なぜ再燃? 北陸新幹線「米原ルート」 国もJRも“無理”というが… ネックな敦賀乗り換え解消法をマジメに考えてみた

未完成である北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、2016年に「小浜・京都ルート」に決定しました。しかし金沢~敦賀間の開業後、乗り換えの不便さから「米原ルート」が再燃しています。この両ルートの問題と、今できることを考えます。

新大阪までは紆余曲折

 北陸新幹線は東京から北陸地域を経由し、最終的には新大阪までを結ぶ計画で、2024年現在では東京~敦賀間が開通しています。残りの敦賀~新大阪間については、複数のルート案での議論がなされてきました。
 
 1973(昭和48)年に制定された全国新幹線鉄道整備法では、「小浜市付近を経由し、東京と大阪を結ぶ路線」と定義され、当初は福井県の敦賀から小浜を経由して新大阪を直接結ぶ「小浜ルート」が想定されました。

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北陸新幹線(安藤昌季撮影)。

 その後、北陸中京新幹線の一部となる敦賀~米原間を建設し、米原駅(滋賀県米原市)から新大阪駅までは東海道新幹線に乗り入れる通称「米原ルート」や、JR湖西線に沿って走り、京都~新大阪間だけ東海道新幹線に乗り入れる「湖西ルート」、小浜から舞鶴に迂回し、京都、新大阪を目指す「舞鶴ルート」が検討されました。

 完成後に運営することとなるJR西日本は、1999(平成11)年に当時の南谷社長が「建設費や工事難易度から米原経由が現実的」と発言しましたが、その後本格的なルート選定が進み、2014(平成26)年には当時の真鍋社長が「東海道新幹線と北陸新幹線は運行管理システムが違い、東海道新幹線の過密ダイヤからも直通は非現実的」と、見解を改めています。実際、特に京都~新大阪間は車両基地への回送電車を含めると、4分ごとに新幹線が走り、北陸新幹線を走らせるのは困難だと思われます。

 2015(平成27)年には、JR東海の柘植社長が「ダイヤとして東海道新幹線への乗り入れは困難」と同調。JR西日本は、小浜から京都駅を経由し、そのまま別ルートで新大阪を目指す「小浜・京都ルート」を提案し、翌2016(平成28)年に決定したわけです。

露呈した「小浜・京都ルート」の課題

 しかし「小浜・京都ルート」は、歴史的な遺物や地下水も多く存在する京都市内を大深度地下で抜けることへの危惧や、2兆700億円という高額な建設費が課題となっています

 そして2024年。北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業し、大阪~金沢間での敦賀駅乗り換えが必要となりました。金沢~敦賀開業時点では当初、新大阪~金沢間は在来線と新幹線で軌間を変換して直通する「フリーゲージトレイン」で運行し、乗り換えなしの想定でしたが、開発は失敗。在来線では高速の特急「サンダーバード」を置き換えたこともあり、時短は大阪~金沢間で最大22分とわずかなうえ、特急料金は1600円高くなったため、「敦賀での現状固定をすぐ解消しろ」という声が高まりました。

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2016年に「小浜・京都ルート」が決定した(画像:国土交通省)。

 そこで再注目されているのが、建設距離が「小浜・京都ルート」の約143kmに対し約50kmと短い「米原ルート」です。これなら安い建設費で高速化できると、与野党の一部や加賀市長らが決定の見直しを求めているのです。

 ただし「米原ルート」が選定されない理由は複数あります。鉄道・運輸機構は2024年6月に公表した「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)のルートに関する議論について」の中で、「北陸新幹線と東海道新幹線は運行管理システムと脱線・逸脱防止装置が異なり、線路容量も逼迫しているので、米原~新大阪間の直通は困難」「所要時間・運賃・料金が小浜・京都ルートより増える」「環境影響評価手続きが新規に必要」としています。加えて、「小浜・京都ルート」を支持し、東海道新幹線新駅設置を否決した滋賀県の同意を得ることも必要なので、早く解決できるかは不明です。

 なお、鉄道・運輸機構は北陸新幹線の新大阪駅を別に地下に設け、山陽新幹線と直通させる構想も示しています。脱線・逸脱防止装置は、北陸新幹線と山陽新幹線は同じです。つまり、JR西日本の路線内となる新大阪地下駅でなら、運行管理システムの車上切り替えをする時間が取れるのかもしれません。

「狭軌新幹線」を作れないか

 JR西日本としては、「米原ルート」は米原~新大阪間の収入が、東海道新幹線を運営するJR東海に取られるデメリットもあります。しかし前述の通り、メリットがあるJR東海側も直通を否定しているわけです。

 名古屋~新大阪間の線路容量を軽減できるリニア中央新幹線の全通時期も不明なので、「米原ルート」は「敦賀駅での乗り換えが米原駅に移る」ルートともいえそうです。国は新大阪~敦賀間の所要時間を、「小浜・京都ルート」が43分、「米原ルート」が乗り換えありで67分としています。特急「サンダーバード」の新大阪~敦賀間は最速77分ですから、5900億円かけて10分しか短縮できず、乗り換えも解消されません。大阪~金沢間で考えるなら、新大阪、米原の2回乗り換えとなり、時短0で不便になるだけです。

 なお筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、「米原ルート」より便利で、「小浜・京都ルート」の完成が相当先になっても許容される選択肢があると思えます。それは「狭軌新幹線」開発です。

 北陸新幹線の敦賀~富山間を三線軌条にし、在来線から狭軌新幹線を直通運転させるという考えです。フリーゲージトレインの失敗理由は、軌間変更機能に耐久性がなく、最高270km/h以上の走行が困難とされたことですが、狭軌の線路幅に新幹線の走行機器を収めて270km/hで走れる車両は実用化できていました。つまり、軌間変更機能を外した狭軌新幹線は作れるわけです。

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四国鉄道文化館に保存されているフリーゲージトレインの二次試験車両(安藤昌季撮影)。

 1954(昭和29)年の「超特急列車の一構想」では、「在来線の最高150~160km/h運転は新幹線の200km/hに相当する」とされており、320km/hの新幹線を狭軌にすると256km/h相当、次世代新幹線のE956形試験電車「ALFA-X」の360km/hなら288km/h相当です。北陸新幹線の最高速度は260km/hと低く、狭軌新幹線は、同区間でのフル規格新幹線と同じ速度を出せるはずです。

所要時間はどのくらいに?

 なお、京都~敦賀間の大半を占める湖西線には踏切がなく、国鉄時代から最高160km/h運転で7分短縮とされていました(現在なら車両の加減速度向上などであと1分くらいは短縮できるでしょう)。湖西線にホームドアを設ければ、狭軌新幹線の160km/h運転は容易でしょう。

 また、本来の米原ルートである北陸・中京新幹線の一部として、福井県内の敦賀~新疋田間6.7kmに新幹線規格の狭軌新線を建設します。続く新疋田~近江塩津間7.8kmはその間の5.1kmがトンネルで、残りの区間にも踏切がないので、そのまま湖西線に連続して160km/hで走れば、敦賀~近江塩津間で5分程度は短縮できると思われます。

 湖西線経由は強風によるダイヤ乱れ問題がありますが、JR西日本が沿線に防風柵を設置し、運転規制となる風速を秒速30mに引き上げたところ、運転見合わせ時間が設置前の26%に減ったとのことですから、改良でのリスク引き下げは可能でしょう。札幌市営地下鉄のように線路の一部をフードで覆っても、「米原ルート」建設より安いのではないでしょうか。

 上記を実行した場合、新大阪~金沢が敦賀通過で1時間43分(現状より22分短縮)、富山駅までが2時間3分程度となります。「小浜・京都ルート」は新大阪~金沢間が1時間19分、富山駅までが1時間39分程度、乗り換えのある「米原ルート」だと新大阪~金沢間が1時間41分、富山駅までが2時間1分程度です。

 さらに狭軌新幹線は在来線を通り関西空港やUSJ、名古屋駅へも直通可能です。在来線経由なので並行在来線問題も発生せず、京都駅も経由。「米原ルート」のように収益の一部をJR東海に取られる問題もありません。運行管理システム変更も不要です。

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特急「サンダーバード」(安藤昌季撮影)。

 その後で「小浜・京都ルート」が完成しても、名古屋~富山間の特急「しらさぎ」を狭軌新幹線で残せば、三線軌道設置や狭軌新幹線の開発費は無駄になりません。敦賀~富山間を三線軌条にするには北陸新幹線を止める必要がありますが、旧北陸本線の第3セクター鉄道に、一時的に特急「サンダーバード」を復活させればよいのではないでしょうか。

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