「透明マント」の実現は目の前に!? 数千年も続く“不可視化”の研究

『透明マントのつくり方』(グレゴリー・J・グバー:著、水谷淳:訳/文藝春秋)

 科学とは、なぜこうも僕らの“少年心”をくすぐるのか。かつて、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズで憧れたステルス迷彩、映画「ハリー・ポッター」シリーズに登場した透明マントなど、いるはずの人が“見えなくなる”技術はもはや、実現に限りなく近いようだ。

 書籍『透明マントのつくり方 究極の〝不可視〟の物理学』(グレゴリー・J・グバー:著、水谷淳:訳/文藝春秋)は、タイトルだけで心をワクワクさせる。古今東西の研究者が、いかにして“不可視”の技術と向き合ってきたのかに迫った科学書だ。

 人の不可視化は、古くから研究されてきたという。歴史をたどると「数千年前」からだったとは、驚きだ。

 書物にも、その足跡が残されている。本書によると、紀元1世紀か2世紀に著されたという『ビブリオテーケー』には、ギリシャ神話の英雄ペルセウスが「姿を消せるハデスの兜」をかぶり、ギリシャ神話の怪物ゴルゴーンの三姉妹に忍び寄り、メドゥーサの首をはねる描写がある。

 時代は流れ、1人のSF作家が「自然法則の制約の中ではたして不可視化は可能なのだろうか」と、疑問を投げかけた。フィッツ=ジェイムズ・オブライエンは1859年に出版した『あれは何だったのか?』で、人々の不可視化への興味を駆り立てたという。

 そこから150年近く経ち2006年には、理論物理学者らによってマイクロ波を用いた「不可視化クローク(※外みの)」なる素材の試作品が発表され、大々的に報じられた。以降も、世界各国で研究が続けられている。

 不可視化する技術(クローキング技術)には、物体を隠す以外の利用手段もある。その一例として音響波を用いた「音響クローキング」では、地震波をおさえる、つまりは“耐震”を目的とした研究も進んでおり、防災技術としても注目されているという。

 本書では「あなたにも不可視化デバイスが作れる!」として、身近なモノでクローキング技術を体験するための方法を紹介しているのもユニークだ。

 著者は「科学の進歩を予想するのは意外と難しい」と述べている。しかし、どれほどハードルが高くとも、フィクションの世界でしか見られなかった技術を現実のものにするべく、奮闘する科学者たちもいる。「透明マント」に端を発した本書は、彼らの功績をたたえるドキュメンタリー書でもある。

文=カネコシュウヘイ

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