〈岸田おろし・加速〉国賓訪米でご満悦もこれが「卒業旅行」に? 帰国後に待ち受ける難局の数々…補選“全敗”、“ポスト川勝”をめぐる静岡県知事選も新たな火種に

国賓として訪米し、アーティストのYOASOBIとともに招待されたホワイトハウスでの晩餐会では、冗談を交えた英語でのスピーチで爆笑を誘うなど、ご満悦だった岸田文雄首相。だが、帰国後はただちに難局が待ち受けている。4月28日投開票の3補選では、「全敗」の現実味が日に日に増し、野党系の川勝平太静岡県知事が「職業差別発言」で辞任したことを受け、本来なら自民に追い風のはずの知事選も、政権の新たな悩みの種になりつつある。

誤算つづきで補選「全敗」も

「多くの豪華なゲストに息をのみ、妻には『誰が主賓かわからない』と言われました。大統領のすぐ隣の席に案内されたときはホッとしました」

日本時間4月11日未明、岸田首相はYOASOBIやロバート・デ・ニーロら著名人も招かれたホワイトハウスでの公式晩餐会で冗談を述べ、会場が大きな笑いに包まれると笑顔を見せた。

だが同じ日の永田町では、東京15区補選の情勢調査とされるデータが一斉に出回り、衝撃が走っていた。

「各党の調査として複数の調査結果が出回り、いずれの調査でも都民ファーストの会が推薦する乙武洋匡氏が苦戦を強いられていることが明らかになりました」(全国紙政治部記者)

裏金問題の逆風から公認候補の擁立をあきらめた自民は当初、小池百合子都知事の人気にあやかり、乙武氏を推薦することで「1勝」を確保する算段を立てていた。
しかし、乙武氏が出馬会見で自民の推薦について「おそらく逆風になる」と述べたことで推薦に向けた動きが難航。公明も過去に女性スキャンダルが報じられた乙武氏の推薦には難色を示した。

さらに「文藝春秋」が小池氏の元側近による「私は学歴詐称工作に加担してしまった」との証言を報じたことで小池氏の学歴詐称疑惑が再燃したこともあり、乙武氏への支持は広がらないとみて、12日には推薦を見送ることを決めた。

だが、自民が東京15区で乙武氏を推薦せず候補を擁立しないと、3補選のうち不戦敗は長崎3区も合わせ「2」となる。さらに、残る島根1区でも、自民の新顔が立憲の元職に苦戦している状況だ。

「立憲元職の女性候補は、保守層にも食い込み、知名度もある。さらに、細田博之前議長の弔い選挙とはいえ、細田氏は旧統一教会問題や女性記者へのセクハラ疑惑も抱えていた。そこに裏金問題も直撃。本来なら、同じ派閥の安倍派の議員秘書らがこぞって選挙戦の手伝いに訪れるはずですが、そんな動きもほとんど聞こえてきません」(自民関係者)

菅義偉政権下だった2021年4月には、補選など国政3選挙で自民が「全敗」し、菅氏は半年後の総裁選に出馬できず、衆院解散もできずに退陣に追い込まれたことは記憶に新しい。そうして誕生したのが岸田政権だった。

「全敗となると、『岸田おろし』も現実味を増す。そんな状況で本当に衆院を解散できるのか。周りが止めるのではないか」(自民関係者)

「ポスト川勝」では自民静岡県連が迷走

国政3選挙に加え、ここにきて5月26日に投開票される静岡県知事選をめぐっても自民の動揺が目立つ。野党系の川勝平太知事が「職業差別発言」で辞任したため、本来なら自民が勢いづくはずの選挙だが、対応が遅れているのだ。

知事選にいち早く名乗りを上げたのは、静岡県で副知事を務めたこともある元総務官僚の大村慎一氏。一方、スズキの相談役、鈴木修氏を中心とした県西部の経済界が前浜松市長の鈴木康友氏を推す。

「川勝氏は当初、6月議会をもって辞職する意向でしたが、4月10日に辞表を提出。県議会最大会派から早期の辞職を求められたこともあり、『なるべく早く私が去るのが県民のためになる』と辞表提出を早めた理由を述べましたが、これまでさんざん県議会と対立してきた川勝氏が議会の意向など聞くはずもありません。

鈴木康友氏と川勝氏双方の後ろ盾となっていた鈴木修氏が、康友氏の戦いを有利に進めるため、川勝氏に早期の辞任を求めた、とささやかれています。短期決戦となれば、知名度が不足する大村慎一氏にとって不利になりますからね」(静岡県関係者)

まるで修氏のペースで進んでいるかのような知事選で、自民静岡県連の対応は後手に回っている。

自民静岡県連内では県西部を中心に康友氏を推す動きがある一方、「浜松市長を務めていた康友氏では、浜松市とは離れた県中部や県東部からは支持を集めにくい。大村氏の方が県中部や県東部の声も反映できる」と、大村氏を推す声もある。

14日には静岡県連が対応を協議したが、結論は出ず、2人の政策を聞いたうえで今週中に方針を決めることになるなど、対応が遅れている。

「静岡県連では、本来議論をリードするはずの安倍派のベテラン、塩谷立氏が裏金問題で離党勧告処分を受け、再審査請求を申し立てるなど、それどころではありません。候補者を一本化できたとしても、県連内にしこりが残るかもしれません。

県連に所属する地方議員は、国政選挙で手足となって活動する存在。地方議員の間にしこりが残ると、国政選挙にも影響が出てくるのです。裏金問題が地方選にも影響を与え、地方選で自民の足元がゆらぐと中央政界にも動揺が波及する、という悪循環に陥る可能性が出てきます」(全国紙政治部記者)

国賓としての訪米が、首相の「卒業旅行」になってしまうかも……。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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