鉄道はなぜ「激混みOK?」 定員あってもほぼ無制限 いつから1人1席扱いしなくなったのか

なぜ鉄道は超過定員が認められているのでしょうか。航空機や船舶は座席の数で定員が決まりますが、鉄道には立席定員という「座れない人」の存在が加味されています。

「サービス定員」とは何か

 自家用車や航空機の「定員」は座席の数ですが、鉄道やバスでは座席定員と立席定員の合計を定員としており、座席に座れない人の存在が前提となっています。その中でも鉄道は定員を超える乗車が認められている点が、他の交通機関と大きく異なります。なぜ鉄道に限って定員超過が認められているのでしょうか。

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鉄道車両の座席イメージ。写真はL0系改良型試験車(乗りものニュース編集部撮影)。

 ちまたでいわれる定員とは、これ以上乗っては危険であることを示す「保安定員」です。保安定員には物理的なものと、安全設備上のものがあります。例えば小型航空機や小型船舶は、人数に加え総重量を管理しなければ安全な運行ができません。

 乗用車も多くの人が乗りこめば走行性能が著しく低下し、安全が損なわれるかもしれませんが、例えば4人乗りと5人乗りのグレードがある場合、前者に5人が乗り込んだとしても性能上は問題ないはずです。重要なのはシートベルトなど安全設備の有無です。

 ジェット旅客機も性能上はもっと多くの人を乗せられますが、座席やシートベルト、非常口や保安要員が足りなければ安全は保てません。旅客船もタイタニック号沈没事故以降、救命設備の数が定員を決定する考え方になったそうです。

 一方、鉄道の定員は旅客サービス上、支障を生じない程度のスペースを確保した定員である「サービス定員」という考え方をとっています。これは線路上を鉄輪で走る普通鉄道では、車内にいくら旅客が乗っても安全上の問題はないからです。ただ重量超過で鋼索が切断する可能性がある鋼索鉄道(ケーブルカー)は、法令で保安定員が定められています。

定員を自由に決められた自動車

 このサービス定員なる概念は、鉄道以外ではほとんど聞きませんが、鉄道は最初から保安定員とは異なる基準を設けていたのでしょうか。保安定員、サービス定員という考え方はいつ生まれたのでしょうか。まず保安定員のある身近な乗りものとして自動車を見ていきましょう。

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自動車の車内イメージ(画像:写真AC)。

 大正期から終戦直後まで存在した「自動車取締令」は、自動車を所有する者は自動車を地方長官(現在の知事)に届け出て、車両の検査を受ける必要があると定めており、「乗車定員」は検査時に申告すべき事項として挙げられています。

 当時の自動車の多くは少数生産であり、シャーシを購入し、ボディをオーダーメイドすることも珍しくなかったため、定員を決める客観的な基準がありませんでした。そのためブレーキや車体強度などの安全基準を満たす限り、定員を自由に決めてよかったのです。

 メーカーが車種ごとの型式指定を受けることで、同一形式の車両全てが保安基準などに適合しているとみなす現在の制度は、1951(昭和26)年制定の「道路運送車両法」で定められました。保安基準は乗車定員・最大積載量について、「安全な運行を確保できる範囲内において乗車し又は積載することができる人員又は物品のうち最大のものとする」としています。

旅客は列車内でどのくらいの面積を確保できる?

 ところが1961(昭和36)年、「路線を定めて定期に運行する旅客自動車運送事業用自動車」つまり路線バスに限って、運行のため必要な保安上の措置を条件として臨時乗車定員を認める「第53条の2(現在の第54条)」が追加されます。

 当時の運輸省の通知には「乗合バスについては輸送の需給の関係上、従来の乗車定員が守られ難い場合もみうけられる」と記されています。保安定員の緩和は不可能ですから、路線バスの定員もサービス定員だったということになります。

 もともと路線バスの乗客を厳密に数えることは困難なので、交通需要が急激に伸びた昭和30年代、定員超過の運行は当たり前のことでした。臨時定員の設定にあたっては吊り手や手すり、換気などへの配慮や増便の努力を求めているものの、事実上、満員バスを追認したのです。

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路線バス車内には吊り革がある(画像:写真AC)。

 鉄道では1900(明治33)年制定の鉄道建設規程が、「客車内の面積は旅客定員1人に付平均3平方フィート(約0.27平方メートル)以上」と定めています。逆算すれば車両1両あたりの最大定員を算出できますが、定員の算出方法は指定されていません。

 当時の客車の多くは座席定員のみの設定ですが、明治末頃から電車が登場するとこの規定をもとに立席定員が設定されました。1人あたりの面積という快適性につながる指標を用いたということは、鉄道は当初からサービス定員の考え方を取っていたといえるでしょう。

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