「弾道ミサイルじゃないんですが…」北朝鮮の“ロケット”発射が平和利用でもダメな理由 他国はOKでも

北朝鮮が衛星打ち上げ用のロケットを発射し、日本に緊張が走りました。しかし同国以外では、日本含め何回も打ち上げています。弾道ミサイルではない平和利用のロケットもダメと言われるのは、なぜなのでしょうか。

北朝鮮また衛星ロケット打ち上げ 平和利用だけど…?

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が2023年11月22日、北西部にある東倉里(トンチャンリ)地区から、衛星打ち上げ用ロケットを発射しました。今回は、事前の打ち上げ予告期間から前倒しして発射したということもあり、注目を集めた一方で、日本をはじめとする各国からの強い非難も伴っています。

 しかし、弾道ミサイルならばいざ知らず、なぜロケットの打ち上げについても問題視されるのでしょうか。それは、北朝鮮によるロケット発射が国際法で禁じられているからです。

 そもそも通常であれば、ある国がロケットを打ち上げることはもちろん、ミサイルの発射を行うことも、国際法で特段禁じられているものではありません。実際、日本を始め、アメリカ、中国、韓国など、北朝鮮の周辺国は、たびたびロケットを打ち上げています。

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2023年11月22日に打ち上げられた北朝鮮のロケット(画像:朝鮮中央通信)。

 では、なぜ北朝鮮のロケット打ち上げだけが国際法で禁じられているのかというと、国連安全保障理事会、いわゆる「国連安保理」の決議で発射禁止が決議されたからで、この採択によって北朝鮮のロケット打ち上げの動きは国際法に違反することになったためです。

 国連安保理は、「国際の平和及び安全を維持すること」(国連憲章1条1項)を目的の一つとする国際連合において、その主要な責任を負う組織として設立されたものです。アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国という5か国の常任理事国と、2年ごとに選挙で選ばれる10か国の非常任理事国、計15か国で構成されています。

北朝鮮の弾道ミサイル発射がダメな理由

 そして、この国連安保理における決定は、国連加盟国を法的に拘束します。これについて定めている国連憲章25条には、次のように明記されています。

「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」

 そのため、仮に自国が他国と結んでいる条約が、安保理決議の内容に抵触するようなことがあった場合、国連安保理の決議が優先され、こちらの遵守が求められます。憲章103条には次のように明記されています。

「国際連合加盟国のこの憲章に基く義務と他のいずれかの国際協定に基く義務とが抵触するときは、この憲章に基く義務が優先する。」

 つまり、国連加盟国は、安保理の決定に従わなければならないのです。

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2023年11月22日、ロケット打ち上げを祝う北朝鮮の金 正恩総書記と、同国の技術者たち(画像:朝鮮中央通信)。

 北朝鮮も1991(平成3)年に国連へ加盟しています。ということは、弾道ミサイルの発射を禁じることを決定する国連安保理決議が出ているのならば、これが法的に効力を発揮している以上、北朝鮮にも従う義務があるという理屈です。

 では、なぜ国連安保理において北朝鮮の弾道ミサイル発射が禁じられているのか。それについては、まず北朝鮮の弾道ミサイルは核兵器を含む大量破壊兵器の運搬手段として開発が進められている点があげられます。そして、これら大量破壊兵器のみならず、その運搬手段である弾道ミサイルの拡散は、国際社会にとって重大な脅威です。

 北朝鮮は、1990年代から長射程の弾道ミサイル発射実験を本格化させ、さらに2000年代に入ってからは核実験まで実施しています。こうした動きに対して、韓国や日本といった周辺諸国をはじめ、国際社会は一連の行為を地域(東アジア)内外の緊張を高める行為だとして、累次の国連安保理決議を通じて、これを国際社会の平和及び安全に対する脅威と認定しているわけです。

なぜ衛星打ち上げロケットも禁止なの?

 こういったことから、国連安保理決議では北朝鮮による弾道ミサイルの発射を禁じているのですが、注目すべきはここでいう「弾道ミサイル」の範囲です。一般的に、弾道ミサイルとはロケットの先に弾頭を載せ、これを目標地点に向かって楕円軌道により撃ち込む兵器のことを指します。

 しかし、北朝鮮が2009年に人工衛星「光明星2号」を打ち上げるため用いたロケット「銀河2号」発射の際、アメリカや日本をはじめとする各国は、北朝鮮がどのような主張をしようと、これは安保理決議に違反する弾道ミサイルだと意見を一致させました。

 というのも、衛星打ち上げロケットと弾道ミサイルでは、結局、用いる技術は一緒だからです。そこで、たとえば2013年3月7日に採択された「国連安保理決議2094(S/RES/2094)」では、次のような文言が挿入されています。

「北朝鮮が、弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核実験又はいかなるその他の挑発もこれ以上実施すべきでないことを決定する」

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海上自衛隊の護衛艦「きりしま」。いわゆるイージス艦で、写真は対空ミサイルの実射訓練のシーン(画像:朝鮮中央通信)。

 このように「弾道ミサイル」ではなく「弾道ミサイル技術を使用した」にすることで、平和利用のロケットであっても含まれます。従って、北朝鮮の打ち上げるものが、弾道ミサイル、衛星打ち上げロケットのどちらであっても、結局それらは同じ技術を用いているため、その発射は国連安保理決議に違反し、国際法に違反しているということになります。

 今回の発射についても、日本政府は「衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射」と呼称しているのは、そうした理由によるものなのです。

 北朝鮮は、今後も衛星の打ち上げを行い続けると明言していますが、それがいかなる形であれ、ロケットによる打ち上げである限り、国際社会からの非難を伴うことは必至といえるでしょう。

 裏を返すと、北朝鮮のロケット発射が続くかぎり、日本は警戒態勢をとり続ける必要があるのです。

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