「戦闘機パイロット不要論」はあり得ない!? もはや有人機とドッグファイトする無人機どう使う 見えてきた「近未来の戦い方」

近い将来、運用が始まるのは確実な無人戦闘機ですが、だからといって有人戦闘機、すなわち戦闘機パイロットが不要になるというわけでもなさそうです。互いの能力を補完し合う、それが妥当なようです。

無人戦闘機は戦闘機パイロットの仕事を奪うのか?

 2024年2月にシンガポールで開催された「シンガポール航空ショー2024」。その会場で韓国の防衛企業であるKAI(韓国航空宇宙産業)が、「次世代航空戦システム」という無人戦闘機に関する展示を行っていました。

 そこには「AAP」(adaptable aerial platform:適応性航空プラットフォーム)と呼ばれる無人機の模型が展示され、運用方法に関するコンセプトも解説されていたので具体的なハナシを聞いたところ、同社が目指す今後の無人戦闘機の青写真を見ることができました。

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2023年2月13日、米本土エドワーズ空軍基地でAI(人工知能)エージェントが12回の飛行試験を成功させたシミュレーターテスト航空機X-62A(画像:アメリカ国防総省)。

 現在、無人戦闘機の開発は、韓国だけでなくアメリカやヨーロッパを含め、世界各国で進められており、それ自体が軍事の世界における世界共通の新たなトレンドになっているといえるでしょう。

 ただ、無人戦闘機と無人機は似て非なるものであり、要求される能力や航空機としての特徴は大きく異なっています。機体はそれまでの遠隔操作によるマニュアル(人間)制御ではなく、機内に搭載したコンピューターのAI(人工知能)による自律制御が必須です。

 実際、アメリカではF-16戦闘機を改造したX-62 VISTA試験機が、AI制御で飛行するだけでなく、最近では有人のF-16とのドッグファイト(近接航空戦)まで行っているので、かなりのレベルにまで到達しているのは確かなようです。

 ただ、そうなると無人戦闘機がこの先、さらに高性能になった場合、有人戦闘機、すなわち戦闘機パイロットは不要なものとなり、その存在も歴史の一片になってしまうのでしょうか。

 結論から言えば、今回の「シンガポールエアショー2024」におけるKAIブースの展示を見る限りその可能性は低く、むしろ未来の空中戦では戦闘機パイロットの存在がより重要になっていように思えました。

無人戦闘機がいても有人機が飛び続けるワケ

 無人戦闘機のAIは人間のように疲れることがないため、特定の条件では人間とは比較にならないほどの速さで反応し対処することも可能です。しかし、パイロットがそれまで行ってきた状況判断と意思決定のすべてを肩代わりするのは難しく、マルチタスクという点では有人戦闘機に分がありそうです。

 そこで、現時点では無人機と有人機、それぞれの長所を組み合わせた運用方法が模索されています。

 それが「MUM-T」という概念です。この単語は「Manned UnManned-Teaming」の頭文字を取った造語で、翻訳すると「無人機と有人機の連携」という意味になります。MUM-TはKAIの無人戦闘機だけでなく、航空機以外の無人車両や無人船舶などあらゆる無人プラットフォームに当てはまるものです。そのため、今後の戦場におけるすべての兵器の無人化のキーフレーズともいえるでしょう。

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FA-50と無人機AAPの模型。FA-50後席の乗員が無人機の司令役となる(布留川 司撮影)。

 KAIのMUM-Tの運用コンセプトでは、複数の無人戦闘機が編隊を組んで行動し、その司令役として韓国製の軍用機であれば、KF-21戦闘機またはFA-50軽戦闘機の複座型が指揮(操縦しない後席の乗員が担当)を執る形になる模様です。

 無人戦闘機は、小型のAAPが機体ごとに「偵察」「電子戦」「電子的囮」など、異なる任務を目標近くで行い、より大型の無人戦闘機がAAPの支援の下に機内に搭載した兵器で攻撃を担当。有人機であるKF-21やFA-50は、反撃を受ける可能性が少ない後方からこれら無人機編隊の指揮をとったり、必要ならば自機も直接、戦闘に参加したりします。

 このような、無人機と有人機を混成運用するコンセプトの利点は、実際に敵の近くで活動する任務は無人機に担わせ、そうすることで反撃を受けた際の人的損失を抑えられるということだけでなく、AIの自律判断でも対応可能な戦闘の末端部分については無人戦闘機に担当させることで、有人戦闘機の負担を軽減するという点にあります。

将来の戦闘機パイロットはマルチタスク必須?

 今回、展示されていたKAIのMUM-Tコンセプトから感じたのは、その目的が単純に戦闘機を無人化するというものではなく、無人戦闘機を活用して有人戦闘機の能力も拡張しようという点です。

 同社の計画では、開発はフェーズに分けて進められ、2020年代は小型のAAPとMUM-Tの技術開発を進め、2030年頃より無人戦闘機の開発を開始する模様です。両機の実用化は2037年頃を目指しており、その後は付随する技術を第6世代戦闘機の開発に繋げていくと考えられます。

 このような無人戦闘機とMUM-Tの開発については、他国の戦闘機開発でも同様に進められています。アメリカ空軍がF-22「ラプター」戦闘機の後継として開発しているNGAD(次世代航空支配)や、日本がイギリスとイタリアと共同開発を進めているGCAP(グローバル戦闘航空プログラム)でも、無人機と連携するために必須なMUM-Tの能力が盛り込まれています。

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現在開発中の韓国国産戦闘機KF-21と無人機。模型は単座型だが、無人機との連携は複座型が担当するという(布留川 司撮影)。

 今後、無人戦闘機は着実に開発が進み、運用も始まることは間違いないでしょう。しかし、それは既存の有人機を代替するものではなく、補完し合うものになるのが濃厚です。より効果的な運用を目指すと、無人機ばかりになるのではなく両方を併用する形になりそうです。戦闘機パイロットは、無人戦闘機の運用ノウハウも獲得する必要があります。

 すなわち、無人戦闘機が普及しても、戦闘機乗りがいなくなることはなさそうですが、代わりに戦闘機パイロットには、自機の操縦だけでなく、無人機や各種システムを使いこなすオペレーター的な役割が要求されることになります。そう考えると、戦闘機パイロットは、今まで以上にマルチタスクな能力が必須になると言えそうです。

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