電動キックボード等「特定原付」1年で死亡事故ゼロでした。でもほとんどが“加害者”です 警視庁管内
電動キックボードなどを特定小型原付として位置付ける道路交通法の改正から1年。東京都内で発生した事故の詳細が警視庁への取材でわかりました。その結果から、「運転責任の希薄さ」が浮き彫りになりました。
そもそも運転ルールを知らないのではないか
2023年7月1日の道路交通法改正により「特定小型原動機付自転車」という新しい車種区分ができ、電動キックボードなどの利用が拡大しました。原付バイクと自転車の中間に位置付けられ、動力にまったく人力を使わなくても、16歳から無免許で乗ることができます。これにより利用は一気に広がりました。
ただ、拡大とともに交通社会で問題になったのが、交通規則を守らない運転者の増加です。
警視庁が取りまとめた2023年7月-2024年6月の1年間に東京都内で起きた電動キックボードが関連する人身事故件総数は164件でした。毎月、ほぼ2桁の人身事故が起きています。
道交法改正当初、規制緩和で懸念されたのは、既存の自動車が交通弱者である電動キックボードを巻き添えにするのではないか、ということでした。特定小型原付の登場に難色を示す運転者の中には、重大事故が増えるのではないかと心配する声もありました。
結果的に、電動キックボードによる死亡事故は起きていません。利用は大都市部圏に偏在していますが、全国的にも1年で死亡事故はありませんでした。
ただ、164件の人身事故からある傾向が見えてきました。それが「第一当事者」の割合です。
都内電動キックボードの人身事故164件中、127件は、「第一当事者」が運転者自身でした。第一当事者は、事故の当事者のうち過失がいちばん重い者のことを差します。
電動キックボードが歩道を歩いていた歩行者と接触した場合を例に挙げると、電動キックボードの運転者と歩行者の責任は対等ではありません。電動キックボードは最高時速6km/hの「特例特定小型原付」となるモードでなければ、そもそも歩道を走ることができません。走行が禁止されている歩道を走っていた運転者に責任があります。この場合の第一当事者が電動キックボードの運転者で、歩行者が第二当事者です。
ほとんどは「防げた」事故
事故の原因となった違反要因についても、取材しました。違反要因の上位3つは以下の通りでした。
1.ハンドル操作不適
2.前方不注視
3.ブレーキ操作不適
運転者には安全運転の責任があり、交通弱者に配慮しなければならないというのが、運転免許教育の基本です。歩行者や自転車として移動する人は交通弱者として守られる存在ですが、電動キックボードの運転者は歩行者や自転車を守る運転をする立場に変わります。しかし、こうした立場の違いを自覚できないまま運転しているのかもしれません。
警視庁交通部は、これら新しい乗りものについての事故対策を次のように説明します。
「免許がなくても運転でき、操作に不慣れな若年層の利用者が多いと推察されることから、大学における各種キャンペーンや街頭活動等を通じた広報啓発を行っていくほか、シェアリング事業者と連携しながら利用者等に交通ルールの周知を図っていきます」
第一当事者の多くが電動キックボードの運転者だったことは、運転者が注意していれば事故は防ぐことができた可能性がある、ということです。
え、「飲酒運転」そんなに多い!?
また、年間の事故状況とは別に、日本経済新聞は、都内で発生した2024年1-5月の電動キックボード人身事故の25%で「飲酒」があったことを報じています(7月13日)。
警視庁交通部は、これからの取締りについて、次のように話しています。
「信号無視や歩道通行など他人に危害を加えるような悪質・危険な交通違反に重点を置いた取締りを実施するほか、飲酒運転の取締りについても強化する」
電動キックボードのシェアサービス事業を展開する「ループ」(Luup)は、警察からの情報提供を受けて、違反者などのアカウントを停止。独自の点数制度を構築し、無期限の利用停止をする対策も公表しています。
免許を持たない人の交通安全教育をどうすべきか。1年間の事故状況は、その必要性を訴えているようです。
08/20 09:42
乗りものニュース