「とにかく涙が止まらない」「やる気がなくなり、会社を欠勤した」愛するペットを喪った飼い主に起こる“ペットロス”の症状とは

 大好きなペットを喪ったとき、人は大きなショックと痛みを感じます。その悲しみのあまりの深さに不安になり、乗り越えることができるのかと疑問に感じる人もいるかもしれません。

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 ここでは、心理学博士で獣医であり、長年「ペットロス」のカウンセリングと研究を続けてきた日本獣医生命科学大学教授・濱野佐代子さんがそんな疑問に答える『「ペットロス」は乗りこえられますか? 心をささえる10のこと』(KADOKAWA)から一部を抜粋して紹介します。

 ペットを喪った飼い主に起こる「ペットロス」とは、一体どのような状態なのでしょうか――。(全2回の1回目/続きを読む

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老衰、病死、安楽死など…いつかは迎えるペットとの別れ

 ペットとの別離には、死別と生き別れがあります。死別の原因には、老衰、病死、事故死、安楽死があります。生き別れには、飼い主の生活状況の変化や身体上の問題などで飼えなくなった場合、ペットが行方不明になってしまう場合などがあります。

 病死といってもひとくくりにはできません。長く患っていた場合、短期間で亡くなった場合、病気の種類も様々です。この闘病期間の長さも死別の悲しみに影響します。その期間は図らずもペットの死を迎える心の準備期間になります。それは死を予期させ覚悟させられる時間でもあるのです。闘病期間に飼い主さんが納得のいく獣医療をペットに受けさせ、十分な看護や介護を行うことが、後悔を軽減するといわれます。そのため、突然亡くなった場合は死に対する心の準備ができていません。突如関係が断ち切られ、「信じられない」という気持ちと衝撃が他の亡くし方よりも強くなると考えられます。

 しかし矛盾したことをいえば、十分な医療を施し、寝る間を惜しんで介護をしていたとしても後悔はつきません。なぜならば飼い主のいちばんの願いは、いうまでもなくペットの病気が治癒し共に生きることであるからです。

 一方、獣医療では、選択肢のひとつに安楽死があります。獣医師がペットの病状やクオリティ・オブ・ライフ、治療の限界などを考慮して安楽死の選択肢を提示しますが、最終的には飼い主が決定します。重大で引き返せない決断になりますので、信頼関係を築いている獣医師から十分に説明を受け、疑問が生じた場合は理解できるまで話し合います。特に重要なことは、安楽死を選ぶか否かの意見を家族全員で一致させる必要があります。

 安楽死が最適な選択であったとしても、ペットは自分の治療に関して意思を示すことはできないので、その選択がペットの望みであったかどうかはわかりません。飼い主が責任を引き受けることになります。だからこそ、

「本当に安楽死でよかったのか」

 と、答えの出ない自問自答を繰り返す飼い主さんもいるのです。

ペットを喪った飼い主に起こる「ペットロス」の症状

「ペットが天寿を全うする」ということを、多くの人が理想としているので、その真逆の「安楽死」に対しては、否定的に思われる方もいるかもしれません。それがまた飼い主の中に「悔い」として残されて小さな波大きな波となって幾度となく打ち寄せ苦しめます。

「もっと生かしてあげられれば」

「もっと他の治療もしてあげればよかったんじゃないか」

 もっと、もっと……。

 周囲からは十分にやってあげていたように見えても、飼い主の後悔はつきません。保護しなければならないのに自分のせいで喪った、その罪悪感さえ持つといわれます。

 しかし、そのような後悔や自責の念を抱いている飼い主さんこそ、責任感が強くペットのために献身的に尽くしていた方なのです。

「とにかく涙が止まらない」

「やる気がなくなり、会社を欠勤した」

「人とコミュニケーションがとれなくなった」

「胸に悲しみが詰まって、苦しくて吐きそう」

「ひとりになるのが怖い」

「立っていられなくなる」

「自分の人生が無駄な気がする」

 これらは実際に私が飼い主さんたちから聞いた言葉です。

 泣く、眠れない、食欲がなくなる、頭痛がする、胃の痛みや吐き気がする、胸が締めつけられる、喉が詰まるなど、身体の不調を訴えたり、悲しみ、怒り、自責感情、憂うつ、孤独、無力感などの心の痛みを訴える方もいます。他にはひとりになりたい、頭が混乱する、集中できないなどもしばしば報告されています。

 この中には一見、ペットロスが原因とは思えない症状もあります。また、飼い主自身も気づかないことさえあるので注意が必要です。

 ある男性は、食欲が落ち、眠れず、無力感や罪悪感に苛まれていました。身体的な病気は見つからず原因不明でしたがよくよく話を聞いてみると、これらの不調がペットが亡くなったことに起因することが判明し、本人も信じられずに驚いていました。この男性の場合、ペットが死んだくらいで男が泣いてはいけない、といった考えが悲しみを表現しづらくさせてしまい、自信が無意識のうちに悲しむことを許さなかったので、ますます辛くなっていったようです。実際はペットを喪ったことで精神的に落ち込み、身体的な不調につながってしまっていたのです。

「自分の命を10年削っても、あの子の命を1年取り戻したい」飼い主の深い悲しみと罪悪感…つらい“ペットロス”を乗り越えるための2つのプロセス〉へ続く

(濱野 佐代子/Webオリジナル(外部転載))

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