路線バスで「現金お断り」にすると何が変わるのか? “完全キャッシュレス化”解禁=路線維持のため?

路線バスの運賃支払いの「完全キャッシュレス化」が可能になります。高齢者などに広く対応できるのか、という問題もありますが、一方でこれがバス路線の維持にもつながるというのはなぜでしょうか。

完全キャッシュレス拡大のカギは、利用者の理解にかかっている

 国土交通省が標準運送約款を改定し、路線バスの運賃の支払いを限定した営業を認めます。斉藤鉄夫国交相は利用者の理解を拡大することも含めて、全国の一部の路線で実証実験的な運用を開始することを2024年5月28日の会見で明らかにしました。

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路線バスの完全キャッシュレス化が解禁となる。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 国土交通省物流・自動車局は、この夏をめどに道路運送法規則を改定し、路線バスでも運賃収受に現金を使わず、完全キャッシュレスでの運行を可能にします。公共交通のキャッシュレスは、地域デマンド型乗合タクシーなどでは実績がありますが、路線バスでも現金収受を排除できる基準を明確にし、完全キャッシュレス運行の拡大に期待します。

 斉藤国交相は「まずは今年度よりバス事業者の協力をいただいて、いくつかの路線で実証運行を実施し、完全キャッシュレス化とした場合の効果や課題を検証していくことを考えております」と話しました。改定後の標準運送約款を参考に、バス事業者が個社の運送約款を改めた後の実証運行となるため、利用者が完全キャッシュレスの路線バスを体験するのは、この秋以降になると思われます。

 実証運行では現金投入口などをふさぐなどして原則キャッシュレスで、不具合などがあった場合のみ現金で運賃を収受するなどの方法が考えられています。

 完全キャッシュレス化で運行する路線は、観光客の利用が多い区間や生活路線なども合わせて検討されていますが、バス事業者との調整があり未定です。

キャッシュレス化で定時運行が実現しやすくなる

 国交省物流・自動車局旅客課は路線バスの完全キャッシュレス化の効果を次のように話します。

「完全キャッシュレスに対する理解を利用者から得ることで、乗降の時間が短縮され、バスの定時運行がしやすくなる」

 また、バス運転士の現金管理などの負担を軽減し、働き方改革に寄与するほか、運賃箱の維持管理にかかる負担を減らし、バス事業者の経営改善につながることが期待されています。

「キャッシュレスによるコスト軽減を、運転士などの待遇改善に活かし、路線を維持する方向性を考えてほしい」(前同)

 一方、利用者の中には完全キャッシュレス化に戸惑いの声もあります。

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取材に応じる斉藤国交相(中島みなみ撮影)。

「半導体の影響か、今でも交通系ICカードの中には発売が中止されているものもある。キャッシュレス化に対応しろと言われても難しい年齢もあるのではないか」

 国交省は交通系ICカードだけでなく、将来的にはバス事業者がQRコードやクレジットカードなど複数の決済に対応できるキャッシュレス化を期待しています。“現金”な日本の習慣を変えることができれば、地域公共交通の未来も見えてくるのかもしれません。

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