リニア争点も、早期着工には課題 議論進展も不透明 静岡県知事選告示

9日に告示された静岡県知事選は、川勝平太知事が着工を認めてこなかったリニア中央新幹線の静岡工区への対応も争点になる。ただ、リニアをめぐっては、推進派陣営も明確なメッセージを打ち出しにくいのが実態で、選挙戦で議論が深まるかは不透明だ。課題や手続きなども残っており、早期着工は容易ではなさそうだ。

差異のない主張

「日本の移住先ナンバーワンは静岡県で、これを加速するのはリニアの役割だ」。元衆院議員で浜松市長を4期務めた鈴木康友氏=立民、国民推薦=は9日の第一声でこう語った。また、元副知事で総務官僚だった大村慎一氏=自民推薦=は「リニアの問題は責任を持って解決する。1年以内に結果を出したい」と述べた。

26日投開票の知事選には新人6人が立候補したが、与野党対決の構図で鈴木氏と大村氏による事実上の一騎打ちになるとみられている。

ただ、両氏ともリニア問題では「推進」の立場を示しつつ、懸案の水資源や南アルプスの環境保全の問題に関しても「両立しなければならない」(鈴木氏)、「妥協しない」(大村氏)と、主張に大きな差異は見受けられない。

背景には前回選挙で川勝氏が「大井川の命の水を守る」と訴え、自民推薦候補との一騎打ちに圧勝するなど、リニア推進に対する県民の世論が読みづらいことがある。

メリット浸透も限定的

静岡県内にはリニアの停車駅が設けられないことから、県民にとってリニアは必ずしも暮らしに直結したテーマにはなっていない。国は開業後には東海道新幹線の県内駅での停車回数を増やせば、経済効果が見込めると試算するが、そのメリットも限定的にしか伝わっていない。

大井川上流の南アルプスにトンネルを通す工事では、中流や下流の水量減少や南アルプスの生態系への影響などが指摘され、川勝氏は着工を認めない理由にしていた。もっとも、国の有識者会議では、水資源は適切な対策で流量を維持できると評価。生態系の保全でも継続的なモニタリングを行うなどして影響の最小化を図ると、一定の結論を出している。

JR東海は7日、中断していたトンネル予定地点の地質や地下水の状況を確認するボーリング調査を5月20日に再開する方針を打ち出した。知事選の最中での再始動はリニアをめぐる局面の転換を印象付けるが、実際のトンネル掘削など工事の着工には、静岡県自然環境保全条例に基づく協定を締結するなど手続きも残る。

知事選の結果次第で計画が急進展するとの見方もあるが、課題である地元の不安や懸念を払拭するための十分なコミュニケーションなどにも時間を要しそうだ。(万福博之)

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