境界知能の子どもを取り巻く厳しい現状「本当はやればできる子と思われ続ける人生…」特別支援教育を受けられないケースも

「みんなと一緒に通わせたい」…知的障害がある子を普通学級にするか支援学級にするか判断するときにまず考えたいこと〉から続く

幼児期に気づきやすい中度以上の知的障害とは違い、軽度知的障害と境界知能の子どもたちは「小学校中学年の勉強についていけない」というタイミングでしか、その状態に気づけないという。

【イラスト】先生からもっとできると言われてしまう子

知的障害と発達障害の子どもたち』より一部抜粋・再構成し、必要な支援と、すぐに気づけないことで生じる問題を考察する。

小学校に入って、勉強面で苦労する

中等度以上の知的障害がある場合、幼児期に気づかれやすく、小学校から特別支援教育を受けることもあります。お子さんのなかには、幼児期に中等度の知的障害という診断を受け、小学校では特別支援学級に通っているケースもあります。幼児期に中等度の知的障害という診断を受け、小学校では特別支援学級に通っていました。

一方、軽度知的障害や境界知能の場合、幼児期には気づかれず、小学校で通常学級に入ることもあります。その場合、入学後に勉強面で苦労することになりがちです。結果として失敗体験を繰り返し、自信を失ってしまう子もいます。本人が毎日を楽しく過ごせているか、学校の授業や活動で達成感を持てることがあるか、丁寧にみていく必要があります。

軽度知的障害の場合

軽度知的障害の子が、小学校で通常学級の授業についていくのは、簡単ではありません。入学当初から、授業を理解することに苦労する場合が多いです。

小学校低学年くらいまでは、親につきっきりで宿題をみてもらったりして、授業にどうにかついていく子もいます。しかし多くの場合、中学年くらいからはそれも難しくなってきます。時間をかけて各教科の内容を覚えても、何日かたつと忘れてしまっていたりして、本人が挫折を感じることが増えていきがちです。

そうなってしまう前に、なんらかの支援を受けたいところです。知的障害があることがわかれば、特別支援教育を受けることもできます。

境界知能の場合

境界知能の子も通常学級の授業についていくのは難しいのですが、それでも時間をかけて勉強すれば、ある程度は内容を理解できて、テストで一定の点を取れたりもします。その場合、本人は何を学ぶにしても人一倍がんばっているのですが、その苦労が親や先生にはなかなか理解されません。

大人たちには、むしろ「やればできる子」と思われていたりします。テストでいい結果が出なかったときには「勉強不足」とみなされたりもします。本人はすでに限界まで努力しているのに、親や先生から「もっとがんばって!」と言われてしまうことがあるのです。

このタイプの子は一生懸命がんばっても、いつも同級生よりも少し後れをとるような形になりがちで、自信を持ちにくいです。早く支援を受けて、その子に合ったペースで学べるようにしていきたいところです。

しかし、境界知能では特別支援教育を受けられない地域もあります。境界知能の子は勉強面で苦労していても、補習を受ける程度のサポートしか受けられないこともあるのです。2024年現在では、そういった地域のほうが多いかもしれません。この問題は、早く解決しなければいけないことだと思っています。

苦労しているけど、支援につながらない

軽度知的障害や境界知能の子は勉強面で苦労する場合が多いのですが、それがきっかけとなって支援につながるかというと、そうとは限りません。「勉強が苦手」ということで、医療機関に相談にくる家庭は多くないのです。

子どもが、「授業の内容がわからない」「授業中に指名されたとき、うまく答えられない」「先生の指示を聞き逃して、出遅れてしまう」といった場面を何度も経験して困っているのであれば、地域の教育相談窓口や医療機関に相談してもいいのですが、その段階で支援につながるケースは少数です。

子どもが心身の調子を崩したり、不登校の状態になったりしてから、初めて相談窓口を利用するケースのほうが多くなっています。

「勉強が苦手なだけでは相談できない」という誤解

そのような経緯で相談にこられた親御さんと話していると、「勉強が苦手なだけでは、こういうところで相談できないと思っていました」と言われることがあります。そして、以下のような話になります。

「授業についていけないのは、本人の努力が足りないからだと思っていた」

「勉強時間を増やして、みんなに追いつけるようにしなければ、と焦っていた」

「親が宿題をみるようにして、家庭学習の習慣をつけてきた」

「この問題は、家庭内の工夫で解決していくことだと考えていた」

「でも時間をかけてもうまくいかなくて、困っていた」

このように「勉強ができないのは努力不足であって、人に相談するようなことではない」と考えるのは、大きな誤解です。いろいろと工夫をしてもうまくいかなくて困っているのであれば、「勉強が苦手で困っている」ということを相談してもいいのです。


イラスト/村山宇希 書籍『知的障害と発達障害の子どもたち』より 
写真/shutterstock

知的障害と発達障害の子どもたち(SBクリエイティブ)

本田秀夫

知的障害と発達障害の子どもたち(SBクリエイティブ)

2024/3/7
990円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4815621636

「知的障害×発達障害」この2つの障害が重なることで、どんな特性が生まれるのか?

著者のSB新書『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』『子どもの発達障害』『学校の中の発達障害』は、累計25万部突破!

今回のテーマは「知的障害×発達障害」。これは、最新のDSM-5(米国精神医学会の精神疾患の診断分類)では「神経発達症」と定義づけられているもの
・この2つの障害が重なり合うことで、どんな特性が生まれるのか?
・早期に発見・支援することで、どんな大人になっていくのか?
・今、注目を集める「境界知能」についても言及していく

(内容)
この本では、知的障害の支援において「早く」と「ゆっくり」がどちらも重要だということを解説していきます。「はじめに」で述べたように「早く」は早期支援のことですが、もう一つの「ゆっくり」は、一体何がゆっくりなのでしょう? みなさんはおわかりになりますか。

これから始まる一冊を通して「ゆっくり」の意味をお伝えしていきますが、ただ読むだけでは、その意味を実感しにくいかもしれません。そこでみなさんには「知的障害の何がゆっくりなのか?」を考えながら、この本を読んでいただきたい と思います。
この本は大きく二つのパートに分かれています。

・前半(第1章~第2章)
発達障害と知的障害の基本をお伝えします。1章は事例、2章は基礎知識です。

・後半(第3章~第6章)
前半パートの基礎知識をふまえて、「ゆっくり」の意味を解説していきます。「ゆっくりとは何か」「ゆっくりな子をどう育てていくか」をお伝えします。

【目次】
第1章 どうして「早く」支援するのか?
第2章 発達障害・知的障害の基本を知る
第3章 知的障害は「ゆっくり」
第4章 「ゆっくり」にみえない子どもたち
第5章 「ゆっくり」な子どもの育て方
第6章 「ゆっくり」な子どもの進路選択

 

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