迷惑!相席ブロック・直前キャンセル・予約逃げ…バス業界が“無防備”だった歴史的理由 「キャンセル料を上げる」デメリットも
高速バスを2席予約し、発車直前で1席をキャンセルするといった迷惑行為に対し、事業者が神経をとがらせています。「ならばキャンセル料を上げれば」との意見もありますが、それにはデメリットも存在。どのように対処するのでしょうか。
「相席ブロックやめて」という訴え
沿岸バス(北海道)が、高速バスを2席予約し、そのうち1席を発車直前にキャンセルする「相席ブロック」をやめるようSNSで呼びかけたことが話題となりました。確かに、ウェブ予約が普及したことで直前にキャンセルしやすくなりました。また、多くの高速バス事業者で「キャンセル料」はわずか110円です。
一方で「当日キャンセルは運賃額の50%」という事業者もあり、「キャンセル料を引き上げるべき」という声もあります。
同社の「特急はぼろ号」は、予約制路線でありながら、昨年までウェブ予約に対応していなかった全国でも稀有な路線です(現在も日本交通の大阪・神戸~鳥取県各地の路線が、メールフォームによる申込みだけに対応しウェブ予約不可)。ウェブ予約開始からまだ1年で、利用者も事業者も不慣れな部分があると思われます。
しかし、直前キャンセルの問題は、業界内でこれまで多くの試行錯誤がありました。
1980年代に高速バス路線が急増した際、鉄道のきっぷが全国の「みどりの窓口」で購入できることへの対抗策として、電話予約が定着しました。長距離・夜行路線では「予約後3日以内」「乗車日の3日前」など発券期限が設定される例が多かったものの、片道2~4時間程度の中距離・昼行路線では発券期限なしが普通でした。
つまり「電話で予約し、当日、窓口または車内でお金を払う」パターンです。なお、片道2時間未満の短距離・昼行路線は、おおむね非予約の自由席制なのでこの問題の対象外です。
予約制で、かつ当日支払いも認めると、ノーショー、つまり予約したのに当日現れない人が出てきます(ノーショーは航空や宿泊業界で世界共通の用語ですが、バス業界に定着したのは最近で、当時は「未発券」などと呼ばれていました)。バス事業者にとっては機会損失となりますが、それを許容し続けた理由は、やはり競合対策です。
予約した人が現れない! そのキャンセルは「手数料」
多くの中距離・昼行路線は30分間隔など高頻度で運行され、リピーター比率の大きさが特徴です。リピーターは、予約するにしても乗車日直前が多く、かつ「遅めの便を押さえておき、当日、用件が早く終われば一本前の便に変更して帰宅」というように、予定に縛られない使い方を好みます。
鉄道には自由席のほか、指定席に乗り遅れても後の便の自由席を利用できるという柔軟さがあり、それに対抗するため「当日支払い」という方法で手軽さを追求したのです。これが、80~90年代に高速バスの急成長を後押ししました。
2000年以降、京王バスが運営する「ハイウェイバスドットコム」を皮切りに高速バスのウェブ予約が一気に定着します。追って、クレジットカードなどによるウェブ決済も普及しました。窓口に出向かなくても発券(決済)できるようになったことを受け、ノーショー対策として、ウェブ決済へ積極的に誘導した上で「予約後3日以内」や「前日24時まで」など決済期限を設け、未決済の予約を自動的にキャンセルする路線が増加しました。
その結果、ノーショーは減ったのですが、今度は直前キャンセルの心理的ハードルが下がりました。以前なら(実際に急用などの場合は別として)窓口で対面して「1人分はキャンセル」とは言いづらかったはずですが、ウェブなら体裁を気にする必要はありません。
すると、より重要となるのが「キャンセル料」の金額です。高速バスのほとんどの路線では100円(消費税率変更により現在は110円以内。以下同じ)と格安だったことで、直前キャンセルは経済的にもハードルが低かったのです。
これは、高速バスが制度上は乗合バス(路線バス)であり、乗合バス用の標準運送約款(事業者と利用者の間の契約書のようなもの)において「普通乗車券の払戻し手数料」が「100円以内」とされてきたからです。高速バスのきっぷは、券面に便名や座席番号が記載されているにも関わらず、利用者が購入するのは「普通乗車券」、つまり鉄道でいう特急券を含まない「運賃」部分のみという扱いでした(ごく一部に例外あり)。そのため、キャンセル時に請求できるのは100円だったのです。
片や「キャンセル料50%」のバスも
一方、2002年から認められ新規参入事業者が相次いだ「高速ツアーバス」という事業モデルは、制度上は旅行業法に基づく募集型企画旅行でした。
募集型企画旅行の標準約款では、キャンセル料として「10日前以降のキャンセルの際は旅行代金の20%以内、7日前以降は30%以内、前日は40%以内、当日は50%以内、無連絡不参加などは100%以内」と定められています(上記は日帰り旅行の場合)。そのため高速ツアーバス各社では、当日キャンセルの場合は50%しか返金されませんでした。
つまり、既存の高速バスでは「払戻し手数料」だから100円、高速ツアーバスでは「キャンセル料」として50%という風に、法令上の意味合いの違いが金額の差につながっていたのです。
2013年、既存の高速バスと高速ツアーバスの制度を一本化するにあたり、乗合バスの標準運送約款を国が改正し、払戻し手数料の項目に「乗車する自動車を指定した普通乗車券又は座席券」の場合を追加しました。その結果、募集型企画旅行のキャンセル料とほぼ同等の設定も可能となりました。つまり、既存の高速バスにおいても「当日の払戻し手数料は50%」とすることが可能となっています。
考えてみれば、予約制の高速バスでは、「払戻しの手数」の対価ではなく「直前まで座席を押さえたことで他の利用者に販売できなかったこと」の対価として、キャンセル日に応じた額の手数料を徴収する方が理に適っています。
それでも、昔からそうだったという理由で、既存事業者の高速バス路線のほとんどで払戻し手数料は今でも100~110円のままです。
では既存の高速バスもかつての高速ツアーバスと同等の払戻し手数料を設定すればいいかというと、必ずしもそうではないと筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は考えています。長距離・夜行路線はともかく、高頻度運行する中距離・昼行路線では、やはり、自由席があり、指定席に対しても乗り遅れ時の救済措置がある新幹線や特急列車との競合を無視できないからです。
単純に「手数料を上げる」でいいのか?
これらの路線は直前予約の比率が大きく、キャンセルされた席も再販売されやすいという特徴もあります。直前のキャンセルを除けば、払戻し手数料は110円など安めに設定し、昼行高速バスがもともと追及していた「手軽さ」を維持する方が優先だと考えられます。
そのうえで、直前(前日や当日)のキャンセルに限り運賃額の20~50%程度の手数料を徴収するのが妥当です。JRバス各社や京王バスなどで、この「折衷型」の導入が進みつつあります。
ただし、キャンセルではなく便変更であれば、当日であっても手数料は不要でしょう。早い便の空席に変更してもらえれば、後の便に空席が生まれ新たな予約を受けられるという利点もあります。
これらの路線では、むしろ逆に、乗り遅れた際に機械的に「返金なし」とするのではなく、当日中の後の便に乗車するなら50%程度の手数料を負担してもらうことで変更を認める、くらいの柔軟性も必要だとも考えています。
また、ウェブ上での手じまい時刻(予約、変更、キャンセル期限)は、路線によって異なります。乗車改札時の予約確認を、紙の座席表ではなく車載の電子座席表(タブレット端末)で行っている路線では、手じまい時刻をぎりぎりまで遅くすることができます。「東京都内で用件が終わって、地下鉄でバスタ新宿に向かいながらスマホ上で便を変更して帰宅」という地方在住のリピーターのニーズに寄り添うことこそ重要です。
なお、過去には、今回の沿岸バスの指摘よりも極端な例ではありましたが、水増し予約を繰り返した人物が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたケースもあります。ウェブだと気軽にキャンセルできる一方で、ログ(記録)が全て残っていますから、悪意による架空予約、水増し予約はしないようお願いします。
07/02 09:42
乗りものニュース