最強の敵は魔法のトリック?赤ずきんがアラビアンナイトの世界を飛び回る!メルヘン・ミステリー第3弾
浦島太郎や桃太郎など、日本の昔話をベースにした物語で起こる殺人事件や謎解きを描くベストセラー「昔話シリーズ」。それに続く『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、西洋の童話をテーマにしたミステリ作品だ。
主人公の赤ずきんが、おとぎ話の主人公と殺人事件に次々に遭遇。賢くて、ちょっと毒っ気のある赤ずきんのキャラや、みんなが知っている童話にまつわるトリック、そして本格的な謎解きが人気を集めて、映画化も実現した。このたび、その第3弾『赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。』(青柳碧人/双葉社)が登場。最新作で赤ずきんが活躍する舞台は、麗しきアラビアンナイトの世界だ。
物語は、おなじみの『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』と同様、妻の不貞を理由に、国中の女をめとっては殺害する王のシャハリアールと、美しき妃・シェヘラザードの出会いから幕を開ける。シャハリアールが、これまでの妃と同様にシェヘラザードの首に刃を突きつけた時、彼女は王の興味を引く物語を話し始める。ここまでは『アラビアンナイト』のストーリーと同じ。しかし、シェヘラザードはこう続ける。「女の子は、死んだおばあちゃんからもらった赤いずきんをいつも被っていました」――。
そして場面は赤ずきんの家へと転換。ひょんなことから、謎の「指輪の魔人」と出会った赤ずきんは、殺人の容疑をかけられた魔人の主を助けるため、アラビアへ渡る。赤ずきんはそこで、アラジン、アリババ、シンドバッドをめぐって起こる殺人事件に、次々に巻き込まれる。
ちょっととぼけた登場人物たちをシニカルに観察しつつ、赤ずきんは、持ち前の洞察力と推理力で殺人事件の真相に迫っていく。第3弾となる今作でも、異国の不思議な出来事も受け入れる驚異の適応能力と、強敵にもひるまない鋼のメンタル、嘘を見抜く巧みな話術は健在だ。「困った人を助ける」という強い意志のもと、数々のピンチを切り抜けながら謎を追う赤ずきんの活躍はダイナミック。アラビアンナイトのエキゾチックな雰囲気の中で、スリルと驚きに満ちた本格ミステリが楽しめる。
そして今作の最大の特徴は、アラビアならではのトリックが物語を動かしていること。これまでの2作でも、おとぎ話にちなんだ小道具を使った仕掛けが用意されていたが、今回、犯人が使うのは魔法や呪いのトリックだ。魔法を使われたら完全犯罪ができちゃうんじゃない?と頭を抱えたくなるが、そこはさすがの赤ずきん。魔法のルールや条件をしっかり押さえながら、ロジカルに推理を進めていく。読者は赤ずきんと一緒に、不可思議な出来事と事件の関連を探りながら、物語を楽しめるだろう。
とはいえ、これまでの作品と同様、もしくはこれまで以上に推理が難解な今回のアラビア編。赤ずきんは、魔術でトリックや攻撃をしかけてくる犯人にどう迫るのか? シャハリアール王とシェヘラザードの物語の行く末は? 童話やかわいいイラストをきっかけにミステリに初挑戦する小学生から、目が肥えたミステリ読者まで楽しめる、読み応えたっぷりの一冊。
文=川辺美希
10/25 09:00
ダ・ヴィンチWeb