「自分の命を10年削っても、あの子の命を1年取り戻したい」飼い主の深い悲しみと罪悪感…つらい“ペットロス”を乗り越えるための2つのプロセス
〈「とにかく涙が止まらない」「やる気がなくなり、会社を欠勤した」愛するペットを喪った飼い主に起こる“ペットロス”の症状とは〉から続く
大好きなペットを喪ったとき、人は大きなショックと痛みを感じます。その悲しみのあまりの深さに不安になり、乗り越えることができるのかと疑問に感じる人もいるかもしれません。
ここでは、心理学博士で獣医であり、長年「ペットロス」のカウンセリングと研究を続けてきた日本獣医生命科学大学教授・濱野佐代子さんがそんな疑問に答える『「ペットロス」は乗りこえられますか? 心をささえる10のこと』(KADOKAWA)から一部を抜粋。
愛するペットとの別れを受け入れるプロセスについてご紹介します。(全2回の2回目/最初から読む)
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「ペットはこの世にいない」という現実を受け入れる
愛するペットとの別れに遭うと、どのような悲嘆のプロセスをたどるのでしょう。これまでの研究や知見などの結果をまとめて説明していきます。
ペットが亡くなった時、多くの飼い主さんは咄嗟にこう思います。
「信じられない(信じたくない)」と。
ペットの死は受け入れ難く、ペットが亡くなった事実を否定したい心境になります。同時に、ショックのあまり何も考えられない、または何も感じられない放心状態に陥ります。それは、ペットが重篤な病気であると告知された場合も同様の心のメカニズムが働きます。
これらの心の動きは正常な反応であり、ペットを喪った事実を否認することにより、心が壊れることを防ごうとしているのです。
「本当に死んでしまったのか」
けれども、ペットはこの世にいないという現実を否認する気持ちは、徐々に認める(認めざるをえない)方向に向いていきます。あるいは、ペットの最期の瞬間がフラッシュバックのように鮮明に蘇り、その場面へと引き戻され苦しめられます。切り裂かれるような心の痛みから逃れるために、ペットが死んだ事実を否認し、束の間の安息を得ようとする。そのようなことを繰り返す。
「自分の命を10年削ってもいいから、あの子の命を1年取り戻したい」
亡くなったペットを何とか取り戻そうという気持ちも湧いてきます。
「もういないというその現実に、どうしようもなく悲しくなる」
「あの子の傍にいきたいと思ってしまう」
「もう一度だけ、抱きしめたい」
ようやく現実を認め、ペットがいない生活を受け入れようとしても引き戻され、再び心に痛みが襲ってくる。ペットを亡くした現実を認めることは、悲しみが和らいでいく回復・適応のプロセスに向かうために必要なことなのですが、反面、ペットとの別れを強く意識することだともいえます。飼い主さんにとっては、いちばん辛い時間です。
悲しみと回復を繰り返してペットロスを乗り越えていく
また、ペットを喪った人は周囲に怒りを感じたり、自分を責める怒りに襲われることもあります。どれだけペットに尽くしていたとしても、ほとんどの人が罪悪感や自責の念を抱きます。
「傍にいることが当たり前だと思っていた。いちばん大切なことだったのに」
「もっと大切にしなければいけなかった。おざなりにしていた自分が許せない」
これらは実際、ペットを亡くした方から聞いた言葉です。
子どものような存在のペットを自分が助けてやれず守ってやれなかった、と自分を責めます。これらの怒りや自分を責める気持ちは、抑うつ徴候と関連していると言われます。抑うつとは、気分が落ち込み、憂うつになり、何もやる気がなくなってしまうことです。
悲しみ、心の痛み、落胆、絶望などの感情を抱いたり、体調不良になったり、うまく考えることができなかったり、周りの人とコミュニケーションがとれなくなったりします。亡くなったペットを何とか取り戻したい(現実的には難しいことなのですが)という考えで頭がいっぱいになる人もいます。
なぜこのように苦しむのか、愛情を注がなければ、飼わなければ、こんなに悲しまなくてもよかったのではないのか。苦しみのあまりペットと一緒に暮らした日々さえも否定したくなります。
ペットのことを思い、泣いたり悲しんだりする。同時に、ペットのいない日常に少しずつ慣れて生活を続けていく。また悲しむ。
この悲しみに向き合うグリ―フワークのプロセスと、新たな生活に向かう回復のプロセス、この2つのプロセスを揺らぎながら行ったり来たりします。それは人によって数週間だったり、数カ月だったり、数年かかったり、喪失の原因や闘病の期間も関係するので様々です。
愛情を注げば注いだ分だけ悲しみも深くなります。
けれどペットに精一杯愛情を注いで、一緒に幸福な日々を過ごしたことこそが、あなたの悲しみを和らげてくれるのです。
悲しみと悔しさ、寂しさや切なさの混沌とした世界で、苦悩しながらも自分とペットだけの特別な物語を紡ぎ、関係を結び直していくのです。
(濱野 佐代子/Webオリジナル(外部転載))
10/25 11:10
文春オンライン