ふるさとで「ずっと家で暮らしたい」を支える 少子化に過疎化…町で唯一の訪問介護事業所を運営する女性(31)

岐阜県郡上市の山あい、標高約600メートルに位置する「高鷲町」。冬には多くの雪が積もり、停電が起きることもあります。少子化と高齢化による過疎が進む高鷲町で、唯一の訪問介護事業所を運営する、31歳の女性の日々に密着しました。

ふるさとに住む人々を支えたい…Uターンで立ち上げた訪問介護事業所

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高鷲町で生まれ育った田代果穂さん(31)は、高校卒業後、ふるさとを離れて京都の短大へ。結婚して子どもを出産しましたが、その後離婚。介護士の松下武文さんと出会い、3年前に訪問介護の仕事をするため、3人で高鷲に帰ってきました。

この日も降り続ける雪の中、助けを必要とする高齢者の家へ向かいます。サービスを利用しているのは、高鷲に移住して20年になる伊藤洋介さん(77)。もともと々山で暮らすのが夢で、薪ストーブを備えた家で、定年後は念願のスローライフを満喫していました。しかし、昨年から体力が衰え、転んでケガをするようになり、家事援助を依頼するようになりました。

(伊藤洋介さん)
「階段でうずくまっていた時にヘルパーさんが来て、起こしてくれたこともあった。年をとって、こんなふうになるなんて思わなかった。訪問介護があるのは本当に助かる」

田代さんと松下さんは、1日で7~8軒をまわっています。利用者のほとんどが昔からの顔なじみの間柄で、気兼ねしないよう、制服は作っていません。

この日、2人が訪れたのは、要介護認定を受けている井藤貢さんと愛子さん夫婦。子どもは都会へ出て、今は86歳と82歳の二人暮らしです。田代さんは、デイサービスを利用しているか様子を聞きながら、手際よく衣類を洗濯します。

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田代さんたちが特に力を入れているのは、食事の支度や洗濯など家事の支援。普段からの生活を支えることで、ずっと自宅で暮らすことができるようにサポートしています。

(田代果穂さん)
「住み続けた家だから愛着もあるだろうし。施設が悪いとは思っていない。施設に住むのもいいけれど、家で住みたいという人の気持ちを大事にしていきたいと思います」

仕事が終わるのは午後7時ごろ。5歳の息子・秀鷹くんの面倒は、いつも両親に見てもらっています。晩ご飯は5人で一緒に食卓を囲みます。田代さんは、両親の近くで住むようになり、「安心して暮らせる町にしたい」という思いを強くしたといいます。

(田代果穂さん)
「両親のためにできることをしたいと思いました。視野を広げて、困っている独居や、家族が遠方に住んでいる高齢者さんのお手伝いや支えもできたらいいなと思いました」

ふるさとで必要とされているのは…“ちょっとした助け”だった

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実家の離れを自分たちで改修して、訪問介護事業所を立ち上げたのは2023年6月。仕事を始めてみて分かったのは、介護ではなく、「ちょっとした助け」を必要としている人が、予想以上に多いことでした。

(田代果穂さん)
「ご飯を出してほしいとか、買い物に行ってほしいという依頼が多く、みんなが、そこに困っているということに気付きました。そういった気持ちに応えることが大事だから、守っていきたいなと思います」

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雪が融け、小さなフキノトウを見つけた田代さん。長い冬も終わり、ようやく高鷲にも春が訪れようとしています。高鷲町では「冬季入所」という形で、3か月間だけ施設で冬ごもりをして、春とともに家に戻る人も多いそうです。

(田代果穂さん)
「入所したままの人もいるけれど、何人かは家に帰ろうって。私たちが高鷲で訪問介護を作ったから、帰ってきてくれたのかなと思いました。本当は家で住みたいけど、泣く泣く施設に行くことになったという人を減らしたいです」

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過疎が進み、消滅する可能性も指摘される大切なふるさと。それでも田代さんたちは、そこで暮らしたいと願う人々を支えるため、きょうも住民のもとを訪れています。

CBCテレビ「チャント!」4月9日放送より

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