夢のまた夢が現実に? 日本の防衛装備品「アメリカ輸出」なるか “脱・受け身”への茨の道を聞いた【前編】
いわゆる「安保3文書」に基づき、現在日本では防衛産業振興を含めた防衛力の強化が急ピッチで進んでいます。そんな中、三菱電機が海外企業と連携して積極的に市場を開拓しています。その「真意」について聞きました。
アメリカの防衛産業と連携を強める背景
日本の防衛産業は、自社製品を海外へ輸出することを目指してさまざまな取り組みを行っています。なかでも、海外企業との提携を強め、各種の実績を積み重ねているのが三菱電機です。
たとえば、2024年1月にはアメリカの大手防衛関連企業であるノースロップ・グラマン社と、「統合防空システム分野における装備品のネットワーク化の実現」に向けた協業契約を締結。さらに、同年7月には同じくアメリカのRTX社の事業部であるレイセオンと、アメリカ海軍向けの最新鋭艦艇搭載レーダーであるSPY-6構成品の供給契約を締結しています。
このように、三菱電機がアメリカの大手防衛関連企業と立て続けに提携を実現した背景について、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は防衛システム事業部の洗井昌彦事業部長にお話を伺いました。
まず、三菱電機にとってのアメリカ防衛産業との関わりについて。
「アメリカの企業との関わりは常に考えている、悩んでいるところです。アメリカの防衛産業は日本のそれと比べて強く、巨大であり、そことどのように一緒に共存していくかを考えなくてはなりません。かつ、日米同盟がある以上、日本とアメリカは切っても切り離せない関係にあります。そのため、アメリカの企業との関係は常に模索しなくてはならないのです」
そのうえで、アメリカの防衛産業と提携するパターンにはいくつか種類があるといいます。
「一つはライセンス国産です。これは図面などを導入して、アメリカで作られているものと同じものを生産し、防衛省に納入するやり方です。これまで日本の防衛産業が進めてきたものですので、やりやすい方法です。そしてもう一つが、アメリカの国防総省に日本の防衛装備品を使ってもらう、つまり輸出をするという方法です」
障壁が高いアメリカ市場への参入 それを乗り越える方策とは?
アメリカに装備品を輸出する、つまりアメリカ市場に参入することには大きな障害があります。それこそが、洗井事業部長も指摘されていた「巨大なアメリカの防衛産業」の存在です。そこで、それを乗り越える方策として三菱電機が選択したのが、アメリカ企業との提携だといいます。
「やはり、国防総省としてもアメリカ企業の製品を使いたいと思っているので、アメリカ市場への参入は一筋縄ではいきません。そこで、私たちが進めているのがアメリカ企業との業務提携です。たとえば、三菱電機が作ったコンポーネントをアメリカの企業に提供するというもので、これはRTX社とのSPY-6の案件が好例です。あるいは、アメリカ製のシステムであってもそれをそのまま導入するのではなく、我々の技術なども織り交ぜた新しいものを共同で作り上げるといったやり方もあります」
さらに、日米共同開発という方式もあると洗井事業部長は指摘します。そこで思い起こされるのは、かつて日米で共同開発した弾道ミサイル迎撃用の「SM-3ブロック2A」の例です。この時、日本は弾頭部を収めるミサイル先端部のノーズコーンと呼ばれる部分などの開発を担当しました。しかし、洗井事業部長はこれと異なる形での「日米共同開発」を模索しているといいます。
「『SM-3ブロック2A』は、決められた枠の中で予算などを分担し、日本としてどこを担当できるかというプログラムであり、開発構想の段階から参加するというものでありませんでした。私たちが考えているのは、日米共通の新しい装備品を日米の企業が『企業発』で提案していくというものです」
これまでのように、防衛省から出された装備品に関する要求に基づいて装備品を開発するのではなく、日米企業がタックを組んで、先行的に各種の装備品を開発して、それを自衛隊やアメリカの国防総省に提案していくということです。
すでに、三菱電機では2024年7月9日にノースロップ・グラマン社との間で「日本・米国向け防衛装備品に関する覚書」を締結していますが、これには「電子戦システム、レーダー、通信システム等」の分野に関して、共同開発した装備品を日米防衛当局に対して提案するための協業を進めていくことが合意事項に含まれているといいます。
これまで、日本の防衛産業では日本の限られた市場のみを主要な取引先としてきました。そのため、アメリカを含めた海外市場への参入はハードルが高いのも事実ですが、しかし海外企業との提携により、その壁を乗り越えようとしているのが、三菱電機の企業戦略というわけです。
09/20 09:42
乗りものニュース