財産管理していた高齢姉妹から2000万円横領した疑い、介護施設元社長を逮捕…自宅を売却させ全財産奪ったか

 通所介護施設を利用する高齢姉妹と財産管理契約を結びながら、無断で口座から計約2000万円を引き出すなどしたとして、大阪府警は26日、施設運営会社元社長の男(38)(大阪市城東区)を業務上横領などの容疑で逮捕した。捜査関係者への取材でわかった。ほかにも、姉妹に自宅を売却させて代金約800万円を得ていたといい、府警は、全財産を奪ったとみて捜査する。

大阪府警察本部

 介護従事者が利用者の財産を奪うケースは相次いでいるが、全財産が狙われるのは極めて異例。

 男は施設運営会社「アッラサルテ」(大阪市鶴見区)元社長で、2016年から通所介護施設「りはびりぷらすDayService」(同区、閉鎖)を運営。捜査関係者によると、男は施設に通う70歳代と80歳代の姉妹と財産管理を行う契約を結び、21年5~7月、姉妹から預かったキャッシュカードを使い、大阪市内のコンビニ店の現金自動預け払い機(ATM)で約100回にわたって金を引き出し、計約2000万円を着服するなどした疑い。

 姉妹は近くに身寄りがなく2人暮らしで、19年1月から同施設に通っていた。認知症ではなかったが、姉は寝たきりで、妹は目が不自由だったという。

 男は21年5月から姉妹の通帳やキャッシュカードを管理していた。「解約する」と偽ってクレジットカードも横領し、勝手に使っていたという。

 引き出された約2000万円には、姉妹の生命保険や葬儀積立金の解約金が含まれており、男が「現金で持っていた方がいい」などと提案したという。姉妹が22年6月、大阪市内の自宅の戸建て住宅を不動産業者に売却した際も男が主導し、代金を受け取っていたとみられる。

 姉妹はその後、同市内の賃貸マンションに転居。2人とも要介護5の認定を受け、口座残高はほぼゼロになっていた。現金もほとんど残っておらず、姉妹は府警に「お金がなくて夏は冷房を使えなかった。食事も満足にできず、食パン1枚を2人で分けていた」などと説明している。姉は23年7月、室内で熱中症となり救急搬送された。

 マンションの女性清掃員が姉妹と世間話をした際、男が口座を管理していると知って不審に思い、同8月、清掃員の夫が市の地域包括支援センターに連絡。相談を受けた府警が捜査していた。施設は同9月に閉鎖された。

介護従事者の事件後絶たず

 介護従事者が利用者の財産を狙うケースは後を絶たない。警視庁は今年1月、訪問介護先の高齢男性のクレジットカード情報を不正使用して玩具を購入したとして、元職員を窃盗容疑などで逮捕。北海道警も2022年10月、利用者のキャッシュカードで不正に現金を引き出した窃盗容疑で通所型介護施設の職員を逮捕した。

 厚生労働省は高齢者虐待の一種として、金銭の窃取や財産の無断売却などを「経済的虐待」と定義。家族以外に介護職員が加害者になったケースでは、被害者数はピークの14年度(117人)から一時減少が続いたものの、20年度以降は50人台で高止まりしている。

 被害を防ぐため、判断能力が不十分な高齢者らの財産管理や生活支援を、家庭裁判所が選んだ弁護士などに任せる「成年後見制度」があるが、被害に遭った姉妹は利用していなかった。

 日本高齢者虐待防止学会の池田直樹理事長は「身体的虐待に比べ、経済的虐待の被害は見えにくく、把握された事案は氷山の一角だろう」と指摘。自治体による積極的な実態把握が必要だとし「要介護認定を判断する際、誰が資産を管理しているかチェックする項目を追加するなどの目配りが必要だ」と訴えている。

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