最新戦闘車両のコントローラー操ってみた!「ゲームしてる!?」そこは戦場

世界のあらゆる場所で娯楽として利用されている家庭用ゲーム機。そのコントローラーはいまや兵器の世界でも使われるようになっています。実は専用の操作機器よりも優れている理由をメーカー担当者に聞いてきました。

入力デバイスとして優秀なゲーム用コントローラー

 家庭用ゲーム機で使われているゲームパッドは、入力用デバイスとして見ても非常に優秀なものだといえます。1983年に発売された任天堂のファミリーコンピューター(通称ファミコン)では、十字ボタンと2つのシングルボタンというシンプルな構成でしたが、1990年代に人気を博したソニーのプレイステーション(通称プレステ)からは入力の加減が調整できるアナログスティックが採用され、かつ従来型のボタンも数が倍増したことなどで、より精密で複雑な操作ができるようになりました。

 その後に登場したゲームパッドタイプの入力デバイスは、家庭用ゲーム機に留まらず、現実世界の業務用機器の入力デバイスとしても注目されるようになり、いまや軍事分野でも使われるようになっています。

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「ユーロサトリ2024」に展示された車載型対空システム「スカイレンジャー30」(布留川 司撮影)。

 2024年6月にフランスのパリで開催された安全保障関連の見本市「ユーロサトリ2024」でも、その一端を垣間見ることができました。たとえば、ドイツの防衛企業ラインメタル社は車載型対空砲「スカイレンジャー」を展示していましたが、その機能を説明するためのデモンストレーション用シミュレーターには、一般ゲーム機でも使われているようなゲームパッドが用いられていたのです。

 そこで筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は、そのシミュレーターとコントローラーについてラインメタルの担当者にいろいろ聞いてみました。

これなら揺れる車内でも操作可能

 そもそも「スカイレンジャー」は、対空自走砲の名称ではなく、レーダーや光学センサーといった探索追跡センサーが統合化された対空戦闘装置のシステム名です。対空砲は30mmと35mmの2種類があり、これら弾頭は目標近くで自動的に爆発する近接信管付きの空中炸裂弾となっています。そのため、航空機はもちろんのこと、最近の戦場では定番となったドローンなども迎撃することができます。

 砲塔はすべてがモジュール化されているため、砲やセンサーの構成をカスタマイズすることも可能で、展示されたゲームパッド式のコントローラーもそのオプションのひとつとのことでした。

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「スカイレンジャー30」には30mm対空砲だけでなく、赤外線誘導の対空ミサイルも搭載している(布留川 司撮影)。

 ゲームパッドには十字キーと2つのアナログスティック、それに複数のボタンがあり、コントローラー下部には人差し指で操作するトリガーボタンまで着いていました。ラインメタル社の担当者はこのようなコントローラーを採用した理由について、次のように説明しました。

「この対空砲は装甲車や歩兵戦闘車、さらには『レオパルト2』戦車のシャシーと組み合わせることが可能です。作戦中は荒地などを走るので、車内は非常に揺れることもあり、そのような状況下ではコンソールやモニターについたボタンや入力装置よりも、このように操作員が持つことができるコントローラーの方が正確で、かつ素早く操作できます」

 筆者も、このゲームパッドを使ってシミュレーターを操作しましたが、目標の探索から捕捉(いわゆるロックオン)と攻撃までの一連の操作がこのコントローラーのみで可能でした。

 その見た目から、「戦争のゲーム化」と揶揄する人がいるかもしれませんが、実際に触ってみた筆者の感想は明確に「NO」だと断言できます。

ゲームっぽいのは見た目だけ

 まず、このコントローラーはコンセプトこそゲームパッドと同じですが、設計自体は独自のものとなっています。

 ボタンの押し間違いでうっかり暴発する危険性を考える人がいるかもしれませんが、左右のグリップ部分にはセーフティー用のスイッチ、通称「デッドマンスイッチ」があり、これを押し込んだ状態でなければ操作できないようになっています。射撃用のトリガー部分にもセーフティー用のカバーがあり、操作を行う時にはコントローラーをしっかりと持ち、決められた手順を守らないと入力することができません。

 コントローラー自体も軍隊でのハードな使用に耐えられるように極めて丈夫に作られており、見た目こそゲーム機のコントローラーのようですが、非常に高価なのだとか。その価格は担当者いわく「正確な値段は言えませんが、だいたい家庭用ゲームの10台分くらいの値段です」とのことでした。

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「スカイレンジャー」のデモンストレーション用シミュレーター。左のモニターにセンサー情報が表示され、右のモニターには周辺状況がマップ型式で表示されていた(布留川 司撮影)。

 また、「スカイレンジャー」の操作自体もゲームとはまったく異なっていました。コントローラーを使って操作こそできますが、目標の探索や照準は搭載されたセンサーが行うため、任務中は射撃よりもシステムを操作する方が多くなります。

 筆者はシミュレーターで目標の捕捉まで行い、実際に射撃する段階までいきましたが、目標は対空砲の射程よりも遠方にいたために「スカイレンジャー」の火器管制コンピューターがそれにストップを掛けて発射することはできませんでした。つまり、ゲームパッドで操作はできても、実際にはシステムと運用をしっかり理解してなければ、弾を撃つことは無理なようです。

 2024年現在、ゲームパッド型のコントローラーは兵器システムの操作だけでなく、ドローンなどの遠隔操作系の機器でも積極的に使われています。それらを操作する様子は、周りからはゲームで遊んでいるように見えるかもしれません。

 しかし、同じなのは文字どおりに見た目だけであり、実際に操作するオペレーターには専門知識と技術が必須だと言えるでしょう。

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