【自民党総裁選で「高市早苗現象」】積極財政主張に危機感を抱く財務省が「高市包囲網」を着々と形成 石破茂氏、小林鷹之氏らのバックには財務官僚の影

財務省の路線と合う候補者も(左から石破茂氏、小林鷹之氏/時事通信フォト)

 自民党総裁選は世論調査で人気の高かった小泉進次郎・元環境相と石破茂・元幹事長の一騎打ちと見られていたが、告示後に構図が激変した。高市早苗・経済安保相が党員・党友の支持を急速に拡大させているからだ。【全3回の第3回。第1回から読む

【写真】“石丸現象”の仕掛け人も密かに高市早苗氏をバックアップ 選挙プランナー・藤川晋之助氏

 にわかに巻き起こった“高市現象”に危機感を募らせるのが財務官僚たちだ。高市氏は総裁選候補のなかで唯一、財務省と距離を置くスタンスを取る。財務省担当記者が言う。

「2021年10月、当時の矢野康治・財務次官が月刊誌で与野党の経済政策を“バラマキ合戦”と批判した際に、『失礼な言い方』と激しく噛みついたのが当時政調会長の高市氏だった。2年前の防衛増税の首相指示にも最後まで抵抗した。そんな高市氏を財務省幹部たちは苦々しく見ていた」

 総裁選の論戦を見ても、積極財政を主張する高市氏が、財務省の増税・緊縮路線と正反対の考えであることは明らかだ。

“高市総理”誕生を阻止すべく、財務省幹部は有力候補への緊縮路線の“布教”に余念がない。

 とりわけ重要視されていると見られるのが、党員・党友票で高市氏とトップを争う石破茂氏だ。財務省との密接な関係で“増税メガネ”と揶揄された岸田文雄・首相でさえ公約に掲げながら棚上げした「金融所得課税の強化」を総裁選で持ち出すあたり、財務省の路線とピタリと重なり合う。

 積極財政派の論客で財務省出身の高橋洋一・嘉悦大学教授は、「石破さんは財政政策も金融政策も緊縮路線に寄っていて、基本的に財務省の認識と一緒」と評する。

「ある経済人の仲介で石破氏に会ったことがあります。その経済人は石破氏のためを思って私を紹介したそうですが、何を思ったのか石破氏は、その席に日銀の幹部を連れてきた。『緊縮路線に批判的な高橋に言いくるめられたくない』と思ったのかもしれません」

 その石破陣営は、高市批判を強める。推薦人の平将明氏はBS番組で、高市氏が政策リーフレットを全国に郵送したことを問題視。総裁選挙管理委員会は文書郵送の禁止を通知しており、「他陣営は出していない」と指摘した(高市氏は通知の前に発送を終えていたと主張)。

「今後は経済・財政政策をめぐって石破氏が高市氏に論戦を仕掛けていく展開も考えられる」(前出・財務省担当記者)

 他の候補のバックにも財務官僚の影が見える。財務省のレールに乗った総裁候補かを判断するポイントとして高橋氏が挙げるのが、令和国民会議(令和臨調)の「超党派会議」への参加だ。

 名簿には小林鷹之・前経済安保相の名前がある。

「令和臨調は経営者や学識者の集まりですが、スタンスは政府寄り。裏で財務省が音頭を取っているとされます。その提言内容は、『コロナ期の財政出動で債務残高が増大したから増税が必要』といったものです」(高橋氏)

 小林氏は旧大蔵省の平成11年入省組だ。

「1つ上の10年組は、ノーパンしゃぶしゃぶのスキャンダル直後だったため人材が他省に流れ、『不作だった』と言われたが、11年組はその反動で秀才が揃ったと言われています。今年1月の能登半島地震で現地入りして現場指揮の一翼を担った吉住秀夫・内閣参事官(当時、現・理財局財政投融資総括課長)らが同期。そのなかでも小林氏は“財務省に残っていたらエリート街道を走っていただろう”と評されている」(全国紙経済部デスク)

 政界に転じてからも古巣との関係は深く、本誌・週刊ポスト2024年8月30日発売号では、小林氏が財務省の大物OBから多額の献金を受けていることも報じた。

 総裁候補では他にも、加藤勝信・元官房長官が財務省出身で、父・義郎氏の大蔵大臣在任時に秘書官だった林芳正・官房長官もいる。いずれも令和臨調に入っておらず、総裁選の論戦では「経済あっての財政」(林氏)、「財政健全化は常に最優先ということではない」(加藤氏)と財務省と距離を取る姿勢に見えるが、高橋氏はこう分析する。

「総裁選で緊縮財政を唱えると評判が落ちるという計算なだけで、積極財政路線とは言えない。せいぜい“消極財政”といったところでしょう」

 こうした候補たちが、決選投票に進めなかった時に高市氏に乗るとは考えにくい。財務省による“高市包囲網”が着々と形成されている。

派閥解消を利用して省益拡大

 財務官僚たちが“自分たちの意に染まる総裁候補”を作り上げるさまを見て、建設官僚でもあった脇雅史・元自民党参院幹事長はこう嘆く。

「財務省は、財政規律さえよくなればいいと信じている。それで日本経済が低迷しても知ったこっちゃないんでしょう。高度成長期はそれで役割を果たせたかもしれないが、デフレ下で予算を削れば経済はジリ貧。わかり切った話なのに、旧大蔵省は公共事業を悪者にして国力を落とした」

 そんな財務省と歩調を合わせた候補が首相になれば何が起きるか。高橋氏は「緊縮路線は成長を阻害するだけ。株価は下がる」と警鐘を鳴らす。

 にもかかわらず、舞台裏で財務省の存在感が強まる総裁選について脇氏はこう読み解いた。

「派閥の弱体化が一因ではないか。派閥解消は望ましいことだが、政策論のまとめ役は必要。平時から、本来の『政策集団』を作って役所やブレーンの知恵も利用しながら議論を重ね、骨太の策をじっくり練らないとならないが、それができていない。だから財務省という大きな船の政策に乗っかる人が出てくる」

(了。第1回から読む

※週刊ポスト2024年10月4日号

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