観衆が多いと、力を発揮したりミスを続けたり チンパンジーでも確認
チンパンジーも多くの観客がいると、能力を高く発揮したり、逆にミスを連発したりするらしい。京都大学ヒト行動進化研究センター(旧・霊長類研究所)の数字を覚えたチンパンジー6頭が難易度が異なる三つの数字課題に挑んだ6年間の記録を、京大と秋田県立大の研究チームが分析したところ、ふだんから接している研究者が多いほど最も難しい課題では成績が上がったが、最も簡単な課題では逆に成績が下がった。
研究チームの山本真也・京大准教授は「チンパンジーにも『観衆効果』が一定程度みられることを実証できた。なぜチンパンジーが人の目を気にするのか、ほかの動物にもあるのか、今後も探求したい」と話す。
人間は観衆の存在によってパフォーマンスが大きく影響されることがある。例えば、多くの観客が詰めかけた野球場で、いつもより調子を上げる選手もいれば、逆にプレッシャーに負けて力を発揮できない選手もいる。「観衆効果」と呼ばれ、効果の現れ方は多様だが、他人の目や評判を気にする人間の特性と関係していると考えられている。
人間に最も近いチンパンジーでも観衆効果があるかを調べるため、研究チームは6頭のチンパンジーが2009~15年にタッチパネルで難易度が異なる三つの数字課題に挑んだ計9219セッション(1セッションで50~90回試行)の成績と、そのときの見学者の種類や数との関係を分析した。
最も簡単な課題とは、画面上に例えば1、2、3、4と連続した数字がランダムに並び、それを小さい順に「1」「2」「3」「4」と押していくというもの。中ぐらいの難易度の課題は、連続した数字ではなく、例えば、1、3、4、6、9が画面上にランダムに並び、同様に小さい順に「1」「3」「4」「6」「9」と押していく。最も難しい課題は、中ぐらいと同様に、連続していない数字がランダムに並んでいるが、最初に最も小さい数字を押すと、ほかの数字が隠されるので、数字を押す前にどの数字だったかを覚えていく必要があり、人間でも結構難しい。正解するとチンパンジーにはリンゴ片が与えられる。
課題に立ち会う人間も、(1)日頃からこの実験に直接携わっている研究者(実験者、1~5人)(2)実験に直接かかわっていない顔見知り(0~6人)(3)外部の見知らぬ見学者(0~5人)――の3タイプにわけ、チンパンジーの成績にどう影響しているかを統計的に解析した。
その結果、最も難しい課題では、チンパンジーにとって最も近い存在である実験者の数が多いほど、正答率が向上した。実験者が1人増えるごとに正答率が2~6%上がると推定された。
一方、最も簡単な課題では、実験者もしくは顔見知りが多いほど、正答率が下がった。実験者が1人増えるごとに正答率が6~11%、顔見知りでは1人増えるごとに1~10%低下する計算となった。
11/18 12:01
朝日新聞社