【岸田首相が突き進む「6月解散」】裏金議員の処分は、解散・総選挙とその先の自民党総裁選を見据えた「再選戦略」だったのか

岸田文雄・首相は何を画策しているのか(写真/共同通信社)

 岸田文雄・首相が「6月解散、7月総選挙」に打って出るシナリオが現実味を帯びてきた。自民党内で裏金問題の処分をめぐって怨嗟の声が渦巻くなか、岸田首相が自らの延命のためだけに練っている謀略の内実とは──。【全3回の第2回。第1回から読む

【写真】厳しい顔で歩く麻生太郎氏。他、裏金問題で処分を受けた世耕弘成氏、塩谷立氏なども

和歌山で二階氏と世耕氏の潰し合い

 自民党ではいま、裏金問題で処分を受けた議員から「不公平だ」と怨嗟の声が渦巻いている。

 離党勧告を受けた塩谷立・元文科相は「(企業なら)何かあったら社長が責任取る話が出る。まさに道義的責任だ」と総裁である岸田首相への処分がないことに不満を述べて再審査を要求した。

 岸田首相の後見人の麻生太郎・副総裁、茂木敏充・幹事長らはこんな状況での解散には「絶対反対」の立場とされる。

 それも岸田首相には都合がいいようだ。岸田側近が首相の胸の内を読み解いて見せる。

「総理はすでにルビコン川を渡っている。それでも麻生さんが解散を止めようとするなら、引退を勧告して国民に覚悟を示すことまで考えている」

 後見人さえ切り捨てるというのだ。政治評論家の有馬晴海氏も同じ見方だ。

「解散反対なら麻生さんには引退勧告、茂木幹事長は交代させ、選挙パフォーマンスに利用することは十分考えられます。岸田首相は自民党役員の任期を最長3年に制限したから、2人とも9月には任期が切れる。それを選挙前に早めるわけです。

 それだけではありません。選挙戦術上、『政治資金問題のケジメをつける』と離党勧告処分の塩谷氏に刺客候補をぶつけたり、処分を受けた裏金議員を全員公認しないことも考えているのではないか。彼らが落ちても“自民党の落選者”にはカウントされないし、当選した者だけ後で追加公認すればいい」

 こう見ると、岸田首相にとっては、今回の裏金議員の処分それ自体が解散・総選挙とその後の自民党総裁選を見据えた「再選戦略」に沿ったものだったことがわかる。

 だから真っ先に最大の障害になりそうな反岸田の大物、二階俊博・元幹事長を引退に追い込み、最大派閥の安倍派を大量処分で弱体化させ、同派幹部の中でも「国民が期待するリーダーとしての姿を示せていない」と岸田首相を公然と批判してきた世耕弘成・前参院幹事長を離党勧告処分にして“追放”した。

 しかも、引退する二階氏の和歌山2区では同氏の公設秘書を務める長男か三男が後継者として総選挙に出馬すると見られていたところ、そこに離党した世耕氏が参院から鞍替えして「無所属」で出馬する意向と報じられた。

 世耕氏の有力支持者が語る。

「世耕さんへの処分は重すぎると思うが、もともと衆院への鞍替え準備をしていたから、離党したことで自民党への遠慮なく衆院選に出馬できるようになった。二階さんの三男が出るとしても、次の選挙は荒れますよ」

 岸田首相にすれば、どちらも政敵。潰し合ってくれるなら思うツボだろう。

 岸田首相が強気でいられるのは、自民党内の反岸田勢力が一つにまとまれず、さらには党内の支持を集められそうな次の首相候補も見当たらないという事情も大きい。また、「世論調査で内閣や自民党の支持率が下がっても、野党への支持が高まっているわけではない。だからまだまだ延命が可能と自信を深めている」(前出・自民党関係者)のだとみられている。

第3回に続く第1回から読む

※週刊ポスト2024年4月26日号

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