既にギリギリ状態?陸自の「攻撃ヘリ」事情 無人機が来るまでの中継ぎ機体も頼りない!?

令和6年度版防衛白書が公開され、そのなかで陸上自衛隊のAH-1S対戦車ヘリコプターの保有機数が40機にまで減少していることが明らかに。どうしてそうなってしまったのか。

現状でAH-1Sの保有数が40機…

 2024年7月12日、令和6年度版防衛白書が閣議了承され、同日防衛省の公式Webサイトで公開されました。

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陸上自衛隊のAH-1S(画像:陸上自衛隊)。

 防衛白書は防衛省の防衛政策や、政府の近隣諸国への認識などについて記された本編と、本編内容の理解を深めるための資料から構成されています。

 資料には防衛白書が作成された年の3月末の時点で、陸・海・空三自衛隊がどのような航空機をどれだけ保有しているかもまとめられていますが、その中で陸上自衛隊のAH-1S対戦車ヘリコプターの保有機数が40機にまで減少している点が、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)の目を惹きました。

  AH-1Sは陸上自衛隊が初めて導入した、戦車との戦闘を主任務とする対戦車ヘリコプターです。AH-1Sは陸上自衛隊も汎用ヘリコプターとして導入したUH-1シリーズを基に開発されていますが、胴体は完全に再設計されており、タンデム式(前後にシートを設けること)のコックピットや、進行方向と関係なく撃てるよう旋回銃塔を搭載。その豊富な武装と向上した速度で、対戦車戦闘に革命を起こした航空機と言われています。

 防衛庁(現:防衛省)・陸上自衛隊は同機を1982年度から1998年度までに90機を導入しましたが、老朽化により順次退役しています。2024年3月末の40機という保有機数は、一見すると「まだまだ大丈夫」という印象も受けますが、陸上自衛隊員とライセンス生産を行なったSUBARUのスタッフの努力で、どうにか飛ばしているというのが実情です。

老朽化しているのに新型を調達できなかった理由

 防衛省もAH-1Sの老朽化を座視していたわけではなく、2001年にAH-64D戦闘ヘリコプター62機の導入を決定しています。しかし、各年度2機程度しか調達できないため単価が高くならざるを得ず、またボーイングが生産を打ち切ったことなどから、2008(平成20)年に13機をもって調達が終了。その後AH-64Dは1機が事故で失われているので、2024年3月末の時点での保有機数は12機となっています。

 AH-64Dの導入が頓挫した後も、防衛省・陸自自衛隊はAH-1Sの後継機についての調査を続け、メーカー・商社からのアピールも継続していました。

 2024年6月のフランスのパリで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2024」で、イタリアの航空機メーカーであるレオナルドが初公開したAW249もその一つです。

 AW249の開発構想が固まったのは2017年のことですが、イタリアとレオナルドは開発費を圧縮するため開発パートナー国を探しており、日本もその候補国として位置づけられていました。
 
 イタリア海軍は空母「カブール」と強襲揚陸艦「トリエステ」を保有しており、AW249 は両艦での運用も考慮されていました。このため、日本が当時から急を要する課題としていた島嶼防衛に関して、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦で戦闘ヘリコプターを搭載しての運用を想定していた陸上自衛隊にとって、AW249は有効な装備品になる可能性もありました。

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レオナルドが開発しているAW249(画像:レオナルド)。

 ただ、レオナルドが2018年11月に東京で開催された国際航空宇宙展でAW249の概要説明会で、筆者はレオナルドの幹部の言葉に軽い衝撃を受けました。曰く、陸上自衛隊にはAW249ではなく、海上保安庁などで運用されている汎用ヘリコプターAW139の軍用機型AW139Mのアピールに切り替えたというのです。

 その方針転換の理由が陸上自衛隊の意思決定の遅さと予算の乏しさにあると知って、妙に納得してしまった記憶があります。

無人機配備までの中継ぎも心配…

 その後AH-1Sの後継機としては、AH-64Dの能力向上型AH-64E「ガーディアン」と、アメリカ海兵隊などが運用しているAH-1Z「ヴァイパー」に絞られますが、前者は価格の高さから、後者は新造機の製造が終了してしまった事から導入には至りませんでした。

 そして2022年12月16日に閣議決定された防衛力整備計画で、AH-1SとAH-64Dを早期に退役させ、地上部隊の支援と偵察を行う「多用途無人機」に置き換える方針が示されました。

 陸上自衛隊には攻撃用UAVの運用経験が無く、戦力化には一定の時間を要することから、防衛力整備計画はAH-1SとAH-64Dの退役から多用途/攻撃用UAVの戦力化までの継投策として、既存のヘリコプターの武装化により、必要最低限な機能を保持するとしています。
 
 対戦車や対地での運用を想定した攻撃ヘリコプターを早期退役させ、武装化した汎用ヘリコプターで置き換えるという手法は、ドイツ陸軍も採用しています。ドイツ陸軍はエアバス・ヘリコプターズのH145Mに、同社が開発した汎用ヘリコプター用武装キット「H Force」を搭載しました。

 H Forceの武装の内容は、機関銃を内蔵したガンポッド、無誘導ロケット弾、レーザー誘導ロケット弾と平凡ですが、タレスが開発した、夜間暗視装置との互換性を備えたヘルメット装着型照準装置「スコーピオン」により、夜間戦闘能力や精密攻撃能力を備えます。

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H Force」と組み合わせるヘルメット内蔵型照準装置「スコーピオン」(竹内修撮影)。

 防衛省・陸上自衛隊の考える「既存ヘリの武装化」がどのようなものになるのかはまだ不明ですが、UH-2汎用ヘリコプターに簡易な照準装置とガンポッドやロケットランチャーを組み合わせたものになる可能性が高く、その場合、戦闘力は専用の戦闘(対戦車)ヘリコプターはもちろん、ドイツ陸軍のH145Mよりも劣ってしまうでしょう。

 陸上自衛隊の地上部隊の支援は航空自衛隊の戦闘機などでもできますが、陸上自衛隊が自前の航空支援能力を持つ意味は大きく、速やかな多用途無人機の導入が望まれます。

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