地面スレスレ!? 低すぎる「止まれ」標識 自衛隊那覇基地の「珍百景」は、戦闘機を守る秘訣だった!?

2022年4月上旬に起きた台湾東部沖地震で、航空自衛隊の那覇基地が採った対応が注目を集めました。戦闘機を高台に避難させるというものでしたが、そのために事前に基地内の標識などに加工を施していたとか。現地で見てきました。

公式SNSがF-15の列を公開して大注目

 日本にほど近い台湾で今年(2024年)4月3日、「台湾東部沖地震」が起きたのは記憶に新しいところです。このとき、台湾からそう遠くない沖縄県には津波警報が出され、海に面した那覇空港では航空機の離着陸が一時停止、ターミナルビルなどにいた観光客や職員には建物上層階への避難が呼びかけられました。

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台湾沖の地震によって出された津波警報を受け、牽引車に引かれて那覇基地の高所へと上げられたF-15戦闘機。万一に備えて消防車も車庫から出て高台に避難していた(画像:航空自衛隊那覇基地)。

 一方、那覇空港には隣接して、航空自衛隊の那覇基地もあります。こちらでは、より台湾に近い与那国島や石垣島といった先島方面の被害状況を確認するため、航空機をスクランブル発進させるとともに、F-15戦闘機や各種車両などの装備品を守るため、それらを海抜の高い場所へ退避させました。その様子は地震発生から2日経った4月5日、基地の公式SNSで公開され大きな反響を呼びました。

 公開された画像を見ると、牽引車に引かれたF-15戦闘機が列をなして高台の道路上に並べられているのが確認できます。ただ、こうした行動は一朝一夕ではできないはず。津波対策に関する事前訓練など、これまでどのような下準備を行ってきたのか、2024年4月下旬、那覇基地へと趣き、広報担当の隊員からハナシを聞いてきました。

基地/空港は海に面した低い場所

 そもそも那覇基地/那覇空港は、戦前から那覇市街の西側、海に面した場所を埋め立てるなどして開設された経緯があります。直近でも、2020年3月から運用を開始した第2滑走路は内陸に造ることができなかったため、沖合を埋め立てて新設されています。
 
 ゆえに、滑走路やそれに面して広がるエプロン地区(駐機場)、格納庫などは軒並み海抜10m以下に位置しています。国土交通省が公開している津波災害想定を見ると、那覇空港は最大5m浸水するとされているほか、沖縄県の津波ハザードマップでは那覇空港に最大遡上高8.4mの津波が襲来すると想定されています。
 
 そのため、那覇基地は過去、何度か津波対処訓練を行っており、冒頭に記した台湾東部沖地震が起きる半年ほど前の昨年(2023年)9月には、すでにF-15J戦闘機を牽引車で高台へと引っ張り上げる実動を伴う津波対処訓練も行っていたそうです。

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那覇基地の中に設置されている海抜10m表示の標識。ここより下に格納庫やエプロンが位置するのがわかる(乗りものニュース編集部撮影)。

 ちなみに、那覇基地の中を巡っているときに気になったのが、一部道路の標識が異様に低い位置にあることです。基地広報によると、これも津波対策の一環なのだそう。

 どういうことかというと、F-15戦闘機などを高台に引き上げる際、従来の高さの標識では翼と干渉する恐れがあったのだとか。そこで、万一の際にはスムーズに高台へと上げられるよう、標識をあえて低くし、支柱なども短いものに変えたとのことでした。
 
 このほかにも、那覇基地の新しい施設は上層部の外側にドアが設置されています。これは、津波による水損を避けるために、受変電機能などの重要な設備を上層階に整備していることから、自家発電機などの器材をクレーンで直接搬入できるようにするために設けられているものです。

これからも津波が来ることを見越して

 広報担当の隊員によると、このような津波に対する各種措置が採られるようになったのは比較的最近だといいます。

 その契機になったのは、2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震、いわゆる東日本大震災でしょう。このとき宮城県の航空自衛隊松島基地が津波によって浸水し、駐機していたF-2B戦闘機などが被害を受けています。また陸上自衛隊の多賀城駐屯地も同様に敷地の大部分が水没し出動できなくなったほか、民間でも仙台空港が津波によって使用できなくなりました。

 これらの教訓から、防衛省は津波による浸水被害だけでなく地震対策も含めて各地の自衛隊施設の耐震化、耐津波施策を進めており、前述したような那覇基地の改修もその一環だと言えるでしょう。

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那覇基地の海抜30m付近。万一の際はこのあたりまでF-15J戦闘機などを引き上げられるよう、標識などはあえて低くなっている(乗りものニュース編集部撮影)。

 那覇基地も、地震や津波に対する検証を行い、そのための訓練を始めたところで、今回の台湾東部沖地震に伴う津波警報の発出となったそうです。

 基地広報によると、地震が起きた4月3日は平日であり、通常の勤務体制だったので、スムーズに多くの機体を高台へと上げることができたとのこと。ただ、地震発生はこれで終わり、というわけではありません。
 
 いつ大地震が起き、津波が襲ってくるか誰も予見できないので、今回の教訓も踏まえて、基地では今後も訓練を継続して行い、自然災害に対処できる能力を維持していきたいと語っていました。

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