「子ども歌舞伎」が半世紀の歴史に幕 地区の小学校も150周年の節目に閉校 最後の晴れ舞台に挑む子どもたちに密着

愛知県の奥三河にある山あいの町、設楽町。人口は約4000人と、この30年でほぼ半分に減り、今も少子高齢化が進行し続けています。町の中心部からさらに車で20分のところにある地区唯一の学校「町立田峯小学校」も、創立150周年を迎える2024年3月に閉校します。今年で最後となる、この地区の郷土芸能「子ども歌舞伎」に取り組む子どもたちを追いました。

生徒数5人以下…開校150周年で閉校が決定

CBC

愛知県設楽町田峯地区にある町立田峯小学校。この地区唯一の学校で、全校児童は5人だけです。算数の授業で割り算をしているのは、4年生の竹下真央さん。3年生の小野田仁平君は、掛け算の計算問題を解いていました。児童が少ないため、違う学年の子どもが一つの教室で授業を受ける複式学級を採用しています。

CBC

今年度1年生はいないため、2年生の山下絢子さんはほとんどの授業が一人きりです。国語の授業で作った物語を発表しますが、聞いているのも、先生だけ。10年以上前から全校児童の数は10人程度しかおらず、2020年からは10人を下回るようになりました。

CBC

(田峯小学校・村松敦雄校長)
「子どもたちの数が減っていくということも踏まえて、(開校)150周年のことしを閉校の年に。地域の皆さんにとっても苦渋の選択という部分はあったと思う」

田峯小学校は2024年3月末での廃校が決まったのです。子どもたちは4月以降、10キロほど離れた町の中心部の小学校へ、スクールバスで通うことになります。

CBC

(4年生・竹下真央さん)
「(同級生と)交流できるのはいいけど、慣れるかなと思って…田口小学校と」

(2年生・山下絢子さん)
「私もそれだけ心配」

子どもにとって同級生が増える良い面もありますが、住民からは不安の声も。

(田峯地区の役員)
「学校ってとても大切なインフラですので、若い夫婦や子育て世代の夫婦が学校のない地域に(移住して)来るかというのはとても心配」

学校がなくなることによって、人口が維持できず、消滅する地域になるのではないかと不安を口にします。

移住者を増やすために手を尽くすも限界が…

40年ほど前から、すでに少子化が問題になっていた田峯地区。若い世代を呼び込もうと地区総出で手を尽くしてきました。自分たちで宅地を造成し一坪2万円と格安で分譲。13世帯が都会からこの地区へ移住しました。

CBC

22年前、愛知県江南市から移住した竹下好子さんは4人の子どもをここで育て、少子化を食い止めるのに一役買いました。

(愛知・江南市から移住・竹下好子さん)
「地域の皆さんのあたたかさ、うまいこと褒めながら育ててくれた」

しかし4人全員が成人して設楽町を出ました。止まらない少子化と、その結果である小学校廃校については。

(愛知・江南市から移住・竹下好子さん)
「さみしいっていうのと、子どもがいないと村の繁栄の先がないなと…」

そして今年、もう一つ象徴的な変化がありました。放課後の子どもたちが真剣に取り組んでいるのは「歌舞伎」。元々江戸時代から村歌舞伎が続いてきた田峯地区では、田峯小学校に通う子どもだけで演じる子ども歌舞伎も、地元の伝統になってきました。半世紀続いたこの子ども歌舞伎も、小学校廃校に伴い、今年が最後です。

CBC

(歌舞伎を受け継ぐ住民)
「息子がまだ小さいので、できればやらせたいなと思っていたんですけど…」

毎晩練習に打ち込む子どもたち。演目は盗賊5人衆が名乗りを上げる「白波五人男」です。2年生の山下絢子さんもいました。

(2年生・山下絢子さん)
「(Q傘、重たい?)ちょっと重たい。最初は(もっと)わーっって(震えた)」

CBC

この演目に欠かせないおおきな傘を持つのも、7歳の絢子さんには一苦労。それでも、一生懸命セリフも覚えます。子どもたちは平日の夜だけでなく、休みの日にも練習。4年生の竹下真央さんは、聞いたこともない言葉に苦戦します。また、授業の合間にも児童たちは集まり、少しでもうまくなるために練習を重ねました。

最後の子ども歌舞伎が幕を開ける

迎えた子ども歌舞伎当日。村歌舞伎の奉納には毎年多くの観光客も訪れ、田峯地区が1年で最も活気づく日でもあります。

(豊川市から来た人)
「子ども歌舞伎(を見に来た)。田峯小学校が廃校になると聞いて」

CBC

子どもたちは大人の歌舞伎の間に、観音様にご挨拶をして準備を進めます。化粧をすれば、立派な歌舞伎役者の出来上がりです。

(2年生・山下絢子さん)
「あんまり間違えないようにしたい」

CBC

いよいよ本番。5人が歓声を浴びながら花道を歩きます。

(4年生・竹下真央さん)
「女に化けて美人局」

CBC

練習では意味が分からなかった単語も、たくさん練習してイントネーションもばっちりです。堂々とした台詞回しと見得を切る姿に、今日一番の歓声とおひねりが飛びます。見せ所も完璧にこなした子どもたち。およそ50年にわたって受け継がれてきた伝統の子ども歌舞伎も、これで一旦は幕を下ろすことになります。

CBC

(歌舞伎奉納を受け継ぐ谷高屋・熊谷浩一座長)
「(今後、希望する田峯の子どもに)大人に混じって踊ってもらうのと、田峯以外の子どもたちも(歌舞伎を)踊りたい人がいれば受け入れたい。新しい形というか人が少ないので、興味がある人がいれば踊ってもいいんじゃないか」

(3年生・小野田仁平くん)
「地元の郷土芸能、歌舞伎に関われるっていうのはありがたいと思うし、大人になってもこういう郷土芸能は守りたい」

CBC

少子高齢化が止まらない中、地方の集落の伝統や文化をどう守っていくのか。山あいの小さな小学校と伝統芸の終わりを通して、改めて問いかけられています。

CBCテレビ「チャント!」2月14日放送より

ジャンルで探す