海外で投票、利便性に難…最寄りの投票所へ片道2時間以上・郵送に時間
海外在住の有権者が国政選挙で1票を投じる在外投票について、投票場所の少なさや金銭面の負担の重さから、利用しづらいとの声がやまない。政府は運用改善に取り組むが、専門家は「投票機会を広げる努力がさらに必要だ」と指摘する。(広瀬誠)
海外から投票する方法は、在外公館での投票と郵便投票の2通りがある。
米国で約20年間暮らすデパート勤務、内田
渡航前の居住地の自治体から投票用紙を取り寄せ、郵送で投票することもできる。しかし、2021年の前回衆院選で、投票用紙が自宅に届いたのは投開票日の1週間前。3~5日で届く速達だと約60ドル(約9000円)もかかるため、普通郵便で送ったが、投開票日に間に合ったか不明という。
「『政治とカネ』の問題に本気で取り組む政党に投票したかったけど、在外投票はもううんざり」。内田さんは今回の衆院選(27日投開票)の投票を諦めている。
外務省によると、海外在住の有権者は約102万人(昨年10月時点)。在外投票者数は2万人前後で推移しており、在外邦人の投票率は2%ほどしかない計算だ。
そこで政府は利便性の向上を図ろうと、今年7月、在外選挙人名簿の登録手続きを一部オンライン化。在外邦人が登録を申請してから手続きが終了するまで、従来は2~3か月かかっていたが、大幅に短縮された。
フィリピンの首都・マニラで暮らす弁護士、難波泰明さん(40)は今回、9月30日に登録を申請して8日後には手続きが完了。17日に日本大使館に赴き、無事に投票を済ませた。難波さんは「日本を成長させてくれる候補者に投票したいと思っていたので、今回、投票できて良かった」と喜んだ。
ただ、在外投票の方法自体は2000年の導入時から、ほぼ変わらない。
在外投票の改善を呼びかけている「海外有権者ネットワークNY」の竹永浩之共同代表によると、世界的な郵便事情の悪化などで、投票日が過ぎてから、投票用紙が自宅に届くことも頻繁にあるという。選挙に参加したくても、投票できない在外邦人は少なくない。
一橋大の只野雅人教授(憲法)は、「郵便投票の用紙を在外公館で印刷して渡すことやインターネット投票を検討するなど、できるだけ多くの在外邦人が投票に参加できる機会を確保すべきだ」と話す。
◆ 在外投票 =2000年衆院選から比例選に限って導入され、07年参院選からは選挙区選にも拡大された。22年に最高裁が出した違憲判決を受け、今回の衆院選では、最高裁判所裁判官国民審査の投票も対象に加わった。在外公館で投じられた投票用紙は、職員自ら航空機で日本に運ぶため、投票期間は公示翌日から2~6日間に限られる。
10/18 05:00
読売新聞