【紅麹問題で注目される“サプリメントの闇”】すべての製品の有効性・安全性が担保されていない実情、「機能性表示」という仕組みにも問題アリ

“業界の闇”が次々と明るみに(写真/PIXTA)

「老化による視力低下を食い止めたい」、「血圧やコレステロール値を下げたい」、「シミやしわを薄くしたい」──健康や美容を願って手にしていたはずのその一錠、一剤が実はあなたの体に害を与えていたことが紅麹騒動で明らかになった。“気軽に手に入れられる健康と美容”の代償について考えたい。【前後編の前編。後編を読む

【一覧表】サプリメント健康食品による危険事例

“業界の闇”ともいうべき点が次々と

 衝撃の事実が明らかになった3月下旬から、事態は混迷を深める一方だ。紅麹を原料とした小林製薬のサプリメントによる健康問題は入院患者が226人、相談件数は約7万3000件に上るなど(4月15日現在)、いまも収束の兆しが見えないどころか、サプリメントの効果効能、副作用、製造過程における問題点など、“業界の闇”ともいうべき点が次々と明るみに出ている。

 一連の問題について焦点となっているのが、「紅麹自体に問題はなく、なんらかの要因により青カビ由来で毒性がある天然化合物・プベルル酸が混入した」ということだ。しかし、そもそもサプリメント自体の効果効能について、東京大学非常勤講師の左巻健男さんは疑問を呈する。

「のめば健康になる、不調が改善するなど、まるでサプリメントを医薬品と同じようにとらえている人が多いのですが、まったく異なるものです。サプリメントはあくまで食品であり、薬のような効果はありません。サプリメントの法規制は食品衛生法によって定められており、有効性も安全性も薬とは違う」

 また、異物が混入せずとも成分そのものが危険なものもある。

「効果についての根拠は非常に曖昧です。それどころかなかには有害事例を引き起こす可能性のある成分も多数報告されています」(左巻さん)

 薬剤師で、和光鍼灸治療院・漢方薬局代表の平地治美さんも、サプリメントの効果については懐疑的だ。

「医薬品は、ものによっては何十億、何百億円というお金と、何十年という開発期間を経て世に出ます。一方で、健康食品であるサプリメントの場合は、自由に製造・販売することができる。今回のように大きな健康被害が明らかにならない限り、販売中止などの措置をとられることもありません。

 品質の維持についても医薬品のような厳格さは求められないため、商品によって品質にばらつきもあり、すべての製品に有効性や安全性が担保されているとは言い難いのが実状です」

 そもそも、人間を対象とした集団効果の調査すらできているとは言い切れないと、左巻さんは続ける。

「人体にどの程度の効果があるかを調べるのは莫大な時間とお金がかかる。それらをせずに、試験管や動物実験レベルで済ませているケースもあります」

 紅麹を原料とした小林製薬のサプリメントについて、製造工程や衛生管理体制などを確認するため厚労省職員らによって子会社の和歌山工場への立ち入り検査が行われた(3月31日)。

新たに18製品の健康被害が報告

 紅麹問題では、サプリメントを含む健康食品の効果効能を“保証する”とされる「機能性表示」という仕組みの問題点も浮き彫りになった。現在、機能性表示食品として消費者庁に届け出があるのは約7000件。問題を受けて、自見英子消費者相は一斉点検の実施を表明した。消費者庁は4月12日、小林製薬の製品以外に、11事業者の18製品で計117件の健康被害報告があったと発表。下痢や湿疹などのほか、入院に至るほどの重篤なケースもあったという。また、これまで届け出された商品のうち、およそ1500製品が届け出を撤回していることも報じられた。

 食品表示アドバイザーの垣田達哉さんが解説する。

「安全性や効果効能については製造する事業者任せで、国の審査は必要ありません。書類上の不備がなければ、届けを出せば受理されてしまう。国が認めているのはあくまで“書類上の情報”だけで、原料や製造過程、安全管理についてもノータッチといっていい」

 申請時には効果を証明するための論文を提出する必要があるが、それすらも“形式的なもの”だと言うのは左巻さんだ。

「科学的根拠を示すためのものですが、この論文すら“作成を請け負う”会社があります。なかには、数十人程度のアルバイト要員を集めて、短期間で調査しただけの結果を論拠としてまとめるという杜撰な内容のものもある。国は一件一件、精査などしないのでそれでも通ってしまうわけです。

 個別に国の審査を受けるトクホ(特定保健用食品)ですら、導入当時は“効果はわずかしかない”と批判されたのに、機能性表示食品は比べものにならないほど制度が緩い」

 パッケージや宣伝の売り文句も、景品表示法で規制はされているものの、グレーゾーンにある表示は多々見受けられる。

「かつて、“潤う”という効果をうたっているコラーゲン飲料のメーカーに、“何がどのように”潤うのかを問い合わせたことがあります。

 コラーゲンというからには肌か髪の毛かと思っていたら、その回答はなんと、“のどが潤う”。ドリンクでのどが潤うなんて当たり前のことですよね。誤解を招くギリギリの宣伝が許されているのが、サプリメントなのです」(左巻さん)

 目に見えた効果や効能がないことがむしろ仇となり、“お守り”のようにのみ続けてしまう人が多いのもサプリメントの特徴だ。

「医薬品には効能があるから、症状が治まれば服薬をやめることになります。サプリメントはそうした効果を望めないことも多々あり、またのんでいるということだけで“健康にいいことをしている”という気持ちになって、漫然とのみ続けてしまう人が少なくない」(垣田さん)

副作用については“薬じゃないから大丈夫”と思いがち

 副作用についての問題意識が希薄であることも今回の悲劇を招いたと左巻さんは指摘する。 「サプリメントにほとんど効果がないという前提でいえば、効果がある場合には同じだけの強い副作用があると考えていいでしょう。

 薬のような効果を期待している人が多い一方、副作用については“薬じゃないから大丈夫”とダブルスタンダードになってしまうのがサプリメントの落とし穴。病院に行くほどの不調が表れてからでは手遅れになるほど、気づかぬうちに体が蝕まれるリスクについてしっかりと考えるべきです」

 危惧されるのは、効果効能の不確かさや副作用のリスクだけではない。

「すでに話した通り、サプリメントはその安全性も健康効果も極めてギリギリのところにあります。それでも販売に踏み切るのは、“健康な人がのむ”ことを大前提にしているから。“健康な人なら”効果が期待できる、“健康な人なら”副作用の心配も少ない——だから1日○錠、毎日○粒のめばさらなる健康効果が期待できる“かもしれない”ということ。

 それにもかかわらず、実際にのんでいるのは高齢者や持病のある人が大半です。健康状態が悪い人がのむことで症状が悪化したり、持病の薬とののみ合わせが悪ければ命を落とす危険すらあります」(左巻さん)

 平地さんも強調する。

「サプリメントとはそもそも、“足りないものを補う”という意味です。病気を治して健康になるためのものではなく、健康な人に不足している栄養素や成分を補うためのものと捉えるべきでしょう」

(後編に続く)

※女性セブン2024年5月2日号

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