中高年ライダーなぜ「スーパーカブ」にハマる? “自分の娘”見るかのよう「釣り好きにとっての鮒」の意味とは
2024年8月に山梨県北杜市でメディアミックス作品『スーパーカブ』のイベントが開催されました。この作品は、タイトル通り原付の「スーパーカブ」がハナシの中心。そこで、ファンに愛車と作品の魅力について語ってもらいました。
北杜市で行われた『スーパーカブ』のイベントにカブ乗りが集合!
2024年8月4日(日)、山梨県北杜市武川町にある「甲斐駒センターせせらぎ」で、小説やアニメを中心にしたKADOKAWA(角川)のメディアミックス作品『スーパーカブ』のイベント「礼子生誕祭2024」が開催されました。
これは、物語に登場するヒロインのひとり「礼子」の誕生日(8月2日)をファンとともにお祝いしようというもので、多くの人が愛用の原付で来場していました。当然ファンが乗ってきたのは、ホンダの傑作二輪「スーパーカブ」。そこで、皆さんに「スーパーカブ」と『スーパーカブ』、双方の良さを語ってもらいました。
CT110に乗る「しんべいさん」がスーパーカブの良さとして挙げてくれたのは、維持費がかからないという点。彼が、スーパーカブに乗り始めたのは、2022年に放送されたアニメ『スーパーカブ』がきっかけで、最初は主人公の小熊が愛用する原付一種の「スーパーカブ50」だったそう。その後、夏休みを利用してAT限定の原付二種免許を取得し、礼子の愛車であるCT110を購入と、ステップアップしていった模様です。
「四輪車よりも手軽に、徒歩よりは行動範囲が広がるバイクの魅力を知ったのはこの作品のおかげです」と楽しげに語ってくれました。
CT110と同じ原付二種ながら、別モデルである「スーパーカブ110」に乗るライダーはどう感じているのか、「一ノ瀬さん」に答えてもらいました。
「今乗っているJA07型スーパーカブ110は、2008年に新車で購入したものです。以来、現在までに7万kmを走破しています。もともとカブが好きだったのですが、山梨の友達に作品のことを教えてもらい、カブ+女子高生という意外な組み合わせと、そのリアルなバイク描写にすっかり心を奪われました。今の愛車は距離を走っていますので、手を入れながら楽しんで乗っています。そうしたことから主人公の小熊には共感するところが多いですね」(一ノ瀬さん)
カブオーナーに聞く『スーパーカブ』という作品の魅力
作品『スーパーカブ』のなかで、前出の「礼子」が愛用しているのは「郵政カブ」ことMD90。そのため、イベント会場にはMD90も多く停まっていました。MD90乗りは、どこに魅力を感じているのでしょうか。
近所で偶然MD90を見つけて購入、オーナーになったと話してくれたのが、守田崇師さんです。
彼いわく「今から12年前にバイクに乗りたくなって、お金を貯めてスーパーカブ50を購入した」とのこと。すなわち作品よりも先に「スーパーカブ」に惚れてオーナーになったといいます。その後、MD90にステップアップしたとのことで、そこから「カブが登場する面白い小説があるよ」と友人に教えてもらって、『スーパーカブ』にハマったそうです。
50歳を過ぎてからカブオーナーになったのが、佐伯裕二さんです。50歳を過ぎてからバイクに乗りたいと思うようになり、3~4年ほど前に職場の先輩から不動車のMD90を5000円で譲ってもらったのがキッカケとか。それをDIYで修理して動くようにしたのだそう。
「カブの良いところは構造が単純なので素人でも修理が容易なところです。カブというバイクは究極の実用車であり、生活に密着した民具です。それを女子高生の青春物語とコラボさせた『スーパーカブ』は画期的な作品だったと思います」と、作品への想いも話してくれました。
「バイクはカブに始まりカブに終わる」
最後に、「乗りものニュース」でもお馴染みの軍事ライター・イラストレーターの吉川和篤さんが愛車のスーパーカブ50で参加していたので、「なぜ中年男性がこの作品にハマるのか」について聞いてみました。彼自身、アニメ『スーパーカブ』の視聴をきっかけにカブを購入し、以来、休日になると北杜市をはじめ各地をツーリングして楽しんでいるそうです。
「アニメにしても小説にしても大人の鑑賞に耐えられる作品であることは当然として、ファンに中高年男性が多いのは、ひとつには同じ趣味を持つ自分の娘を見るような感覚で、女子高生がバイクを通じて成長する姿を見ることによる“癒やし”です。そして、もうひとつが主人公の小熊が大藪春彦作品を思わせるハードボイルドなパーソナリティの持ち主である点でしょうね。両親がなく、趣味がなく、友達のいなかった小熊は自立した性格の持ち主で、世の中が甘くはないことを10代にして熟知しています。だから、困難を自分の力で解決しようとする。そうした主人公の姿勢が、人生の酸いも甘いも知り、スーパーカブというバイクを愛する中高年男に刺さるのだと思います」(吉川さん)
バイク好きのあいだには、釣り好きの鮒(フナ)になぞらえて「バイクはカブに始まりカブに終わる」という言葉があります。このバイクはスピードこそたいして出ませんが、実用性や経済性が極めて優秀で、これほど乗るのに敷居が低い二輪車もないでしょう。
つまりは究極の生活密着型バイクと言えます。それゆえに他のバイクにはない奥深さがあります。カブの良さはスピードに対する憧れが消え、無理なくのんびりと乗れること。その楽しさが、中高年になるとしみじみわかるようになります。
そうしたカブの魅力と、オーナーにとってはよくある身近なエピソードを盛り込んだことで、『スーパーカブ』という作品は人気が出たのでしょう。イベント会場でファンの声を聴くことで、実車と作品双方の良さを改めて実感できました。
09/03 18:12
乗りものニュース