どっこい生きてる「レア鉄道車両5選」 私たちワケあって少数派になりました

あと1~2編成置き換えれば車種が統一できるにもかかわらず、どういうわけか残ってしまった鉄道車両。その理由は何なのか、JR東日本と私鉄の5車種を例に、事情を探ってみました。

生き残りの裏にはドラマあり

 鉄道車両の寿命は一概にはいえませんが、現代の通勤形であれば製造から15年程度で機器を更新し、30~40年程度運用することが想定されています。しかし様々な外的要因によって、必ずしも予定していた車齢で廃車になるとは限りません。
 
 今回は、そのような“運命のいたずら”で少数ながら生き残った、ある意味で強運な車両を5車種紹介します。

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E331系が復帰するまでの「つなぎ」だったはずの、JR京葉線209系ケヨ34編成。しかし現在も機器更新のうえ活躍中(伊藤真悟撮影)。

JR京葉線209系500番台

 京葉線は現在、24編成のE233系電車と1編成の209系電車500番台、計25編成で運用されています。なぜ1編成だけ209系が残ってしまったのか。その背景には、かつて京葉線で運用されていた試作車があります。

 その車両はE331系電車。14両編成の連接車で足回りも新機軸を多く投入した意欲的な車両でした。京葉線ではこのE331系を先行で1編成運用し、その結果を踏まえたうえで量産車を製造し、当時運用していた国鉄型201系電車や205系電車、209系を置き換える予定だったのです。

 ところがE331系は意欲的がゆえに故障が続発。安定した運行への道筋が立たなくなり、京葉線にも他線同様のE233系を導入することとなりました。

 しかしE331系は製造から10年も経っておらず、廃車にはまだ早いことからE233系は必要数より1本少ない24本を製造。残り1本はE331系が安定するまでの「つなぎ」として209系を残すことにしました。

 しかし結果としてE331系は再起せず2014(平成26)年に廃車され、つなぎとして残った209系を機器更新して使用することになったのです。車体こそ209系とE233系は異なりますが、京葉線209系の足回りはE233系と同等のものとなり、性能も変わりませんので今後しばらくはその活躍が見られそうです。

タイミングよく次の仕事が… JR中央快速線209系1000番台

 209系1000番台は、JR常磐緩行線用として1999(平成11)年に登場。同線の列車増発用ということで2編成だけ製造された、209系の中でも少数派といえる車両です。

 常磐緩行線ではほかの系列と共通で運用されていましたが、車両をE233系2000番台で統一することになり、当時すでに製造から19年が経過した209系1000番台は2018(平成30)年10月にその役割を終え、廃車となる予定でした。

 しかし引退して2か月後、中央快速線のグリーン車組み込み工事に伴う予備車両の確保という名目で延命が決定。エメラルドグリーンの帯をオレンジバーミリオンに変えて豊田車両センターに転属し、中央快速線での活躍が始まりました。

 予定では2020年度からグリーン車組み込みが始まり、2023年度末にサービスを開始する予定でしたが、世界的な半導体不足の影響から2024年度末以降に延期され、もうしばらく209系1000番台の活躍は続くようです。

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JR南武支線で運用されていた205系1000番台。置き換えのE127系は2編成しかなかったため1編成が残る結果に。写真は別の編成(2012年12月、児山 計撮影)。

1本足りないけど大丈夫?… JR南武支線205系1000番台

 1985(昭和60)年、山手線への投入を皮切りに首都圏や関西圏の主要通勤路線に大量投入された205系ですが、現在では老朽化により廃車が進み、JR東日本エリアでは仙石線と南武支線にその姿を残すのみとなっています。

 その南武支線は、かつては205系が3編成活躍していたところに、新潟エリアで余剰となっていたE127系電車を転属させ、3編成中2編成を置き換えました。JR東日本のニュースリリースでは「制御方式がVVVFインバータ制御となり、車両の消費電力を抑制し環境性能を向上させるとともに、故障に強い車両です」と記されており、より経済性と安全性を高めるために、2両編成という特性を活かせる南武支線への転属は理にかなっているといえます。

有名観光地を走る車両にも

 しかし余剰のE127系は2編成だけだったので、結果として205系が1編成残ってしまいました。しかしE127系と入れ替わりで廃車になった205系2編成分の機器が捻出できるので、故障しても交換部品は手配可能。そのため冗長性は十分確保できると判断したのでしょう。

 残った205系は製造からまもなく40年が経過しますが、2024年6月時点でJR東日本から置き換えの公式アナウンスはないため、当面は首都圏で国鉄型車両の雄姿が見られることでしょう。南武支線の205系は1985年に山手線へ投入された車両で、文字通り「首都圏最後の国鉄型電車」となります。

改造に次ぐ改造で生き残る… 江ノ島電鉄300形305編成

 JRだけでなく私鉄にも「結果残ってしまった」車両が存在します。神奈川県の観光地を走る江ノ島電鉄の300形電車305編成が好例といえるでしょう。

 305編成は1960(昭和35)年製造。すでに64年が経過しており、保存目的でなければ廃車されてもおかしくないほど古い車両です。実際6編成あった300形も、この305編成を残してすべて廃車となり、新しい車両に置き換わっています。

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残り1編成になると「昔ながらのスタイル」が人気となり、延命改造を受けて現在も活躍する江ノ島電鉄300形305編成(児山 計撮影)。

 しかし305編成は、冷房化や足回りの更新によって性能や居住性はほかの形式と遜色ないものとなったことで、運用面での不便はなくなりました。加えて1編成だけ残った「昔ながらの江ノ電」は観光資源としても注目を集めることとなり、江ノ電としてもできる限り長く使おうという方針に転換。現在も新型車両に伍して運用しています。

 システムや性能は他形式と同等になったとはいえ、木の床や「バス窓」と呼ばれる側面窓は昔のまま。300形の部品の中にはメーカーがすでに製造を打ち切っているものもあり、維持コストは新型電車に比べかかってしまいますが、江ノ電としては「江ノ電の魅力のひとつ」としてできる限り残していく方針のようです。

置き換え開始から20年も走った電車 熊本電鉄5000形

 5車種目はすでに引退した車両ですが、置き換えが始まってから20年以上も長生きしたので紹介します。

 熊本電鉄の5000形電車は1981(昭和56)~1985(昭和60)年に東急電鉄から購入した車両で、とても軽いボディの高性能車でした。しかしその軽量構造ゆえに冷房化が難しく、1990年代に入るとサービス向上のため、冷房付きの車両への置き換えが検討されました。

 1995(平成7)年には東京都交通局から6000形電車を購入し、5両あった5000形のうちまずは3両を置き換えましたが、残る2両はなんと2016(平成28)年まで21年も残存しました。これは熊本電鉄上熊本線の一部駅のホーム長さが関係していました、

 車体長20mの6000形では入線できないため、車体長17~18mの中古車を探すもののなかなか適切な車両が入手できず、その間にも5000形だけでなくほかの車両の老朽化も進行し、置き換えが滞ったのです。

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1995年の置き換え開始から21年間も使われた熊本電鉄5000形5101A。路線に合う中古車が見つからないという中小私鉄特有の事情で生き残った(乗りものニュース編集部撮影)。

 1998(平成10)年に南海電鉄から18m級の22000系電車を購入したもののこれは1編成だけの導入にとどまり、結果として東京メトロ01系電車を2015(平成27)年に購入し5000形を置き換えました。5000形は翌年ようやく引退となり、東急時代から通算すると59年という長い活躍に幕を閉じました。

※ ※ ※

 鉄道車両の寿命は様々な要因で伸びたり縮んだりします。今回は紹介していませんが、逆に予定に反して短命に終わってしまった車両も少なからず存在します。鉄道車両が引退するとき、その車両がどんな「車生」を歩んできたのか調べてみると、意外なドラマが見つかるかもしれません。

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