すでに全国で2万台!「郵便バイク」EVになった感想は? 現場職員が本音を吐いた
ホンダ「スーパーカブ」シリーズとともに日本郵便が配達用に使用しているのが、電動スクーターの「BENLY e:PRO」です。果たして現場で働く人の評価はどうなのでしょうか。郵便局員に話を聞いてみました。
郵便局員のよき相棒「郵政カブ:MDシリーズ」とは
日本郵便では昨今、都市部を中心に電動スクーターを多用するようになっています。一見すると従来のガソリンエンジン車とほとんど変わっていないように思えますが、「配達の足」としてはどうなのでしょうか。現場の声を聞きました。
そもそも、郵便配達用のバイクといえば、長らくホンダ「スーパーカブ」をベースにした「MD(Mail Deliveryの略)」シリーズが主役の座にありました。1971年に郵政省(現・日本郵便)の求めに応じてホンダが開発したこのバイクは、またの名を「郵政カブ」とも言い、排気量に応じてMD50、MD70、MD90の3種類が存在しました。
MDシリーズは「郵政レッド」と呼ばれる専用色で塗装され、郵便バックを積むための大型フロントキャリア、配達物収納箱を取り付けるための大型リアキャリア、大容量の燃料タンク、小回りが利く14インチ小径ホイール、路面からの衝撃を和らげるテレスコピック式フォーク(標準仕様のカブはボトンリンク式フロントサスペンション)を装備するのが特徴で、ほかにもグリップヒーターや強化サイドスタンドの標準装備化、ライトやハンドルの形状変更など、カブをベースに郵便物の配達に特化した仕様に改められていました。
ホンダのMDシリーズは、ライバルのヤマハ「メイト」やスズキ「バーディ」の郵政仕様とともに郵便局員の“良き相棒“として、全国の郵便局で長きにわたって活躍したのです。
郵便配達の新顔「BENLY e:PRO」どうなの?
しかし、ベース車の生産終了に伴い、2009年から原付二種の郵政カブはスーパーカブ110PRO(JA07)をベースにしたMD110へと変更され、以後はこちらが導入されることになります。
最後まで残ったMD50も2012年に生産を終了すると、以後は原付一種、原付二種ともにホンダ製の郵便配達用バイクは一般販売される「スーパーカブPRO」をベースにした「スーパーカブ50MD/110MD」へと更新されました。ちなみに、こちらは専用塗装を除けば市販車とほぼ同型で変更点はごくわずかです。
なお、2017年にはベース車のモデルチェンジに伴い、カブ50MDは2代目(AA08)に、カブ110MDは3代目(JA43)へとそれぞれ移行(ともに排気量違いの姉妹車)しています。
そんなスーパーカブ50MD/110MDとともに2024年現在、郵便配達用のバイクとして多用されているのが電動スクーターの「BENLY e:PRO」です。
日本郵便で使用している車両は、原付一種規格の「BENLY e:IPRO」と、原付二種規格の「BENLY e:IIPRO」で、双方とも前方に郵便バック、後方に配達物収納箱が積めるようになった特別仕様になります。
BENLY e:PROは、2019年に都内の郵便局へ200台が配備されたのを皮切りに、その後は全国の郵便局に導入が進み、2024年春までには約1万6000台が納入されました。これは全国の郵便配達用バイクの2割に当たる数字です。
BENLY e:PROの評判を配達現場で働く郵便局員に聞くと、おおむね好意的な反応が返ってきます。カブMDシリーズと違ってギアチェンジの煩わしさがなく、電動スクーターなので音や振動もほぼないことから、閑静な住宅街でもエンジンによる騒音を気にしなくて済むのでありがたいそうです。また、シート高が低いことに加えてステップスルーになっているので、乗り降りもラクになったと言います。
BENLY e:PRO郵便局員の評判は?
電動バイクで気になるのはやはり航続距離です。BENLY e:IPROは100km(30km/h定地走行テスト値)、BENLY e:IIPROは55km(同)がカタログ公表値となります。地域によっても異なりますが、郵便局員が1日に配達で移動する距離は25~70km程度。都市部は移動距離が短く、地方は長くなる傾向にある模様です。
BENLY e:PROのカタログを見る限り、おおむね1日の配達距離を賄えるように思われるかもしれませんが、交通状況やバッテリーの劣化具合によってはそれよりも航続距離が短くなることも珍しくはなく、またスレスレの状態で走って電欠になるリスクを避けるため、午前の配達業務が終わると昼休憩前に追加充電(休憩中の1時間分)、あるいはバッテリーの交換を行っているそうです。
一方で、バッテリーの重量は約10kgと重いため、充電のための脱着作業を煩わしく感じる郵便局員もいるようです。ただ、その反対に「ガソリンスタンドでの給油や会計処理の手間が減ったのはありがたい」と感じている郵便局員もいるとのことなので、ここは意見の分かれるところなのでしょう。
また、静粛性の高さがウリの電動スクーターですが、ゆえに人通りの多い混雑した繁華街を走るときは、前方の歩行者がバイクの接近に気がつかないことも多々あるといいます。20km/h以下になると擬似走行音が発せられるものの、雑音の多い場所ではかき消されてしまうようで、運転に神経を使うケースもあるようです。
とはいえ、ハナシを聞いた郵便局員によると今のところ使用中に大きなトラブルが発生したことはないとのことなので、そこは天下のホンダ製ということで必要十分な信頼性は確保されているように筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)は感じました。
07/31 18:12
乗りものニュース