自民総裁選「米国が警戒するのはこの人」知日派評論家ハリス氏指摘 安倍元首相の伝記著者

自民党総裁選(27日投開票)を米国はどう見ているのかー。米国の日本政治評論家で安倍晋三元首相の伝記著者として知られるトバイアス・ハリス氏が、産経新聞とのインタビューで分析を語った。

ー米国が望む自民党新総裁とは

「米国が重視するのは『誰が総裁になるか』より、安定政権が樹立されるかどうかだ。11月の米大統領選で共和党のトランプ候補、民主党のハリス副大統領のどちらが勝つかにかかわらず、日本が脆弱(ぜいじゃく)な短命政権になれば不満の種となる。長く統治できる首相であることが大事。林芳正官房長官はワシントンで知己が多く、岸田外交が継続されるという安心感はある。上川陽子外相も同じだ。小林鷹之前経済安全保障担当相も米国の安全保障関係者にはよく知られており、歓迎されるだろう」

日米韓3カ国協力、高市氏に不安も

ー日米同盟への影響は

「高市早苗経済安全保障担当相の場合、日米韓3カ国協力への影響が問題になる。日韓関係が複雑化するかもしれないからだ。韓国は(4月の総選挙で保守系与党が惨敗し、対日強硬路線をとる革新系野党が勝利したため)今後、左傾化が予測されるという事情もある。バイデン政権は3カ国協力を非常に重視しており、高市氏が政権を担うことには神経質になるだろう」

「石破茂元幹事長は、日米同盟は対等ではないから是正すべきという立場をとっており、米国で苦々しく思っている人もいる。トランプ氏は全く違う理由で(日本の防衛負担は不十分だとして)日米同盟は不平等だと思っている。この2人が日米の指導者になったら、どんな対話ができるのか」

「河野太郎デジタル相についても同様だ。米国にはイージス・アショアの記憶が残る(2020年、防衛相だった河野氏が、米国製の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の見送りを発表したこと)から、信頼を得られるかどうかは分からない。自立にこだわりすぎるのは、米国には望ましくない」

トランプ氏「安倍時代とは別人」首脳の絆は期待できず

ートランプ政権復活の場合、安倍元首相のように首脳同士の個人的関係を築くことは重要か

「大統領選で再選されれば、トランプ氏は自信を深め、誰の言うこともきかなくなる。2016年の大統領選後、安倍氏が会いに行った当時のトランプ氏とは別人だと考えた方がよい。トランプ政権が復活した場合、日本は実務レベルで新政権の安全保障関係者に接近することを目指すべきだ」

「小泉進次郎元環境相の父、小泉純一郎元首相は2000年代にブッシュ政権と良好な関係を結んだ。だが、当時の共和党幹部はトランプ政権に参加しないだろうから、父親(純一郎氏)が米国に残した記憶には頼れない」

ー日本の憲法改正は米国にとって重要か

「米国には、集団的自衛権行使を可能にした15年の安全保障関連法の方が重要。自衛隊の地位を憲法で明記することには、あまり関心がない。それよりも、日本政府が国民の支持を得て防衛費を増強し、自衛隊の戦闘能力を強固にすることを重視している。予算を増やしても、軍用機や艦船の維持要員がいなければ意味がない」

派閥の役割、決選投票に注目

ー総裁選の注目点は

「支持率調査では石破、小泉、高市の3人が上位に立ち、派閥候補が優位だった過去の総裁選とは違う。9人が立候補すること自体、異例だ。一方で推薦者名簿を見ると河野氏は麻生派、高市氏は旧安倍派に支えられており、派閥の根が完全に消えたわけではない。決選投票で派閥の役割が浮上するかもしれない。いずれにせよ予測は不可能で、今回の総裁選は興味深い」

「自民党では派閥が閣僚人事を決め、選挙資金を配分する役割を担った。派閥が消えたら、それに代わる統治の仕組みが必要になる。今は移行期なのだろう。総裁による中央集権に向かえば、自民党はまったく違う組織になる」

(聞き手 三井美奈)

トバイアス・ハリス氏 米国の日本政治評論家。日本調査のコンサルティング会社「ジャパン・フォーサイト」代表。2020年、安倍晋三氏の伝記「The Iconoclast(「因習を打破する人」の意味)」を出版。

ジャンルで探す