのもまるで飛行機のようですが、災害派遣出動など緊急時には自走することもあります。

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海面から整備場に上がる傾斜路「すべり」。通常LCACが自走して出入りすることはない(月刊PANZER編集部撮影)。

 整備場内には「すべり」「エンジン試運転施設」「点検場」「格納庫」など独特の設備と、自走クレーンなど専用機材が数多くあります。各設備の役割は以下の通りです。

●すべり
海と整備場を繋ぐ傾斜水路で傾斜角は6度、幅22mあります。LCACの全幅が約15mなので、ギリギリ自走で上がることも可能ですが操縦には練度が必要ですし、先に紹介したように騒音対策で、通常は水面から自走クレーンで吊り上げて上陸します。

●エンジン試運転施設
巨大なコンクリートドームで、両壁にはバウスラスターからの排気を逃がすダクトがあり、地面にはLCACを載せて出し入れするための台座が置かれています。飛行機整備場にあるジェットエンジンの試運転施設にも似ているかもしれません。ただしこの施設は防音を目的とするため、本格的な整備作業はできません。

ますます飛行機のような施設続々

●洗浄機
船体の海水を洗い流す施設で、左右のダクトから15tの真水を噴射して5分で完了します。洗浄作業は必須で輸送艦内にも真水ホースがあり、帰艦してくると人力で洗浄作業を行います。

●格納庫
整備を行う施設で天井クレーンなどが揃っており、自走クレーンも入場できる高さがあります。扉構造などは飛行機の格納庫とよく似ています。

●移送装置
LCACを吊り上げて、海上から施設内各所を移動させる自走クレーンです。定格荷重150tとなっていますがこの荷重では自走できず、120tまでが自走可能な限界です。速度は荷重状態で20m/分、空荷で40m/分。LCACの乾燥重量は85tですが、海から上がる時は海水を含んで100t位にもなるそうで、それでも吊り上げられる能力があります。

※ ※ ※

 なお、移送装置の操縦席は前進方向右側、前後にあり、エンジンで発電し電動モーターで車輪を駆動する方式です。走行時は操縦士1名で、地上誘導員が付きます。

 LCACの運用は特殊技術と専用の施設を必要とする艦艇とはまた違ったプロジェクトです。その「クセ強」な特徴から、飛行場のような整備施設でのメンテナンスが欠かせませんが、島国で離島も多い日本には無くてはならない存在です。

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120tまで吊り上げて移動できる移送装置(自走クレーン)(月刊PANZER編集部撮影)。

 ちなみに自衛艦には通常、自衛艦旗が掲げられますが、LCACには側面に国籍を示す自衛艦旗が描かれています。LCACではプロペラへの巻き込みを防ぐため旗を掲げることができないのです。胴体に国籍標識を描くのも飛行機みたいでフネらしくない「クセ強」な性格の一端でしょうか。

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