「海に空港をつくる」どうやって? 羽田では“紙”を使って滑走路を伸ばした!?

羽田空港といえば、度重なる拡張で東京湾側に面積を広げていますが、その滑走路延伸の際、超軟弱地盤を克服するために使われたのは、「紙」でした。

意図的に地盤沈下を起こし、危険を防ぐ工法

 日本最大のハブ空港である羽田空港こと東京国際空港は、何度かの拡張工事を経て、成田国際空港を上回る面積を有する空港となりました。なかでも1984年から2006年にかけて行われた、羽田空港のA・B・C滑走路の延伸では、増えつづける国内航空需要に対処するため、思い切って東京湾側に土地を伸ばす方針が取られました。

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羽田空港を飛び立つジャンボ機(画像:写真AC)。

 この延伸に際して行われた「沖合展開事業」では、超軟弱地盤の埋め立て地を、旅客機の離着陸に耐えられるようにすることが求められました。そのためには地中の水分を抜き、地盤を固めることが必要でした。そこで地盤改良に使われたのが、「紙」です。

 ここでは「バーチカルドレーン工法」のひとつ、「ペーパードレーン工法」が採用されました。これは、紙でできた帯状の管(ドレーン材)を地盤にたくさん打設し、地中の水分を吸い上げていく工法です。その管は、現在こそ特殊な樹脂製の帯を使用し「プラスチックボードドレーン工法」と呼ばれていますが、かつては吸水性と弾力性も富んだ紙を打ち込んでいました。

 なぜ、地中にドレーン材を打ち込むかというと、地中の水分を抜いて圧密することで意図的に地盤を沈下させる必要があるからです。軟弱地盤の上に盛り土をしたり建物などを建造すると、建造後に傾いたり倒壊の原因となる不同沈下を起こしてしまう危険性があるためで、建設に適した土台を作るのにドレーン工法が欠かせませんでした。なお、ドレーン工法を用いず、地盤を自然と圧密沈下させるには10年以上の年月が必要だったといいます。

 空港用地は土木施設の中でも特に厳しい平坦性が要求されるため、地盤の安定は必須です。沖合の大規模な埋め立てで誕生した空港というと関西国際空港がありますが、こちらは軟弱地盤の地中に砂杭を打って土砂を投入し、その重みで粘土地盤中の水を砂杭から押し出す「サンドドレーン工法」が用いられました。効果はペーパードレーン工法と同じですが、こちらは砂が地盤沈下を促すドレーン材として使われています。
 
 羽田空港に関しても、サンドドレーンが使われた箇所もありましたが。関空と事情が違い粘土層と東京湾のヘドロや陸上の残土の混ざった水分の多い超軟弱地盤には使用できませんでした。

 元々ペーパードレーン工法は、北欧でみられる「クイック・クレイ」という、衝撃を与えただけで泥水化してしまう超軟弱な粘性層の圧密のためにスウェーデンで考案された工法であるため、同じような状態である羽田空港の埋め立て地盤でも同工法が最適であると判断されました。

 なお、意図的に地盤沈下をさせた後も、ドレーン工法が届かない、さらに地下に未改良層という、自然に地盤沈下してしまう層がある程度残ります。これを「残留沈下」といいます。

この対策として関空の場合は、建物全体をジャッキアップできるようにして、地盤調整をしています。羽田空港に関しては、使用後に残留沈下は許容しつつも、不同沈下は抑制し、平坦性を保てるように建物や滑走路を建造・施工しています。

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