「衝撃。デカすぎる」 ディズニーのクルーズ船にザワつきまくる日本の船業界 それは脅威か、希望か
突如発表されたオリエンタルランドによる「ディズニークルーズ」の日本展開のニュースが、船舶業界に衝撃を与えています。新造される客船の規模は日本の従来のクルーズ船を大幅に上回るサイズ。「まさに黒船」との声もあります。
船舶業界を震撼させた「ディズニークルーズ」
「衝撃。びっくりした」――日本外航客船協会の伊藤正幸事務局長は新たなクルーズ船社の誕生にそうコメントしました。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが2024年7月9日に発表したクルーズ事業への参入表明が、日本の船舶業界を震撼させています。
オリエンタルランドはディズニー・エンタープライゼズとライセンス契約を締結し、日本を拠点にディズニークルーズを展開します。同社は日本船籍のクルーズ船では最大となる14万総トン級の新造船を2028年に就航させるとし、すでにドイツの造船所マイヤー・ベルフト(Meyer Werft)と「ディズニー・ウィッシュ(Disney Wish)」級クルーズ船の建造契約を結んでいます。
「日本船籍船で14万総トンは例がない。世間的にインパクトが大きく、クルーズ船について知る人が増えることで、クルーズ人口のすそ野が広がる。業界の発展にとって喜ばしい」(伊藤事務局長)
日本市場に参入するクルーズ事業者を包括的に支援するサービスを開始した「THUNDERBIRDS(サンダーバード)」の末次康将CEO(最高経営責任者)も「まさに黒船」と語り、「3300億円という投資額は開園当時のディズニーシーの総工費と同規模。他にも日本の客船マーケットに興味を示している会社もあり、これをきっかけに盛り上がってほしい」と話していました。
邦船大手は需要の高まりが見込まれるクルーズ事業への投資を拡大しており、新造船では日本郵船グループの郵船クルーズが運航するLNG燃料クルーズ船「飛鳥III」(5万2200総トン)が2025年夏に就航を予定。商船三井グループの商船三井クルーズも3万5000総トン級の新造クルーズ船2隻を2027年までに就航させる計画です。加えて同社が新たに購入した「MITSUI OCEAN FUJI」(3万2477総トン)も2024年12月から運航を始めます。
こうした中で発表されたディズニークルーズの日本就航。郵船クルーズの広報は「日本船籍に踏み込んだことが大注目」と話します。
「ふるさとが同じ」クルーズ船がディズニーより早く日本へ
郵船クルーズの「飛鳥III」はオリエンタルランドの新造船と同じマイヤー・ベルフトで建造が進められています。「マイヤー・ベルフトで日本船籍船にするのはハードルが高く、当社もJG(国土交通省)船級を取得するために一つずつ課題をクリアしていった」と述べ、「ディズニーには熱心なファンがおり、新規層の開拓にもつながる。これを機にクルーズが旅行の一つの選択肢になってほしい」と期待感を示しました。
商船三井クルーズの広報は「当社も日本のクルーズ市場に大きな成長可能性を見ている。お客様の選択肢を増やし、日本のクルーズ市場全体の成長につながる」とオリエンタルランドのクルーズ参入を歓迎します。
「日本を拠点としてクルーズ船を運航する船社が2社から3社に増えることによって、日本の寄港地発展への貢献、クルーズ業界で働く人財の開発、さまざまなルール・制度の近代化といった点において規模のメリットが生まれ、業界の成長につながることを期待している」(商船三井クルーズ)
国土交通省によれば2023年のクルーズ船の寄港回数は日本全体で1854回。世界的にクルーズ船の大型化が進む中、日本発着の航路でもMSCクルーズの「MSCベリッシマ」(17万1598総トン、乗客定員5568人)のような大型客船が増えており、各港は対応する岸壁やクルーズターミナルの整備を進めてきました。
同省海事局外航課は「世界の同等規模の船と比較しても相当のインパクトがある。業界に関わっている人は好意的に受け止めているのではないか」とコメント。「日本船籍のクルーズ船が増えており、10人に1人が船に乗るような世の中になってくるかもしれない。市場が広がればものの見方も変わってくるだろう。ディズニーのクルーズ船をきっかけに、船員になりたいという子供も出てくる可能性もある」と語っていました。
どれだけデカいのか新造船 どこを母港に?
同省港湾局産業港湾課は「クルーズ振興にとって良い話だと思っている。東京だけでなく関西圏などにもディズニーファンがいるため、地方でも見られるようになれば嬉しい」と話します。一方で同型船である「ディズニー・ウィッシュ」の船体規模から「長さ350m、水深10m近くの岸壁が必要で、全ての港につけられるわけではない。4000人の乗客を受け入れられるターミナルビルも必要だ」と指摘。
加えて首都圏発着の短期航路が中心であることについて「ショートクルーズだとターミナルを頻繁に使うことになる。外国クルーズ船が毎日のように停泊しているため、それとの調整が必要になってくる」と話していました。
ここで早くも“ラブコール”を示したのが、横浜市の港湾局です。「4000人の需要が生まれるチャンス」と意気込みます。
横浜港は「大さん橋国際客船ターミナル」「大黒ふ頭客船ターミナル」「新港ふ頭客船ターミナル」の3か所でクルーズ船を受け入れており、最大で5隻の同時着岸に対応しています。2023年の年間寄港回数は国内1位となる171回を数えました。
「横浜港は小さい船から大きな船まで集まってきている。『飛鳥III』や『MITSUI OCEAN FUJI』などが加わる中、ディズニーの新造船がもし寄港していただければ嬉しい。クルーズ船を幅広く誘致することで、観光の促進につなげていきたい」(横浜市港湾局)。
東京国際クルーズターミナルを抱える東京都港湾局も「テーマパークがそのまま船になっている。内容も反響の大きさもさすが」と述べ、「2023年は49隻が東京港に寄港した。晴海も含めた2バース体制を整え、クルーズ船の寄港回数をもっと増やしていきたい。今回の新造船はすごいインパクトがあり、これでクルーズ業界が盛り上がってくれると嬉しい」とコメントしています。
07/17 08:12
乗りものニュース