「寝てない人は太る!」「気づかないうちにミスが増え…」日本人が知らない睡眠不足の本当の怖さ。重病のリスクも増
〈「焼肉×白米は最強なのに…」焼肉には発がん性があり、白米は糖尿病や脳卒中のリスクを上げる…最新のエビデンスに基づいた“本当に身体に悪い食べ物”とは〉から続く
睡眠時間が足りないと、心筋梗塞や動脈硬化、不整脈のリスクを上げてしまうことが数々の研究から明らかになってきた。さらに、健康への悪影響だけでなく、「太る」ようになるという。
UCLA准教授で医師でもある津川友介氏の書籍『正しい医学知識がよくわかる あなたを病気から守る10のルール』より一部を抜粋・再構成し、“睡眠不足の本当の怖さ”をエビデンスから明らかにする。
睡眠不足はあなたを殺す
みなさんはよく眠れているだろうか?
慢性的な睡眠不足は、健康に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。
例えば、約50万人の年齢40~69歳の成人を7年間追跡した英国の研究[*1 後注1]では、睡眠時間が6時間未満の人は、それ以上の人と比べて、心筋梗塞になるリスクが20%も高いことが明らかになった。
一方、睡眠時間が1時間延びるごとに、心筋梗塞のリスクが約20%低下することも分かった。
また、スペインで約4000人を対象として行われた研究[*2]では、睡眠時間が6時間未満の人は動脈硬化が進んでいることが明らかになっている。睡眠時間が短くなると、血液中の炎症性物質が増えると言われており、これが原因だと考えられている。
その他、睡眠時間が短いことは、不整脈の増加や免疫機能の低下だけでなく、死亡率増加にもつながると報告されている[*3*4*5]。
それだけではない。睡眠不足はダイエットの大敵でもある。
読者の皆さんの中にも、夜更かししたときにとてもお腹が空いたり、ラーメンやスナック菓子のようなカロリーが高いものや炭水化物を食べたくなったりした経験がある人がいるだろう。実は、これに関してもエビデンスがあるのである。
複数の研究[*6*7]により、睡眠時間が短い人ほど肥満のリスクが高いと報告されている。
12名の、健康で標準体重の男性の被験者を、食事のカロリーや運動量をコントロールされた環境下で、短時間(4時間)睡眠と長時間(10時間)睡眠に無作為に割り付けた実験[*8]がある。
その結果、睡眠不足によって食欲を増す効果があるグレリンというホルモンの分泌が促進され、食欲を抑制する効果があるレプチンというホルモンの分泌は逆に減ることが明らかになった。
また、睡眠不足は脳の食欲をコントロールする部分の活動を低下させ、それによって特にカロリーが高く、炭水化物の割合の高い食事を欲するようになることも別の研究[*9]から分かっている。
自覚できない生産性低下
睡眠不足は健康に悪影響をもたらすだけでなく、仕事の生産性も下げる。
48名の被験者を、無作為に異なる睡眠パターンに割り付けて、頭の働きを評価した研究[*10後注2]がある。この研究において被験者はそれぞれ、4時間、6時間、8時間睡眠を14日間続ける3つのグループ、そして3日間徹夜という合計4つのグループに割り付けられ、PVT(Psychomotor Vigilance Test:精神動態覚醒水準課題)と呼ばれる覚醒水準や作業能力を評価するテストを受けさせられた。
その結果、睡眠時間が短いほどミスが多いということが分かった(図1A)。
さらに興味深いことに、自覚している眠気の強さとミスの頻度は比例していなかった。
図1Bを見てほしい。3日間徹夜の人のグループを除いて、睡眠時間の長短にかかわらず、4~5日すると眠気はそれ以上大幅には強くならなかったのである。
さらに、眠気の強さに関しては、6時間睡眠でも4時間睡眠でも大差なかった。
つまり、自分が眠気を自覚しているかどうかは関係なく、睡眠不足は気づかぬうちに私たちの生産性を落としているのである。
睡眠不足による経済的損失も大きい。
アメリカを代表するシンクタンクであるランド研究所が2016年に出版したレポートによると、睡眠不足による生産性の低下によって、日本では毎年60万日分の労働日数が失われており、これによる経済的損失は実に約15兆円(GDPの3%)に上ると試算[*11]されている。
図/書籍 津川友介著『あなたを病気から守る10のルール』より
写真/shutterstock
脚注
*1 Daghlas I et al. Sleep Duration and Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol. 2019;74(10):1304-1314.
*2 Domínguez F et al. Association of Sleep Duration and Quality With Subclinical Atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2019;73(2):134-144.
*3 Genuardi MV et al. Association of Short Sleep Duration and Atrial Fibrillation. Chest. 2019;156(3):544-552.
*4 Besedovsky L et al. Sleep and immune function. Pflügers Arch. 2012;463(1):121-137.
*5 Kurina LM et al. Sleep duration and all-cause mortality: a critical review of measurement and associations. Ann
Epidemiol. 2013;23(6):361-370.
*6 Patel SR & Hu FB. Short Sleep Duration and Weight Gain: A Systematic Review. Obesity(Silver Spring). 2008;16(3):643-653.
*7 Cappuccio FP et al. Meta-Analysis of Short Sleep Duration and Obesity in Children and Adults. Sleep. 2008;31(5):619-626.
*8 Spiegel K et al. Brief Communication: Sleep Curtailment in Healthy Young Men Is Associated with Decreased Leptin
Levels, Elevated Ghrelin Levels, and Increased Hunger and Appetite. Ann Intern Med. 2004;141(11):846-850.
*9 Greer SM et al. The impact of sleep deprivation on food desire in the human brain. Nat Commun. 2013;4:2259.
*10 Van Dongen HPA et al. The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation. Sleep. 2003;26(2):117-126.
*11 Hafner M et al. Why Sleep Matters — The Economic Costs of Insufficient Sleep: A Cross-Country Comparative Analysis.Rand Health Q. 2017;6(4):11.
*12[https://www.sleepfoundation.org/how-sleep-works/how-much-sleep-do-we-really-need]を参照。
*13 Dunster GP et al. Sleepmore in Seattle: Later school start times are associated with more sleep and better performance in high school students. Sci Adv. 2018;4(12):eaau6200.
*14 [https://www.economist.com/1843/2018/03/01/which-countries-get-the-most-sleep]を参照。
後注1 くじ引きやコインを投げたその結果によって、介入(薬を飲むなど)を受けるグループと受けないグループの2つに割り付ける手法のことを、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)と呼ぶ(COLUMN5「エビデンスについて」で詳説)。この研究では、遺伝的な違いによって生まれながらにして睡眠時間が短い人と長い人がいることを利用することで、RCTのような状況を作り出す研究手法(「メンデルのランダム化解析」と呼ばれる)が用いられており、よって結果の信頼性は高いと考えられる。
後注2 くじ引きやコインを投げたその結果によって、介入(薬を飲むなど)を受けるグループと受けないグループの2つに割り付けるRCT。RCTでは2つのグループの唯一の違いは介入を受けたかどうかであるため、介入の因果効果を正しく評価できる。一方で、このような実験を行わずに、集団を外から観察して、その中で介入を受けていたグループと、受けていなかったグループを比較する研究手法があり、それは「観察研究」と呼ばれる。この場合、2つのグループは色々な点で異なるため、本当に介入の影響を見ているのか、その他の要因の影響を見ているだけなのか見分けることが難しい。年齢や性別などデータに含まれる要因に関しては、統計的な手法を用いることで影響を取り除いて比較することができるのだが、「健康意識」などデータに含まれない要因の影響は統計的に取り除くことができないため、観察研究から得られた結果は、RCTから得られた結果よりも信頼性が低いとされている。
〈1日1時間のランニングで寿命が7時間延びる…ほんの少しの運動でも膨大なメリットが! 最新の研究で明らかになった運動の驚くべき効果とは〉へ続く
10/31 17:00
集英社オンライン