日本唯一!? ガタゴトじゃなくて「ゴロゴロゴローー!!」と走る地下鉄が独特すぎる! 「熊でも乗せるのか」から半世紀
札幌市営地下鉄は3路線全てがゴムタイヤ式の地下鉄です。地下鉄としては日本唯一ですが、ほかにも注目すべき特徴があります。
ゴムタイヤとした理由は
利用するといくつかの“違和感”を覚える地下鉄が、札幌市営地下鉄です。乗車する前、駅にいる時から“日本唯一”の光景を見聞きできます。「ゴムタイヤで走る」ことをはじめ、ほかの都市の地下鉄と比べて、特異なポイントが多いのです。それらはなぜ採用されたのでしょうか。
北海道札幌市を走る札幌市営地下鉄が最初に開通したのは、1971(昭和46)年。この時点では、東京、大阪、名古屋にしか地下鉄はありませんでした。これは、札幌オリンピックが1972(昭和47)年に開催されることに合わせたものですが、この時期の札幌市は積雪期の公共交通維持に苦労していました。
当時、市電や路線バスの輸送力はすでに限界に達しており、札幌市は新しい交通機関として、トロリーバス、モノレール、路面電車、地下鉄を比較検討します。市担当者が体験したフランス・パリの地下鉄はゴムタイヤを採用しており、その静粛性が高く評価されたこともあり、地下鉄が推進されました。ただ、当時の札幌市の人口は80万人ほどだったため、当時の大蔵省は「札幌に地下鉄を走らせるなんて、熊でも乗せるのですか」と建設に難色を示しました。
札幌市が構想するゴムタイヤ式の地下鉄は、既存の地方鉄道法、軌道法のいずれにも該当しないため、関係省令を改正して「案内軌条式鉄道」の項目を新規に作り、地方鉄道法の枠内で建設されました。
ゴムタイヤ式鉄道は乗り心地がスムーズで騒音が少なく、加速力も高く、ブレーキ距離も短いという利点もありました。これは路面電車の代替交通機関として、短い駅間距離を考えていた札幌市には大きな魅力でした。しかし「大きな軸重では耐えられない」とか、「雪や凍結に弱い」「他社の中古車両は導入できない」「ほかの鉄道に乗り入れられない」といったデメリットもありました。
小田急ロマンスカーと同じくらい見通し良い!?
パリやメキシコシティの地下鉄は鉄車輪とタイヤを併用する方式でしたが、札幌市営地下鉄はゴムタイヤのみでした。「雪に弱い」問題は、地上区間の全てにシェルターを設置し、雪よけとすることで解決しました。ちなみに複数駅間にまたがり、地上かつ高架区間すべてを覆う長大なシェルターはほかに例がなく、日本でここだけです。シェルターの設置は沿線の騒音抑止にも貢献しているようです。
南北線のすすきの駅に降り立つと、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は4つ違和感を覚えました。
ひとつは軌道に「線路がない」こと。もうひとつは「トンネルのサイズが大きい」こと。そして「ホームにベンチがほぼ見られないこと」と、「走行音」です。特に走行音は、ゴロゴロゴロゴロと独特の走行音が、遠くから迫ってくるのです。
5000形電車が入線してきました。北海道で唯一の4扉車両です。1両あたりの全長は18.4mと4扉車としては短め。特徴的なのは車体幅です。308cmはJR在来線の拡幅車体より20cmほど広く、車内空間に余裕があります。新幹線を除けば日本一のワイド車体といえるでしょう。ホームドアか開いた際に出入口から下をのぞくと、ゴムタイヤが見えました。
なお、5000形は車両間に貫通扉がなく、幅広の通路となっています。そして、ロングシート上には荷物棚がありません。小田急ロマンスカー「GSE」の先頭車両は展望車として車内の見通しをよくするため、荷物棚を廃止していますが、それと同じくらい見通しがよいです。おそらく通勤電車としては日本一の解放感だと思われます。ただ、旅行客には不便なので設置してほしいところです。
シェルターにまつわる苦労
いざ発車すると、小気味よい加速に小刻みな揺れ、そしてゴロゴロした走行音と、既存の鉄道とは違う乗車感です。なお静粛性については、ロングレールが増えた都市部の鉄道とは大差なく感じました。
5000形は試作車が1995(平成7)年登場とやや古い電車であり、2030年から新型電車が投入されることになっています。ただ、行先表示や車内表示がフルカラーLEDに換装されているなど近代化はなされており、車齢ほどの古さは感じません。
南平岸~真駒内間4.5kmの地上区間では、軌道がアルミ合金製のシェルターに覆われています。シェルターには採光窓がついており、外の景色もある程度見えます。車両に冷房はないので、夏になると採光窓が開くようです。
安全運行に貢献しているシェルターですが、周辺住居へのテレビやラジオの受信障害が発生するため、札幌市交通局がアンテナを設置しています。ほかにも雪下ろしを放置すると周辺道路に雪が落ちるため、深夜に雪下ろしをするなと、苦労もあるのだとか。
高架区間では、陸上自衛隊真駒内駐屯地に近い自衛隊前駅の風景が楽しく感じられました。ほかの駅が島式ホームなのに対して、自衛隊前駅は相対式ホームなので、ホームに立てば向かいのホームに停車する列車の足回りが見えますし、シェルターで覆われた軌道もよく見えます。ちなみに同駅の近くには札幌市交通資料館も設置されており、保存された札幌市電や地下鉄、バスなどを見ることもできます。
09/16 15:12
乗りものニュース