パリの博物館で日本の激レアゲーム機を展示なぜ!?「ひょっとして間違えた?」でもフランスらしいその理由

フランスの首都パリにある欧州随一の博物館に、なぜか日本製の家庭用ゲーム機が展示されています。ただ、それは「ファミコン」のようなメジャー機ではなくNEC製のマイナー機。しかも、もしかしたら間違えて展示した可能性もあるようです。

欧州屈指の博物館に展示された日本製ゲーム機

 フランスの首都パリにあるシテ科学産業博物館は、1986年にオープンし、パリ市内で一番大きなラ・ヴィレット公園内に位置しています。施設名のとおり、科学や産業技術に関連した様々な展示品や体験学習施設を備えており、毎年200万人を超える来場者を迎えています。

 同館は科学・産業を扱う博物館としてはヨーロッパ全体でもトップレベルにあり、敷地内にはかつてフランス海軍が運用していたアレテューズ級潜水艦「アルゴノート」(排水量552トン、全長49.6m)の実物が置かれているなど、時代や業種を問わず様々な展示品を見ることができます。

 このようなパリの博物館に、なぜか日本のゲーム機が展示されています。それは、NEC(日本電気)の関連会社としてかつて存在したNECホームエレクトロニクスが1989年に発売した「PCエンジン スーパーグラフィックス」です。

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フランスのシテ科学産業博物館に展示されたNECホームエレクトロニクスの「PCエンジンスーパーグラフィックス」。グラフィックチップを2倍搭載した高性能機として発売されたが、ハード自体の高額化と、専用ソフトの少なさから商業的には失敗に終わった(布留川 司撮影)。

 この頃の家庭用ゲーム機には、PCエンジンの他にも、任天堂の「ファミリーコンピュータ」(通称ファミコン)や、セガ・エンタープライゼス(現セガ)の「メガドライブ」などが販売されており、市場でのシェアや知名度でいったら任天堂やセガのゲーム機の方が高かったのではないでしょうか。

 しかも、展示されているPCエンジンスーパーグラフィックスは、PCエンジンシリーズの中でも上位機種として販売された派生モデルであることから、販売台数も約7万台と少ないです。

 なお、同時期に発売されたゲーム機であるファミリーコンピュータは販売台数1935万台、メガドライブは同358万台なので、圧倒的に少数なのがわかるでしょう。日本人にもあまりその存在を知られていないマイナーな日本製ゲーム機が、なぜフランスの首都にある博物館に保存・展示されているのでしょうか。

ゲーム機としてではなく現代カルチャーとして

 じつは、PCエンジンスーパーグラフィックスは、ゲーム機を専門に扱う展示エリアではなく、宇宙開発や探査を扱う「宇宙ミッション」と呼ばれる展示エリアの一角に置かれています。ここでは、宇宙開発の取り組みがアメリカのNASA(米航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)を中心に紹介されており、大型模型や解説パネルも数多く設置されていました。そして、これら宇宙開発の影響によって生まれたおもちゃ製品のひとつとして、PCエンジンスーパーグラフィックスが展示されていたのです。

 展示場所の解説パネルには「宇宙開発は書籍、映画、音楽だけでなく、おもちゃ業界にもインスピレーションを与えます。これら象徴的なおもちゃはコレクターアイテムとなり、ポップカルチャーがどのようにして人々を引きつけ、『宇宙』という共通の夢を生み出したかを示しています」と記述されています。

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シテ科学産業博物館はパリ市内の19区にある。写真に写っているのはプラネタリウムで、左側には潜水艦「アルゴノート」が見える(布留川 司撮影)。

 そして、宇宙開発に関連する製品として、1900年代頃のブリキ製の玩具やボードゲーム、最近の宇宙ロケットを題材にしたブロック玩具などが並べられ、その傍らに宇宙をテーマにしたシューティングゲームの名作「R-TYPE」(1988年発売)のHuCARD(PCエンジンのゲームが収録されたメディア)がセットされた状態で、PCエンジンスーパーグラフィックスも展示されていました。

 このような展示とすることで、娯楽やフィクションの世界においては「宇宙」というものが普遍的なテーマであることが理解できるようになっていたのです。

マニア的な突っ込み「もっと最適な機材」あっただろ!

 じつは筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は当時、初代PCエンジンとPCエンジンDuoの両方を所有するNECユーザーでした。そのため、PCエンジンスーパーグラフィックスのようなマイナー機が、こうして30年以上の時を経て異国の博物館に展示されていることをうれしく思いました。

 しかし、PCエンジンを実際に楽しんでいたレトロゲーマーとして、この展示に若干の疑問も感じます。

 それは、「PCエンジンスーパーグラフィックスと宇宙になんの関連があるのか?」というものです。PCエンジンスーパーグラフィックスは1980年代にデザインされた工業製品らしく、ゴテゴテした独特の外見となっています。しかし、そのデザインのモチーフは自動車の6気筒エンジンといわれており、宇宙開発とは直接的な関係はありません。

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陸揚げされてシテ科学産業博物館に展示されている潜水艦「アルゴノート」。撮影はできないが内部も公開されており艦内も見学できる(布留川 司撮影)。

 また、PCエンジンの派生モデルには廉価版の「PCエンジンシャトル」がありました。このモデルは宇宙船をイメージしたデザインで、筐体全体が飛行機模型のように流線型をしており、筐体背面には航空機の垂直尾翼のようなフィンまで付いています。宇宙をテーマにしたおもちゃコーナーに置くのであれば、こちらの方がよりふさわしいモデルだといえるでしょう。

 このように、展示についてはマニアックな疑問点こそあるものの、いずれにしても30年前のゲーム機が文化的に認知され、欧州トップクラスの博物館に今日、展示されているのは事実です。

 NECユーザーとして当時からPCエンジンスーパーグラフィックスやPCエンジンシャトルの存在を知っていた身からすると、異国の地で出会えたことはやはり「うれしい」その一言に尽きるのです。

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