岸田首相、「最良」の日韓関係の後戻り防ぐ 自国民保護、覚書で協力を明文化

【ソウル=永井大輔】岸田文雄首相は韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談し、第三国における緊急事態の際、自国民保護での協力を確認する覚書の締結を確認した。退任間際の外遊は異例だが、シャトル外交の実践と協力の明文化により、「戦後最悪」から「最良」といわれるまで改善させた両国関係の後戻りを防ぐ狙いがある。

「日韓関係の本来あるべき姿を尹大統領とともに示し、来年の国交正常化60周年を見据えた協力と交流強化の方向性を示した」。首相は会談後、記者団にそう述べた。「協力の意義を日韓両国の国民に幅広く理解していただくことを心より望んでいる」とも語った。

首相は2015年、慰安婦問題の「不可逆的な解決」を確認した日韓合意に外相として携わったが、後の文在寅(ムン・ジェイン)政権にほごにされた苦い記憶があった。対日関係の改善を掲げた尹政権も発足当初は信頼せず、当時の政府高官は「2度もだまされるわけにはいかない。首相は相当警戒していた」と振り返る。

ただ、いわゆる徴用工訴訟問題での解決策提示など、尹氏の「本気度」を認めた首相は、一気に関係改善に踏み切る。昨年3月には尹氏が来日し、シャトル外交の再開で一致。両首脳の会談は今回で12回目となり、外交筋は「これまでは考えられなかったレベルの頻度だ」と手応えを語る。

関係改善は米国を交えた安全保障協力の進展にもつながった。昨年12月には北朝鮮の弾道ミサイル情報を3カ国で即時共有するシステムが始動。今年6月にはサイバーを含む複数領域での3カ国演習が初開催された。

首相周辺は「日韓関係の改善は間違いなく政権のレガシー(遺産)だ」と話す。ただ、日韓関係は政権交代の度に好転と後退を繰り返してきた。両首脳が今回の会談で、自国民保護をめぐる覚書で合意したのも、昨年にスーダンやイスラエルからの退避で協力した実績を明文化し、着実に引き継ぐ狙いがある。

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