「コロナ禍前には決して戻らない」現実化した2023年の鉄道 値上げラッシュ 急な合理化 仕方ないことなのか

コロナ禍4年目の2023年。自粛ムードは薄れ、鉄道事業者の運輸収入は定期外なら従来の水準へほぼ戻りました。ただし合理化が加速し、減便や窓口縮小、制度の廃止など、利用者の立場からは手放しで喜べない側面もありました。

値上げラッシュは鉄道も

 2023年はコロナ禍からの復活を感じさせる1年でした。5月8日に新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に移行し、行動制限が終了しました。5類化以降も感染のピークが訪れるなど完全な収束は見えないものの、社会・経済活動が急速に復旧しました。
 
 鉄道事業者の経営も順調に回復しています。例えばJR東日本の輸送量は、4月は対2019年度で定期81%、定期外92%、新幹線83%、7~9月は定期80%、定期外94%、新幹線87%でした。リモートワーク普及の影響を受けた定期利用を除けば、一定の水準まで戻っています。

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鉄道事業者の経営も回復の兆しを見せている(画像:写真AC)。

 しかし、仮に利用が完全に戻ったとしても、鉄道は元通りにならないでしょう。鉄道各社はコロナ禍以降、輸送サービスの「合理化」を進めていますが、その多くは今後さらに加速する人口減少、労働力不足を見越したものでした。2023年は、そんな変化の一部が形になった1年でした。

 まずは値上げラッシュです。JRや大手私鉄は2000年代以降、消費税率改定を除く運賃改定をほとんど行ってきませんでしたが、コロナ禍を受けて値上げに踏み切らざるを得なくなりました。

 大手私鉄では東急電鉄(3月)、近畿日本鉄道(4月)、南海電鉄(同)、京王電鉄(10月)、京急電鉄(同)、準大手私鉄では新京成電鉄(10月)、泉北高速鉄道(同)、地方私鉄では伊予鉄道(10月)、北陸鉄道(同)、熊本電気鉄道(同)、北越急行(同)などが上限運賃の改定に踏み切りました。

人手不足で減便 都市部も他人ごとではない

 関東の大手では、初乗り運賃が最も安かった京王と東急が126円(IC)から140円(IC・きっぷ同額)に。京王は消費税率改定を除けば28年ぶりの運賃値上げでした。またJR西日本は4月、上限運賃の範囲内ながら特定区間運賃の割引額・範囲を縮小しています。

 運賃改定と同時に行われたJR・大手私鉄のダイヤ改正では、過去3年進められた大幅な減便こそ一段落したものの、JR青梅線(青梅~奥多摩)、東急東横線、名鉄各務原線、知多新線などのワンマン化、またワンマン区間や実施時間の拡大が見られました。

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低床車ながら座席はロングシート(画像:長崎電気軌道)。

 地方私鉄はさらに厳しい状況にあります。例えばしなの鉄道は大幅な減便、最終列車の繰り上げ、最高速度の引き下げを実施。他社との乗り継ぎ割引も廃止しました。「コロナ禍を乗り切る経営改善策」として、存続のためやむを得ないものとしても、鉄道離れが進まないか心配です。

 北越急行では、特急「はくたか」運行終了後の目玉列車であった最高速度110km/hの「超快速スノーラビット」が運行終了し、全ての列車が最高速度95km/hの各駅停車になりました。ある意味でもっと深刻なのは、長崎電気軌道(5月)や福井鉄道(10月)など、乗務員の不足で減便を余儀なくされた事業者です。人手不足は今後、JR・大手も含めさらに深刻な問題になるでしょう。

急速な変化に順応しきれていないのは鉄道マンも?

 そして人手不足を背景に進むのが駅の要員削減、無人化です。特に地方ではコロナ禍以前から行われてきましたが、近年は大手私鉄や都市部でも拡大しています。2023年はJR四国、えちごトキめき鉄道、しなの鉄道など地方路線に加え、JR九州は都市部でも無人駅を拡大しており、「副作用」として不正乗車(キセル)が激増したといった報道もありました。

 完全な無人駅化以外でも、JR東日本やJR西日本はみどりの窓口を廃止し、対話型券売機に置き換えました。また一部時間帯の改札無人化を拡大しており、車椅子などの介助に前日連絡が必要だったり、対応に時間を要したりという問題が起きています。

 さらに駅の風景も変わりつつあります。これは2023年以前から進んでいたことですが、駅ホームの時刻表掲示の取りやめ、時計やゴミ箱の撤去など、経費削減、作業負担軽減、安全対策といった名目で姿を消しています。

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JR西日本が実証実験を行った「みどりの券売機プラスAI」(画像:JR西日本)。

 サービスの姿は時代と共に変わります。昔のサービスを懐かしんでも、それすらもさらに昔から見れば変化した姿なのです。コロナ禍で加速する合理化、省力化、デジタル化の対象となるサービスには、すでに役割を終えたもの、時代の変化に対応しなければならないものがあるのは事実でしょう。

 しかし公共交通機関はどんな利用者にも広く開かれた存在ですから、乗客だけでなく従業員も追い付けないような急速な変化は望ましいとはいえません。コロナ禍からの立ち直りを見せただけに、コロナ禍後の課題が浮き彫りになった1年になったように思えます。

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