岸田首相、中南米外交で重要な日系人と交流重ねる 「若い同胞を誇りに思う」

【サンパウロ=田中一世】ブラジル訪問中の岸田文雄首相は4日昼(日本時間5日未明)、中南米最大の日系社会があるサンパウロで、日系人との交流イベントに参加した。首相は実質2日間のブラジルとパラグアイ滞在期間中、3回の日系人交流行事に出席した。農業など幅広い分野で活躍し、中南米に良好な対日感情をもたらしてきた日系人は、日本の外交戦略上も重要な存在だ。

日本が尊敬される国に

首相はサンパウロでの歓迎式典で、若い日系人によるブラジル社会への貢献活動に触れ「若い同胞を誇りに思う。同時に皆さまが自身のルーツを誇りに思えるよう、日本が尊敬される国であり続けるよう努力する」とあいさつした。約500人で埋まった会場から拍手が湧いた。会場到着時には子供たちが両国の国旗を振って出迎えた。

同国の首都ブラジリアでも3日午前(日本時間同日夜)に日系人と懇談した。3日夜(日本時間4日午前)のパラグアイの首都アスンシオンで約300人が集まった交流イベントでは「ここで活躍する日系人もわれわれにとって大きな財産」と述べた。日系人の代表者は「理想郷建設を目指した開拓初期の汗と涙の努力の積み重ねが、両国間の国際交流の土台になっている」と語った。

中南米には推計約310万人の日系人が住み、このうちブラジルには人口の約1・2%にあたる約270万人が居住。だが、今や日系6世も生まれ、同胞意識は薄れてきている。

そこで首相は、3カ所の行事で、今後3年間で1千人規模の日系人交流事業を実施すると表明した。若者を中心に中南米の日系人に訪日の機会を設け、日本とのつながりを強めてもらう狙いがある。

深まる中国の影

近年は中国が中南米に経済進出し、影響力を増している。ブラジルの最大の貿易相手国は中国だ。かつて「米国の裏庭」と呼ばれた中南米における日米の影響力は相対的に弱まっているものの、日本との関係も重視する国が多い。

ブラジルのルラ大統領は岸田首相との共同記者発表で「日本人(日系人)が一番集中しているのは日本をのぞけばブラジルだ。首相はもっと頻繁に来てください」と語り、両国の特別な関係に言及した。約1万人の日系人を抱えるパラグアイのペニャ大統領も共同記者発表で「非常に素晴らしい(発展の)基礎をパラグアイに残し、忠実な友人関係を育んできた」と称賛した。

首相は日本と中南米が歩調を合わせ、気候変動対策や国際秩序維持といった共通の目標に取り組む姿勢を強調した。その礎になるのは日系人が現地で築いてきた信頼感だ。同時に「ブラジルなどの政権側にとって日系人は意向を無視できない重要な票田で(ルーツの)日本のことも尊重する」(外務省幹部)との見方もある。

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