海自“ヘリ空母”より巨大! 海保が「超マンモス巡視船」を導入へ 実は“有事”睨んでる?
海上保安庁が史上最大の巡視船の建造を計画しました。その大きさは屈指の3万トン。全長は海上自衛隊のひゅうが型護衛艦をもしのぎます。建造の理由や用途について海上保安庁の担当者を直撃しました。
既存の最大級巡視船と比べ4倍以上の大きさ
海上保安庁は過去最大規模となる3万トン級の多目的巡視船の建造を2025年度から始めます。
発表によると、総事業費は約680億円で2029年度の就役を予定するそうです。これまで海保は「あきつしま」や「れいめい」など6500総トン級のPLH(ヘリコプター2機搭載型巡視船)を導入してきましたが、それを大きく上回るだけでなく、海上自衛隊のひゅうが型護衛艦より巨大で、アメリカ海軍のサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦に比肩するサイズの巡視船が誕生することになります。
海上保安庁の担当者は、「大規模重大事案同時発生に対応できる強靭な事案対処能力の観点から、大規模災害や国民保護の任務に的確に対処するため多目的巡視船を要求した」と説明します。
同船は、全長200mで総トン数は3万トン。船体の長さは商船三井さんふらわあの「さんふらわあ くれない」や太平洋フェリーの「いしかり」とほぼ同じです。
これだけ大きいため、緊急時は1000人以上の人員を収容することが可能だそうで、複数のヘリコプターを運用する設備や、車両の積載に対応したスペースも船内に設けます。このサイズゆえに、南西有事では避難民輸送に活用できるほか、南海トラフ地震を始めとした大規模災害時は、道路が寸断・不通になる可能性が高く、被災地へのアクセス手段が麻痺している状態を考慮して、他の地域から消防や警察、自衛隊の応援部隊などを海路運ぶ輸送手段のひとつになると期待されます。
武装は搭載せず
実際、海上保安庁の担当者はこのたび概要に盛り込まれた多目的巡視船について次のように述べていました。
「国民保護の場合は多目的巡視船が現地に向かい、住民を乗せて安全なところへ輸送。大規模災害の場合は被災地に向けての物資輸送や、緊急消防援助隊などを運ぶことになる。さらに大型の船なので現地での指揮機能も求められると考えている」(担当者)
このような活動を可能にするため、多目的巡視船は、船首の右舷側に車両の積載に対応するためにサイドランプを設けるとともに物資輸送のためクレーンを備えます。さらに小規模な港との間で人員・物資輸送が行われるように複数の搭載艇を装備。大規模な断水が発生した場合も考え、強化された給水機能も持たせます。ヘリコプター3機を格納可能な格納庫を置くと共に、ヘリコプター2機を同時に運用可能なヘリ甲板を船尾に設置します。
「平時でも、たとえばサミット(主要国首脳会議)や万国博覧会のような大規模な海上警備を行う時に拠点として活用できると考えている」(担当者)
ただ、海保によると多目的巡視船はヘリコプターを所属機として搭載する予定はないといいます。「地上の航空基地や他の巡視船のヘリを受け入れて、洋上基地として運用することをイメージしており、PLH(ヘリコプター搭載巡視船)にはならないと思っている」と話していることから、既存の船型とは違う記号が付く可能性があります。また、機関砲などの固有武装は装備しない方針です。
南西地域の一般人避難を考慮
多目的巡視船を整備する背景について海保は「近年、深刻な被害をもたらす自然災害などが頻発しており、(2024年1月に発生した)能登半島地震ではその地理的特性などから海路とヘリコプターを利用した空路からの物資と人員輸送の有効性が確認されている」と説明します。
そのうえで、「現在、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境と言われる中で、南西地域を含む住民の迅速かつ安全な避難を実現するために、輸送手段の確保など国民保護のための体制を強化する必要がある」と述べ、建造の意義について強調しました。配備先については大規模な港にしか入れないことから、ゼロベースで考えているとのことです。
防衛省は2025(令和7)年度概算要求で、車両とコンテナの大量輸送に特化した民間船舶6隻をPFI(民間資金活用)方式で確保するため509億円を計上しました。これは、南西地域の島嶼部へ部隊などを輸送する海上輸送力を補完するためで、2024年度予算で導入が決まった2隻を合わせてPFI船隊は8隻まで拡充されます。南西有事を見据えた輸送能力の強化が進む中、海保も避難民や車両の輸送に特化した多目的巡視船の整備を決めたと捉えることができるでしょう。
海上保安庁は、2025(令和7)年度概算要求で、前出の多目的巡視船を整備すべく、まずは34.3億円を要求しています。この予算が要求通り認められるか、今後の動向が注目されます。
09/07 07:42
乗りものニュース