あまりに斬新ルックス!「水素をつくる船」の現在地 実証船が東京に登場 “チーム日本”始動か?
商船三井が開発する「水素生産船」、その最初の実証船であるヨットが東京に登場しました。すでに水素生産の一連のサイクルは成功済み。今後、東京湾を舞台に、より進んだ動きを見せていくようです。
「水素生産船」で実証してきた物質に世間が注目!?
商船三井が “水素生産船”と位置付ける「ウインドハンター」の開発を進めています。洋上風力を推進エネルギーにする帆の技術を活用し、航行しながら船内で水素を生産、そして船舶や陸上の消費地向けに水素燃料の供給を行うという構想の一翼を担う新しいコンセプトの船です。
同社は2026年から2027年を目途に中型水素生産船を建造し、大型商用船の経済性と安全運航を検証することを計画しており、その実現に向け12mの小型ヨット「ウインズ丸」による実証試験が東京湾で行われます。2024年5月には、東京都主催の「SusHi Tech Tokyo」にて、実船が初めて東京でお披露目されました。
そもそも「ウインドハンター」は、洋上で吹く風を用いてCO2(二酸化炭素)を出さずにグリーン水素を作り、船内に貯めて陸上へと運ぶことから、“動く洋上風力発電”と“水素生産設備”が融合したハイブリッドプラントとも言える存在です。
同船は風の力で航行しながら、水中のタービンを用いて発電し、海水から作った純水を電気分解することで水素を生産。この水素をトルエンと化学反応させ、常温常圧の液体であるメチルシクロヘキサン(MCH)として船内のタンクに貯蔵し、各地へ水素の供給を行うエネルギー基地などに運びます。
強風時は帆走をするため帆を展張しますが、風の弱い海域では帆を収縮させたうえで、貯蔵タンクのMCHから水素を取り出し、水素を燃料電池に投入して発生させた電力で推進プロペラを回し推進力を生み出します。このため、運航を通じてGHG(温室効果ガス)を一切排出しない完全ゼロエミッションを実現できるとされています。
商船三井 技術ユニット技術研究所の島 健太郎所長は「MCH は、新しいインフラが必要ない」というメリットを説明します。
「例えば液体水素やアンモニアを陸揚げしようとすると荷役設備など特殊なインフラが必要だが、MCHは今のガソリンのインフラが使える。石油業界でも脱炭素の一環としてMCHに取り組んでいる会社があり、我々としても今後いろいろな会社と連携して脱炭素の取り組みを進めていかないといけない。インフラが全く新しいものがいらないというのは、石油などと親和性があると思っている」
夢の水素“自力供給” まずはヨットから
「ウインドハンター」は、船上で水素を生産できるうえに既存のインフラが使えるという強みを生かし、地方や離島にも水素エネルギーを供給することが可能です。加えて日本近海を航行するだけで水素エネルギーが手に入るようになれば、海外からの輸入に頼ることなく電気を生み出しモビリティを動かすことができます。
2050年までにグループ全体のGHG(温室効果ガス)実質ゼロを掲げている商船三井は、同船の技術を活用し、環境に優しい水素サプライチェーンの構築を目指しています。こうした計画の第一歩として、まずは「ウインズ丸」を用いた実証が行われているわけです。
同船は水中タービンや水電解装置、水素添加・脱水素反応装置、燃料電池、電動モーターなどが搭載され、小型ヨットではあるものの「ウインドハンター」で構想されている水素の生産とMCHの貯蔵を担えるようになっています。商船三井は2021年に長崎県で行った実証実験で、その一連の流れを成功させています。
ウインドハンタープロジェクトは東京都が行う「東京ベイeSGプロジェクト」に採択されおり、2025年初頭から2026年3月にかけて、東京湾や周辺海域にて実船上でのグリーン水素生産、MCHの船上貯蔵、海の森競技場での陸揚げ、水素の供給といった一連の流れが実証される予定です。
今回の「ウインズ丸」の東京湾における実証実験では、同船の水素生産機能をさらに強化。具体的には発電機を増強するとともに、MCHの貯蔵タンクを容量1リットルから最大40リットルまで増やすことや、船尾側の蓄電池を撤去し、代わりにリチウムイオン電池を搭載することを検討しています。
島所長は「商用船は2030年を計画している。その前に2026年 から2027年ぐらいに実証船を作っていきたいと考えている。現在その辺りの詳細な設計をエンジニア会社と進めており、年内に何らかの形で出していきたい」と話していました。
そして、開発中の「ウインドハンター」実証船は70mくらいの大きさで、10万重量トン型バルカー「松風丸」(10万422重量トン)への搭載実績がある「ウインドチャレンジャー」と呼ばれる風力推進装置が複数本設置される予定です。これは。状況に合わせて角度や高さの変更が可能な4段階の伸縮機構(最大高さ約53m)を備えた「硬翼帆」のひとつで、燃費の削減効果が確認されています。これを本格的に推進用として使う異形の船が、近く姿を現しそうです。
06/07 09:42
乗りものニュース