ノンフィクションを書きたい人の最高の教科書『本を書く技術』。テーマ決め、取材、文章表現まで「書く」ノウハウを徹底解説!

『本を書く技術 取材・構成・表現』(石井光太/文藝春秋)

 世の中には文章を書きたい、文章で対価を得たいという人は多く、書店へ行けば、文章術を指南する書籍が数多く並んでいる。どれを手に取れば良いのか分からないほどだ。

 そんななか、ノンフィクション作家・石井光太氏の『本を書く技術 取材・構成・表現』(文藝春秋)では文章術だけでなく、ノンフィクションの本を1冊丸ごと書き上げるために必要なすべての技術を、余すことなく伝えている。

 石井氏は、2005年に『物乞う仏陀』でデビューして以来、約20年間にわたってノンフィクション作家として活躍し、年間3~4冊のペースで新作を発表してきた。このようなハイペースで執筆を続けるためには、独自の技術が必要だろう。

「本書で示すのは、ノンフィクションを書く上で、どのようにテーマを見いだし、事実を調べ、文章を磨き上げ、一冊の本として構成するかについての実践的なテクニックだ」と記されている通り、第1章ではテーマの見つけ方、第2章~第4章では取材のスキル、第5章~第7章では構成力、表現力の磨き方、第8章では作品の社会性を掘り下げる方法論が示される。

 ノンフィクションを書くためのノウハウを紹介する本は珍しく、その道を志す人にとっては必読の書になるだろう。また、ジャンルは違っても、職業として文章を書く人であれば得るものがある1冊だ。

 第1章「テーマの“空白地帯”を見つける」では、ノンフィクションにおいてまず重要なのは「テーマの新規性」だと強調する。

「小説でも映画でもあらゆる作品においてテーマは欠かせないものだが、ことにノンフィクションではテーマ設定のあり方が作品のレベルや売れ行きを大きく左右する。たとえば小説では、テーマにさほど新しさがなくとも、書き手の表現力や構成力が桁違いにうまければ名作になりうるだろう。(中略)しかし、ノンフィクション作品ではテーマがまず優先され、社会の常識を覆すような破壊力を持っていなければならない」

 とは言っても、そんなテーマがゴロゴロ転がっているわけではない。それは著者も分かっている。そこで、新規性のあるテーマを見つけ出すための“切り込み方”が紹介される。例えば、「事実を世間の視点とは反対の、個の視点から見ていく」「常識や制度を打ち壊す人物・出来事にスポットを当てる」など。物事を真正面からだけではなく、さまざまな角度から見てみるということだ。

 また、ノンフィクションの執筆には、インタビュー取材が必須かつ重要事項になるが、第2章「『取材力」を身につける」~第4章「“脳を活性化”するノート術」では、取材の依頼の仕方、準備をどこまでするのか、取材相手への接し方、話を聞き出すためのテクニック、取材中のメモの取り方に至るまでかなりのボリュームで、具体的に明かしている。

 その中で印象的だったのがメモの取り方だ。インタビュー現場において、メモと併用して、ICレコーダーで録音するのが一般的だが、石井氏は録音が必要となる場合を除いて、大学ノートへ手書きで記録するのを基本スタイルにしているという。「インタビューの間、私は大学ノートを広げて、猛烈な勢いで書いて書いて書きまくっている」。

 理由として、「あえてノートに書き取るという重労働を己に課すことで、インタビューをより充実したものにできる」と説明する。「手書きにこだわるのは、書く作業が大変だからこそ、少しも無駄なことをしたくないという高度な集中力が生まれるからだ。相手の一言一句に神経を尖らせ、本全体の構成を考え、それに沿って重要な内容、引っかかる表現、微妙なニュアンスを効果的に配置して記録しようとする」。取材が終わると右腕全体が痺れているという。この一節だけで、石井氏の熱量の高さに圧倒される。

 本書を読んで、本1冊を書き上げるためには、ここまで多岐にわたる技術と熱量が必要になるのかと怯むなかれ。きっと大いに刺激を受けてすぐにでも書きたくなるはずだ。書くことを突き詰めた先には、新しい世界が広がる。そんな飛躍へと導いてくれる濃い中身が詰まった決定本だ。

文=堀タツヤ

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