「貸した金返せという単純な話ではない」財務省の“自賠責ネコババ”で奪われた安心 被害者団体が抱える切実な課題

かつて国交省が財務省に貸し付けた自賠責保険料の運用益の残債約5900億円が未返済となっている問題で、交通事故被害者などからなる団体が早期の全額返済を求めています。事故被害者の安心が奪われている状況です。

毎年の返済額を決めずに、相談で決める財務省

 国土交通省から財務省への貸付金約5900億円について、2024年度の返済交渉が大詰めを迎えつつあります。交通事故被害者や自動車ユーザーの関係者で組織する「自動車損害賠償保障制度を考える会」が2023年11月30日、財務省で赤澤亮正財務副大臣と面会し、早期の全額返済を求めました。

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斎藤国交相と鈴木財務相。両省の返済交渉が大詰めを迎えている(中島みなみ撮影)。

 国土交通省の特別会計から財務省の一般会計に貸し出された資金の残債約5900億円の行方が12月に財務省と話し合われます。

 貸付金は自動車ユーザーが支払った自賠責保険料の運用資金で、現在は制度が変わって交通事故被害者の救済事業に使われる財源となっています。財務省は一度に返済することができないことから、国交省は「事項要求」という名前で返済額を決めずに毎年、財務省との話し合いで返済額を決めています。

 この事項要求に先立ち、「自動車損害賠償保障制度を考える会」(座長=福田弥夫日大教授)が赤澤亮正副大臣と面会しました。「考える会」は、これまで2人の財務大臣、3人の副大臣と面会し、赤澤氏とは4人目の副大臣面会になります。福田座長は、財務省への最重要の要望内容をこう解説しました。

「約5900億円の早期の全額繰り戻しをやっていただきたい。(返済の)ロードマップをきちんと提示してください、という話をしました」

「考える会」は要望内容で貸付金の早期返済を求めていますが、貸した金を返せというだけの単純な話ではありません。

寝たきりで何もできない交通事故被害者 財務省はその財源を返し渋っている

「お金返ってきてそれで全てじゃない。そのお金をきちんと使った被害者救済事業ができることが大事なのです。5900億円というお金は、例えば療護センターの早期建て替えであるとか、いろいろな被害者救済事業、支援事業をきちんと実行するための問題を解決するための財源。特に、介護者なき後の被害者の問題。重要な問題であることを認識していただけたと思っています」

 福田座長はこう語気を強めて話しました。

 介護が必要な重度の交通事故被害者は1600人ほどで毎年推移しています。重度後遺障害を負った被害者は何十年もの長い間、後遺障害と闘っていかなければならず、その介護する人がいなくなってしまう「介護者なきあと問題」がクローズアップされています。療護センターは、その被害者家族の負担を少しでも減らすことを主な目的に開設されたのですが、その建物ですら老朽化に直面しています。

 子どもが交通事故の重度被害者になった場合、介護の担い手である親も高齢になっています。赤澤副大臣との面会に同行した全国遷延性意識障害者・家族の会の横山恒副代表もその一人でした。

「(返済を)順調にしっかり加速させていくと、具体的なお言葉で言っていただけたなという気がしました」

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財務副大臣室で「考える会」を出迎えた赤澤副大臣(中央)。考える会は、これまで2人の財務大臣、3人の副大臣と面会し、赤澤氏は4人目の副大臣になる(中島みなみ撮影)。

 脳に大きなダメージを受けることが原因で、意思を他人に伝えることができない遷延性意識障害は、自力で食事や排せつができません。胃ろうによるチューブを使った栄養補給や、たんの吸引が必要ですが、障害は病気ではないため入院し続けることはできません。介護分野で支援することになるのですが、介護でも医療行為を伴うため、看護師や資格を持った介護士が必要です。

 しかし、こうした障害は脳梗塞や外傷でも起きるため、担い手がほとんどいません。家族がずっと介護を続けるケースも少なくありません。親がいなくなったらわが子はどうなってしまうのか。その“焦り”が介護で疲れた身体を、副大臣への面会に駆り立てます。

 いつ完済するというあてもなく毎年、国交省と相談で返済額を決める財務省。毎年の返済額実績から考えると完済までに約100年以上。このまま続けていくのでしょうか。

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