巨大ガス惑星・木星と土星の謎が徐々に判明。探査機「カッシーニ」が見つけたモノ

太陽系最大惑星の木星は、ほぼすべてがガスの塊であるが、中心部には金属と岩石からなる核があることもわかっている。他方、きれいなリングで知られる土星もガス惑星だ。武蔵野大学の教授で宇宙科学を専門とする高橋典嗣氏によると、土星に63個ある衛星には「水や大気がある」ものもあり、とりわけ第2衛星エンケラドスには生命の存在も考えられているという。

※本記事は、高橋典嗣:著『知れば得する宇宙図鑑』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

巨大ガス惑星・木星の傷跡は強い重力が原因

直径は地球の11倍、質量は317倍、体積は1300倍超という木星は、太陽系最大の惑星だ。太陽系全体の質量のうち99.9%を太陽が占めるが、残りのほとんど(約70%)は木星の質量である。

木星には、地球や火星のように岩石でできた地面はなく、惑星全体がガスの塊。主成分は水素とヘリウムで、水素が全体の81%ほどを占める。ガス惑星とあって、密度は岩石惑星に比してかなり小さく、水の1.3倍ほどしかない。

また木星には、おもに細かくて暗いチリでできた環がある。チリは、木星の衛星(2023年までに95個を確認)に小天体が衝突した際にできたものと考えられている。

木星の代名詞といえば、表面に見える赤色や白色、茶色でできた縞模様、それと「大赤斑」といわれる大きな渦だろう。

可視光で見えている木星の姿は表層にある雲で、赤・白・茶といった色の違いは、雲の温度と含まれる硫黄やリンの化合物の違いを示している。また大赤斑は、木星表面の気流の乱れによって生じた渦だ。その大きさたるや地球の直径の2倍を超え、最初に望遠鏡で観測されてから400年消えることなく存在している。

▲可視光で見えている木星の姿「表層にある雲の温度と含まれる硫黄やリンの化合物の違いで色の変化が生じる」 ©NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute/ G.Ugarkovic

木星は重力が強いので、小惑星や彗星がしばしば衝突し、閃光や「傷跡」が観測されている。たとえば、1994年7月には「シューメーカー・レビー第9彗星(SL9)」が木星に衝突。SL9は木星の重力によって上空で崩壊、20個以上の破片が木星へと落下した。

その結果、木星の表面にはいくつもの傷跡が残されたのだ。衝突は地球から見て木星の裏側で起こったため、地上からは観測できなかったが、軌道上からハッブル宇宙望遠鏡が、衝撃によってできた高さ3000kmにも達したキノコ雲を撮影している。

ほかにも、2010年8月には日本のアマチュア天文家が、木星への小惑星衝突を動画で撮影した。同年10月と2012年9月には、オーストラリアとアメリカのアマチュア天文家が、相次いで木星への小惑星衝突と思われる閃光を観測、目撃している。

ところで、木星の内部構造はどうなっているのか。高圧の中心部には、鉄やニッケルの金属核とケイ酸塩などでできた岩石質の中心核がある。

その外側には、液状の金属水素(と少量のヘリウム)でできた厚さ約4万kmの層があり、さらにその外側を、厚さ約2万kmの液体分子状の水素を中心とした層が取り囲んでいる。つまり木星は、太陽系が誕生した頃の星間ガスを大気として取り込んでいる惑星なのだ。

リングに気がついたのはガリレオ・ガリレイ

太陽系の惑星で、木星に次いで大きい土星は、木星同様、ほとんどが水素でできたガス惑星だ。密度は太陽系の惑星でもっとも小さく、比重は0.69。つまり、水に浮くほど密度が小さい。そして、美しい環(リング)が土星の大きな特徴のひとつである。

環の存在に初めて気づいたのはガリレオ・ガリレイであり、1655年には天文学者のクリスティアーン・ホイヘンスが、その環は土星を取り巻くリングであると主張した。その後、望遠鏡の発達とともに、環の数や成分など少しずつ環の謎は解明されていった。

土星の環はおもに、内側のC環、B環、A環、カッシーニの間隙(A環とB環のあいだにあるすき間)からなるメインリング、もっと内側にあるD環、メインリングの外側にあるいくつかの環(フェーベ環、F環、G環、E環)という構成になっていて、アルファベットは発見の順番を示す。

これらの環は、内側からD、C、B、A、F、G、E、フェーベ環という順番だ。また、メインリングは小型の天体望遠鏡でも確認できる。

なお、地球から見える土星の環は、土星が約30年かけて公転するあいだに環の傾きを変える。これは、土星の赤道面が26.7度傾いているためだ。また、環の厚さが薄いため、15年周期で環が消失して地球から見えなくなる。

▲2013年10月10日にNASAの土星探査機「カッシーニ」が上からとらえた土星の姿。約10時間で1回転する速い自転のため、赤道付近が外に膨らみ、全体が少しつぶれた球形をしている ©NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute/ G.Ugarkovic

1997年にNASAとESAが共同で打ち上げた、土星探査機「カッシーニ」などの観測により、前記以外の環や間隙も見つかっている。

環はそれぞれ、数cm~数十cmという細かい氷の粒でできていることがわかった。しかし、環がいつ頃、どうやってできたのかは、はっきりわかっていない。

  • 40億年ほど前、土星の衛星に直径500kmほどの小惑星が衝突し、粉砕された小惑星のかけらが土星周辺に散らばり、土星の重力に引き寄せられて環になった
  • 土星が誕生した際、土星の周辺にあった氷の粒が残って環になった
  • 土星に近づきすぎたために崩壊した衛星のかけらが環になった」

など諸説ある。

土星には63個の衛星が見つかっている

土星には63個の衛星が見つかっている。地上の巨大望遠鏡やNASAとESAの土星探査機「カッシーニ」によって、その多くは2000年以降に発見されたものだ。

カッシーニの打ち上げは1997年10月15日。その後、2004年7月1日に土星周回軌道へ乗り、翌05年1月14日には突入機「ホイヘンス」を土星の第6衛星タイタンに投下、着陸に成功させた。このタイタンは、太陽系で木星のガニメデに次いで大きく、土星では最大の衛星である。

ホイヘンスは、降下中に液体メタンの海や川、陸地を撮影し、カッシーニを経由して地球に画像を送信してきた。このほか、気温や気圧、メタン濃度などが計測された。これらの観測結果の解析から、タイタンにはメタンやエタンが雨となって降り注ぎ、地表に川や湖のような地形ができていると判明した。

カッシーニはまた、土星を楕円軌道で周回するタイタンの形状変化を観測。それによれば、タイタンは岩石だけでなく、地下に液体の水の層(海)があり、そこでは地球の干満のような現象が起きている。

タイタンの内部は、外側から順に、メタンやエタンなどの有機物が豊富にある大気と地表、外部氷層、地下に広がる海、高圧氷層、そして含水ケイ酸塩の核、という構造になっていることがわかった。

▲2014年、カッシーニがとらえた土星の衛星エンケラドスの間欠泉。エンケラドスでは、おもに4本の100km以上のひび割れ(タイガーストライプ)から氷の粒や水蒸気が噴き出ている ©NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

土星の第2衛星エンケラドスは、反射率が高く太陽系でもっとも白く見える天体だ。カッシーニは、エンケラドスの南極に複数ある「タイガーストライプ」と呼ばれるひび割れから、間欠泉のように噴き出す氷の結晶をとらえている。また、微量だが大気の存在も確認された。

さらに、間欠泉の噴出口の下には海が広がっている可能性があるという。タイガーストライプ周辺は、周囲に比べて温度が高く、噴出物は水蒸気、氷の粒子、有機化合物などで、氷の粒子には塩分が含まれていた。この塩分によって凍らずにすんでいる水が、地下には豊富にあるのではないか、と推測される。

そして、生命誕生に欠かせない水があるとなれば、エンケラドスには「生命」が存在するのでは、と注目されている。

カッシーニはまた、土星の第4衛星ディオネに薄い大気を発見した。ディオネは、岩石を含む氷でできており、この氷が大気のもとになっていることから、大気の多くは酸素ではないかと推察されている。

▲カッシーニがとらえた土星の衛星ディオネ。クレーターや断層は、ディオネには誕生当時から地殻活動があったことを意味する。また、ディオネには、希薄ではあるが酸素を主とした大気があることもわかっている ©NASA/JPL/Space Science Institute

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