日本の国益を守るため 海上保安庁の最新船「光洋」知られざる任務に迫る! 姉妹船にはない“唯一無二”の装備も

]海上保安庁が保有する最大かつ最新鋭の測量船が、お台場で一般公開されました。ただ、測量船とはそもそもどんな船なのかでしょうか。実は、島国日本にとって欠かせない役割を担っていました。

海保最新の測量船が一般公開

「海の日プロジェクトin青海」の一環として2024年7月15日、東京国際クルーズターミナルで海上保安庁の測量船「光洋」が公開されました。同船は2021年3月に三菱重工業下関造船所で竣工した最新鋭の大型測量船で、海上保安庁の海洋情報部が行う海洋調査に使用されています。

 測量船は非武装で、人命救助や領海警備などに用いられることがほとんどないため、海上保安庁の船艇や航空機のなかでも特に普段どういった活動に従事しているのか、わかりにくいものかもしれません。

 ただ、周りを海に囲まれた島国の日本にとっては、実は必要不可欠な船でもあります。その一端を、このたびの一般公開でうかがい知ることができました。

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海上保安庁の測量船「光洋」(深水千翔撮影)。

「光洋」には、同型船として「平洋」がありますが、両船は外観こそ似通っているものの、搭載している装備には大きな違いがあります。具体的には、「平洋」が「自律型潜水調査機器(AUV)」や「自律型高機能観測装置(ASV)」、「無人高機能観測装置(USV)」といった調査機器を搭載し、精密な海底地形調査に特化しているのに対し、「光洋」は地質調査や底質調査に特化した機能を持っています。

 同船の任務について、海上保安庁は「日本海や東シナ海などにおいて、我が国の海洋権益の確保に必要な海底地形や地質に関する調査などを実施している」と説明します。

 同船では人工的に発生させた地震波を用いて海底下を探査する「地殻構造調査」や、採泥器を海底まで降ろし堆積物を採取し調査する「底質調査」などを行うことができます。

 地殻構造調査では海中で高圧空気を放出し、強力な音波を発生させるエアガン、ケーブル内の水中マイクロフォンで海底から戻って来た音波を受信するストリーマーケーブル、そしてデータ収録装置で構成された音波探査装置や海底に設置し、海底下から戻って来た微弱な音波を受振する海底地震計が用いられます。

水深1万m以上の海底地形にも対応可

 深海では3基の大型エアガンと全長3000mのストリーマーケーブルを、浅海では1基の小型エアガンと全長300mのストリーマーケーブルを使用。人工地震波の伝わり方を解析することで地層の厚さや断層の分布、地殻の性質といった海底下の構造を把握します。

 底質調査では、パイプを刺して柱状に海底下の堆積物などを採取するコアラーや、表面の底質などを採取するグラブ採泥器に加え、硬い岩石試料などを採取する場合はドレッジを使用します。採泥用巻揚機には長さ8000mのワイヤーが巻かれており、この先端に採泥器を取り付けて海中に投入します。

 これらに加えて音波ビームと反射エコーのデータを計測するマルチビーム測深機や、地球磁場の強度を測定する海上磁力計、船で航走しながら海水を計測するXBT(鉛直水温水深計)やXCTD(鉛直塩分水温水深計)などを装備しています。

 マルチビーム測深機は海底に向けて広角に音波を出し、音波の往復時間と水中での音の速度から水深を計測するもので、船の航跡に沿って水深の約3倍以上の幅で、最大約1万1000mの深さの海底地形を明らかにすることができます。

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船体後部に備えたストリーマーケーブルとテールブイなど(深水千翔撮影)。

 なお、「光洋」には舵とプロペラが一体となった、360度全周囲に推進力を向けることが可能な推進装置「アジマススラスター」が搭載されており、これにより同庁は「船の定点保持能力が向上し、精密かつ効率的な海洋調査が可能となった」と話します。

 このアジマススラスターは海上保安庁の測量船として「平洋」で初めて採用されたもので、位置、方位、動揺、気象海象などのデータから自動でプロペラの制御を行い、現在位置を正確に維持することができます。これにより、調査機器の投入・回収などをより安全に実施することができるようになりました。また、電気推進を採用することで振動と騒音を低減。低速航行時の運転調整も容易になっています。

まだまだ増えるぞ海保の測量船

 このように、さまざまな機能を持つ大型測量船の「光洋」が建造された理由について、海上保安庁は「近年、日本の排他的経済水域において中間線を越えた境界画定を主張している国がある中、日本周辺海域において、外国海洋調査船による日本の同意を得ない調査活動などが多数確認されるとともに、その活動海域も広域化している」と背景を説明します。

 海上保安庁いわく「日本の海洋権益を守るためには、国内関係機関との協力・連携を進めつつ、他国による日本とは異なる境界画定の主張に対応するために必要な海洋調査を計画的に実施し、あらゆる科学的調査データを収集・整備しておく必要がある。このように必要な海洋調査体制を強化するため、大型測量船の整備などを進めてきた」とのことでした。

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「光洋」の第1観測室に並ぶモニター(深水千翔撮影)。

 このように、日本の海洋権益を守るために欠かせない存在の測量船。周辺国や国際機関に科学的な調査に基づく客観的各種データを提示して日本の権益を主張できるよう、最新装備を搭載した高機能な新型測量船の建造が計画されています。

 直近でいえば、2024年度中に27m型測量船が就役し、第10管区海上保安本部に配備される予定です。加えて、本庁の海洋情報部向けに新たな大型測量船の整備も計画されています。

 同船は測量船「拓洋」の代替船と見られ、2027年度からの運用開始を予定しています。同庁は「水路測量及び海象観測などの安全かつ効率的な作業ができるよう、最適な船型・装備設計を行い、測量機器などの高機能化を進め、効率化、省力化を図っていく」と述べています。

 海底地形調査が得意な「平洋」、海底地質調査が得意な「光洋」。それぞれが持つ最新鋭の機器を活用し、海洋権益の確保はもちろん海洋資源や防災といった、海にまつわる多くの調査を担うことを期待しています。

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