寝たきり社長が “利用者主体” のヘルパー事業所を設立 目と唯一動かせる左の親指を使って申請書類も作成 「与える側になりたい」

重度の障害と向き合いながら次々と事業を立ち上げている、自称「寝たきり社長」・佐藤仙務さん。“重い障害があっても安心して暮らせる社会を作りたい”と、新たな事業の立ち上げに取り組んでいます。そんな佐藤社長のチャレンジに、CBC大石邦彦アンカー(以下、大石アンカー)が密着しました。

寝たきり社長が “利用者主体” のヘルパー事業所を開所!

自称「寝たきり社長」を名乗っているのは、佐藤仙務さん(32歳)。使えるのは目やわずかに動かせる左手の親指一本ですが、常に挑戦し続け、前に進んでいます。佐藤社長の新たなプロジェクトについて尋ねました。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「障害者向けのヘルパー事業所を開所することになりました」

高齢化が進む中、障害者や高齢者などの介護を行う訪問介護事業所数は右肩上がりで、2022年には約3万5000に増加。一方で、課題もあります。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「サービスを提供する事だけが目的になっていたり、利用者が主体ではなくビジネス色が強くなっている」

重い障害があっても安心して暮らせる社会を作りたいとネットで資金を募り、新たな事業所を設立するといいます。

2024年1月7日、この日は名古屋市熱田区で借り上げた新しい事務所の引き渡し。まだ事務所は何もなくがらんとした状態で、必要なものはこれからそろえていくことになります。その後、事業の成功を祈願するため、事務所近くにある熱田神宮へ向かいました。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「ホームケアステーションも始めますので、その思いも込めて参拝してきました」

おみくじをひくと、結果は「吉」。幸先がよさそうです。

「視線」と唯一動かせる「左の親指」を使って書類も作成

CBC

2024年2月には、名古屋市役所に福祉施設を開設するための書類を提出。全部で70枚以上そろえ、事業開設の申請を済ませることができました。これらの申請書類は、全て佐藤社長が自分で作ったといいます。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「大変でした。(提出書類が)本当に多くて、当分書類はうんざりしている」

佐藤社長が使っているのは、視線入力装置。視線を検知して文字を選びキーボードを操作、唯一動かせる左の親指で選択。この繰り返しで、文章や表を入力していきます。試しに佐藤社長に口頭で読み上げた一文を入力してもらうと、漢字変換も含め10秒で完了しました。取材していた大石アンカーも視線入力装置を体験しますが、視線でのコントロールは非常に難しく、思い通りに入力できません。

佐藤社長は幼い頃から、全身の筋肉が衰える難病「脊髄性筋萎縮症」と闘っています。特別支援学校を卒業しましたが、就職できませんでした。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「だったら自分たちで会社を起こそうと考えた」

自宅で名刺やホームページをつくる会社を立ち上げたのが始まりでした。会社が軌道に乗ると、通信制大学院で国際的なビジネス資格であるMBA(経営学修士)も取得。人気のフルーツサンド店、コロナ禍で注目されたキッチンカーなど、飲食業界にも参入しました。さらには地元の中学校から公演を依頼されたり、野球チームの名誉顧問を引き受けたりと、活躍の場は広がり続けています。

事業所の名前は「さてと」 “毎日に希望を持てる手助けを”

CBC

2024年2月22日、名古屋市に立ち上げた訪問介護事業所の準備が整っていました。ここの責任者は、佐藤社長のヘルパーだった神谷勇太さんです。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「(Qヘッドハンティング?)そうですね、ヘッドハンティングですね。(Q色んな事業を展開しているから人材の大切さをよくわかっている?)人が一番大事ですね」

佐藤社長は、利用予定者の本田佳吾さん(45歳)の自宅を訪れました。本田さんは、筋力が衰えていく難病、筋ジストロフィーと向き合っています。利用者の要望を聞き取り、移動介護の確認なども行いました。佐藤社長は介護だけではなく、介護ヘルパーの育成にも力を入れていくといいます。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「ヘルパーがいなかったら仕方ないと健常者の方は言うんですけど、(障害者が)日常生活を営む上で“仕方がない”だけで済む話ではない」

事業所の名前は「さてと」。そこに込められているのは「さてと、今日はどんな日にしようかな」と毎日に希望を持てるよう手助けしたいという思いです。

(仙拓・佐藤仙務社長)
「自分が与えられる側ではなくて、与える側になりたい。障害がある人の人生の選択肢を広げていくためには、いろいろなチャレンジを続けていきたい」

寝たきり社長の新しい挑戦は、これからも続きます。

CBCテレビ「チャント!」2月26日放送より

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