新首相・石破茂が考える<政治とカネ問題>。「政治家はどんなカネをどう使うべきか、不断の見直しが必要。10年前の常識も現代では非常識に」
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【写真】「私は一貫して、国民が納得できるようなことを前倒しでやるべきだと申し上げてきた」と語る石破首相
収支を明確にできないカネの存在
政治活動を行うための必要経費については、すべて政治資金収支報告書に記載すればいいと思われるかもしれませんが、政治活動についてはもう一つ、公職選挙法と言うルールがあります。
このどちらも満たした活動でなければ合法な政治活動と認められないのですが、時としては一般常識を逸脱することもあり、それが「政治とカネ」の問題がなくならない理由の一つになっています。
例えば、地元で自民党の会合を開こうとしたところ、会場の都合で昼食の時間に重なってしまった。せっかく忙しいところ来てもらうので、簡単なお弁当でもご用意したい。というのが一般常識の範囲ではないでしょうか。
ところが、公職選挙法では、選挙区では基本的に何をもらっても、何をあげてもダメ。何をおごられても、何をおごってもダメ。ですからちゃんとしようと思えば、お弁当を出して会費を取るか、何も出さないか、どちらかなのです。
どうですか? そんな会合のお誘いが来たら、あなたは「なんて非常識なんだろう」と思いませんか?
これは一例にすぎませんが、こういった「ズレ」が積み重なって、報告できない使途、収支を明確にできないカネの存在を許していくのだと私は思います。
政策活動費とは
派閥からの金を「政策活動費」だと思っていたので、報告書に記載しなかった、という話もありました。
「政策活動費」とは、政党から政治家個人に支出される政治資金の費目の一つで、政治資金規正法は政治家個人への寄付を原則禁止していますが、「政党がする寄付」については、例外的に許容されています。
政治家個人への寄付というのがポイントで、政治家の資金管理団体には政治資金収支報告書の提出義務がありますが、政治家個人は資産公開と通常の確定申告のみのため、使途を報告する必要がないお金となっています。
総務省が23年11月に公表した22年の各政党の報告書によると、党から所属国会議員に渡された「政策活動費」の額は、自民党14億1630万円▽立憲民主党1億円▽国民民主党6800万円▽社民党700万円。日本維新の会は政党支部から5057万円を支出していた、となっています。
例えば議員間での会合費に使ったとして、その相手や金額まで分かるように報告してしまったら、どうでしょう?
それを見てそれぞれの議員が、「自分の時は1万円のお店だったのに、**先生の時は3万円の店だったのか」とわかってしまうのは、具合が悪いと思いませんか?
議員間でパーティ券を購入することもあります。これも同じ問題が起きます。透明にしてしまったら、「自分の時は2枚しか買ってくれなかったのに、**先生のパーティでは5枚も買っているのか」と思われてしまいます。とてもやりにくいことになります。
ですから、使途を明らかにしないカネがすなわち悪行三昧、ということではありません。
ただ、国民との信頼関係において、政治家はどんなカネをどういうふうに使うべきなのかについては、不断の見直しが必要ではないでしょうか。10年前の常識も現代では非常識になりえます。
政党助成金の捉え方
兎にも角にも実態を正直に説明することです。我々がどういう個人、企業団体からどれくらいの政治資金をいただいていて、それを何にどう使っているのか。
そのことがなぜ民主主義のコスト、すなわち政治活動の経費(秘書人件費、事務所維持費、政策立案経費、選挙経費)として許容されるのか。とことん見せ、批判を受け、改善し、そうなのか、と理解してもらうことです。
その糸口として、国民の血税から支給される政党助成金の話から始めるのはいかがでしょうか。
1996年の政治改革では、選挙制度の変更に加え、政治家が無理してカネ集めをしなくて済むように、国民一人コーヒー1杯分程度(250円)、1億2000万人をかけておよそ300億円強の税金が各党に交付されることになりました(共産党は受給辞退)。国会議員一人当たり4000万円くらいになりますか。
それだけ税で出しているのになぜそれ以上のカネがいるの? ということをよく聞かれます。国民の本音でしょう。
その質問から逃げてはいけないのです。中には、「そんなにかからない」という人もいますが、それは選挙区に対してどのような活動をするかによって変わってくるのです。
多くの人は、議員個人で使えるカネが4000万円だと思い込みますが、実態は、小企業の経費全体のようなものです。
個人年収4000万円と聞けば「贅沢だ」と思われるでしょうが、社員10人の会社の経費が4000万円と聞けばどうでしょう。「それでやっていけるの?」と思われる方のほうが多いのではないでしょうか?
そこから話が始まるのです。今回の事件でむしろ、私たちはいい機会をいただいたと捉え、これを機に政治とカネの実態を改めて、オープンに議論すべきだと思います。
「ユートピア政治研究会」はカネを徹底調査した
リクルート事件のことを思い出します。
88年の夏に発覚、私たちは当時の当選1回生10名でその秋に、武村正義衆院議員を座長に「ユートピア政治研究会」を結成し、政治活動になぜ、どのようなお金がどれほどかかるのか、徹底調査したことがあります。そして、その結果を公表しました。
もちろん個人差はありましたが、おおむね平均して年間1億円もかかっていたことに我々自身が改めて愕然としたことを覚えています。
第二のユートピア議連を作るべき、などと申し上げるつもりはありません。ただ、議員たちが自らの政治とお金の実態について、それなりのリスクを負って、国民に対し説明をした、という行為そのものは、一定の評価を受けたと思います。
今の政治刷新本部の動きを見る限り、どうしても受動的な姿勢を感じてしまうのは私だけでしょうか。
私は一貫して、国民が納得できるようなことを前倒しでやるべきだ、と申し上げてきました。
東京地検特捜部の捜査結果を受けて、その解明された事実関係に基づいた刷新策を講じるのは、最低限の仕事ですが、もっと国民を信用し、国民の胸に飛び込んでいくつもりで、これからの政治とカネのあり方を抜本的に議論するべきではないでしょうか。
※本稿は、『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社)の一部を再編集したものです。
11/19 12:30
婦人公論.jp