お隣に機関車あげちゃって大丈夫? 奮闘する真岡鐵道「SLもおか」 御年90のSLが爆走!

下館~茂木間を結ぶ真岡鐵道には、C12形蒸気機関車が牽引する「SLもおか」が運行されています。かつてはC11形も在籍し重連運転も行われていましたが、現在は近隣の東武鉄道に移籍し「SL大樹」に。「SLもおか」への影響はないのでしょうか。

東武へ渡った真岡のSL

 首都圏の近くを走る蒸気機関車牽引のSL列車は、JR東日本の「SLぐんまみなかみ/よこかわ」、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」、東武鉄道の「SL大樹」、そして真岡鐵道の「SLもおか」です。うち東武鉄道はSLを3両保有し、「SL大樹」は平日を含み1日最大4往復しているなど、存在感を示しています。

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真岡鐵道の「SL真岡」。C12形蒸気機関車が客車を牽引する(2024年5月、安藤昌季撮影)。

「SLもおか」は、この「SL大樹」に近い地域を走っています。真岡鐵道はJR水戸線、関東鉄道常総線と接続する下館駅(茨城県筑西市)から、茂木駅(栃木県茂木町)までの41.9kmを結ぶ第三セクター鉄道です。JR真岡線を転換して1988(昭和63)年に誕生し、1994(平成6)年よりC12形蒸気機関車と50系客車の「SLもおか」を運行してきました。1996(平成8)年より、牽引機にC11形蒸気機関車も加わり、イベント時の重連運転も行っていました。

 しかし維持費増大と利用客減少で、2020年にC11形は東武鉄道に売却されます。売却先の東武鉄道は「SL大樹」に力を入れていますし、その運行区間は我が国を代表する観光地の日光・鬼怒川です。真岡市が公表する、コロナ禍前の「真岡市地域公共交通計画」によると、「SL大樹」の運行開始前である2015(平成27)年の真岡鐵道SL利用者数は3万3482名、翌年が3万6058名に対して、「SL大樹」が運行を開始した2017(平成29)年は3万1592名、翌年は3万201名と減少しています。SLが2両となった1999(平成11)年は4万9000名でしたから、かなりの減り幅です。

 では現在はどうなのでしょうか。2024年の5月末と6月末、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は「SLもおか」に乗車してみました。

「SLもおか」は乗車券のほか、SL整理券料金500円を支払えば乗車できます。インターネットでの事前予約も可能ですが、空席がある場合、当日の整理券購入も可能です。

きっぷの購入を考えるとタイトな乗り換え時間

 茂木行き「SLもおか」は午前10時35分に下館駅を出発。気になったのは、JR水戸線との接続時間です。下館駅は、東北新幹線と接続する小山駅から6駅目ですが、小山方面からの列車は10時30分着と5分接続、また関東鉄道常総線の快速は、7分接続となる10時28分に到着します。

 筆者はネット予約しましたが、係員にスマートフォンの予約画面を提示する方式でも、接続時間が短く感じました。なお当日のSL整理券を購入しようとする乗客は15人くらいいましたが、「きっぷの発券が間に合わないので、車内で購入してください」と案内されていました。ダイヤの都合もあるのだと思いますが、接続時間はもう少し長くてもよいのではないでしょうか。家族連れも多く、飲み物などが買えるように、15分程度の接続時間は必要とも感じられました。

 ただし事情を知る乗客は1本前の列車で来ており、蒸気機関車の前で記念撮影をしていました。客車は国鉄型の50系です。1977(昭和52)年より製造されました。塗装が旧型客車と同じぶどう色2号で、白帯を巻いている以外はほぼ原型です。ちなみに「SLもおか」運行開始時は白帯でしたが、2010(平成22)年より赤帯となり、2024年からは「SLもおか」30周年を記念して白帯に戻りました。

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50系客車(2024年5月、安藤昌季撮影)。

 車内はセミクロスシート。つり革もあります。事前予約でも座席指定はないので、各自が好きな席に座ります。乗客は5月・6月とも60人程度でした。座席定員はオハ50形が2両で160人、オハフ50形が1両68人。2号車のロングシート分は売店スペースなので、編成定員は212人です。乗車率30%程度で、1ボックスを1人で占拠できて快適でしたが、少し心配にもなりました。客車は非冷房のため窓が大きく開けられており、走り出すと風が吹き込み、トロッコ列車のよう。天井に扇風機も回っていました。

90歳のSL、かなりの高速運行!

 5月の乗車時は、インターネットで「ふるさとSL弁当」(1000円)を予約しました。SLの絵柄が入った「曲げわっぱ」に、筑西市産の食材を使用したおかずが入ったお弁当で、2号車の売店で受け取れます。味はよいですが、夏季は販売中止。販売時期でもインターネットでの予約購入のみで、当日販売はありません。

 とはいえ終点の茂木駅には駅そば屋があります。ホームページや車内放送で案内すれば、「何も食べられないかも」の不安が減ると感じました。

 列車は下館二高前駅を通過し、折本駅に停車。乗降はありませんでしたが、ここは2001(平成13)年に交換設備を復活させた駅です。真岡鐵道は、列車が1時間に2本の時間帯もあり、ローカル線としては利便性が高いと感じました。

 ひぐち駅を通過し、10時50分に久下田駅に停車。国宝資料・七宝小太刀御拵も展示されている「さむらい刀剣博物館」の最寄り駅です。続いて寺内駅、真岡駅と連続停車しますが、驚いたのは速度が速いこと。スマートフォンで計測すると、直線区間では最高で57km/hでした。C12形の設計最高速度は70km/hですから、「90歳のSLが必死に走っている」感が伝わってきます。

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益子駅(安藤昌季撮影)。

 真岡駅では10分間停車するので、跨線橋でホームを越えて駅舎側のホームに移動すると編成写真が撮影できます。真岡駅は、SL型をした特徴的な駅舎の「SLキューロク館」を併設しています。「キューロク館」を体験するために、5月の乗車時は下車しました。

 ウリは大型蒸気機関車の乗車体験です。圧縮空気で自走するSLに車掌車が連結され、300円で乗車できるのですが、各回1人のみ助士席乗車体験(1000円)サービスがあります。訪問日は9600形、D51形の双方が稼働していましたが、動くSLの運転台に乗車し、運転士の指示に従って汽笛を鳴らす体験は臨場感があり、本当に楽しいものでした。

 真岡駅を出ると、西田井駅、益子駅と停車。11時34分発の益子駅は、益子焼の産地として有名で10人ほどが下車しました。ちなみに「常総線・真岡鐵道線共通一日自由きっぷ」(2300円)のフリー乗車区間はこの駅までで、益子駅以北に乗車する場合は、別途きっぷが必要となります。

細かい点で「こうするとよいかも!」

 車窓は田園風景が美しく、五行川や小貝川も目を楽しませます。12時6分、終点の茂木駅到着。機関車はすぐ切り離され、転車台で方向転換を行いました。なお筆者はかつて、駅そばを食べていて見逃したことがあります。

「SLもおか」は非冷房でSLの現役時代に近い列車ですし、「SLキューロク館」もコンテンツが充実しており、決してほかのSL列車+観光要素に劣らぬ楽しさがありました。SL整理券がほかの鉄道より安いのも魅力といえます。

 ただ、テコ入れが必要とも感じられました。もちろん乗車した日が全てではないですし、年によってSLの運行日数には若干の差があるのですが、2024年の「SLもおか」は運行日数が88日。今回乗車した2回のように、1回60人程度の乗車が平均だとしたら、2015年の3分の1である年間1万560人しか利用がないことになってしまいます。困難とは承知しつつ、攻めの姿勢が必要と感じました。

 利用の多くを占める一般の家族連れにとっては、夏季の非冷房車は負担でしょうし、現状で弁当の販売もありません。例えば夏季は、モオカ14形気動車を「客車」として連結するなどできないでしょうか。JR東日本の「SL銀河」のように、気動車のエンジンで補助すれば、SLの負担軽減にもなるでしょう。

 また、「SLもおか」の到着時刻と「SLキューロク館」のSL体験時刻が、必ずしもリンクしていません。真岡駅で下館行き「SLもおか」を降りても体験できる時刻に運行するなど、幅広い集客に考慮した方がよいですし、「運転席でSL運転を体験できる」という何よりの魅力は、ホームページや現地でより周知されてよいと思います。

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SL型をした特徴的な駅舎「SLキューロク館」を併設する真岡駅(安藤昌季撮影)。

 インターネットではSL整理券だけでなく、真岡鐵道全区間で使える1日乗車券も販売してはどうでしょうか。沿線の様々な施設への利便性を上げ集客する、ほかにも茂木駅の転車台が使われる時刻を告知するといった策も有効かもしれません。

 近隣の「SL大樹」が1日4往復されていることを活かして、「1日で両方のSLに乗れる」ツアー開催など、イベントでの集客もありでしょう。

 30周年を迎えた「SLもおか」が、今後も安定して運行されることを願ってやみません。

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